天上岬

 
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天上岬 ~とこしえの姫君~

 プロローグ(天上岬にて)




手つかずの自然が溢れる楽園、天上岬──
そのどこからでも見ることができる巨木──
それが皆から愛されるシンボルツリー、"とこしえの樹"です。
天高くそびえ立つ樹は、人々の心の拠り所になり、
天上岬の人々をずっと優しく見守ってきました。


その愛すべき"とこしえの樹"が、今まさに【生まれ変わり】の時を迎えたのです。

しかし人々はこれから訪れる不穏な空気にまだ気付いていませんでした。
なぜなら、【生まれ変わり】は、幾千年に一度訪れることなので、
誰もどういう事態が起こるのか知らなかったのです。



いつものように花畑へ香料を摘み取りにきたファムフェルチの仲良し姉妹は、
この日、初めてその異変に気づきました。

「あれ、お姉さま? このレモネードリーフ、ちょっと様子が変じゃない?」

そう言ってファムが姉のフェルチに葉を差し出しました。
いつもなら若竹色に輝いているはずの葉色が、どういうわけか黄色く変色しているのです。

「ほんとね……どうしたのかしら」

改めて周囲を見回すと、ところどころ枯れた箇所があるのが分かりました。

「最近よく、魔物たちの鳴き声が聞こえてくるようになったけど……
 これとなにか関係があるのかなぁ?」




異変の原因はつかめないまま、数日たったある日。
二人のもとに、一人の少女がやってきました。

「あ、あの……私……調香師になりたいんです!」

アネーロと名乗った少女は、ずっとふたりに憧れていて、
今日、思い切って声を掛けたのだとのこと。

「この仕事は、あなたが思っている以上に大変な仕事よ?」
「魔物にだってよく遭いますもんね」

フェルチファムが心配そうにそう言うと、アネーロは元気よく返事をしました。

「それでもいいんです! アタシ、認めてもらえるまでずっと来ますから!」




一方そのころ、"とこしえの樹"では、異変が起きていました。
古い母樹が宿した小さな"タネ"――その行方が分からなくなってしまったのです。
"とこしえの樹"は、――生まれ変わるほんの少しの間だけ、
結界の力が弱くなる――という現象が起きます。
そんな時、ちょうど間が悪いことに母樹から落ちたタネはコロコロと坂道を転がり、
結界をすり抜け、魔物たちで溢れる外界で迷子になってしまったのです。
――このままでは、"とこしえの樹"は、生まれ変われません!

そしてこの出来事が、ファムフェルチの仲良し姉妹を
冒険の旅へと向かわせることになるとは……
この時のふたりには知る由もありませんでした。


※話の最初に戻る

 プロローグ(クエス=アリアスより)

──今日は君とウィズにとって久しぶりの休日。
──あてもなくトルリッカの街を散策しようということになった。
広場からちょっと外れると、結構知らない場所があるもんだにゃ。
──朝の冷たい風が心地いい。
──ふと、どこからか運ばれてきたのか、甘い香りが漂ってきた。
なんにゃ? この香り……。
……こっちから漂ってくるみたいだにゃ!
──匂いの元を辿っていくウィズの後を、君は追いかける。
──すると……
にゃにゃ? ……こんなところに温室なんてあったかにゃ?
──路地裏にひっそりと建つ、ガラス張りの建築物。
──どうやら、香りの発生源はここのようだ。
ちょっと入ってみるにゃ……
──ウィズは吸い寄せられるように、フラフラと温室の中へと足を進める。
──そして、君も。
──怪しいとは思いつつも、香りの魅力に、抗うことができない……!
どうやら、匂いはあの花からしてるみたいにゃぁ……
──ウィズの言葉に視線を上げると、どこか妖しい雰囲気を漂わせている、大きな花があった。
とってもいい香りにゃ~……ほら、君も嗅いでみるといいにゃ?
──君は言われるがまま、その花に鼻先を近づけた。
──甘く、深い香り。どこまでも優しく、君を包み込んでくれるような……


むにゃ……。

──そう、まるでベッドの上で、毛布に包まれている時みたいに……
──君の意識は、ゆっくりと、ゆっくりと、甘い香りの奥へ、沈んでいく……
※話の最初に戻る

<登場キャラ>
ファムフェルチアネーロカルテロ
ブレドベアードエテルネロゼッタ
ジャガードソリッサファラフォリア
<ストーリー描写無しのキャラ>
ヴェレッド


第1話 とこしえのタネ


第2話 命をはぐくむ泉


第3話 森の守り神


第4話 天上岬の空


第5話 とこしえの転生

ー <困った。困った。すごく困った。> ー
フェルチから右端まで読み進んでから、下段に流れる事で時系列になります。
↓エピローグへ

 エピローグ(天上岬より)





ファムー、ファムー、起きなさーい、もうごはんできてるわよー?」

フェルチお姉さまの大きな声がする。
私はまだねむい目をこすりながら、ベッドの上でムニャムニャとあくびをする。

「んんん……まだ眠いですー……」
「めっ! さっさと起きる! エテルネアネーロはもうご飯食べてるんだから」

言いながらお姉さまは視線を移し、釣られて私もその方向を見た。



「あのね、エテルネ。何度も言うようだけど、私の方がファムさまとフェルチさまに
 弟子入りしたのが早いんだから、ちゃんと敬意を払って──」
「ヤです。アネーロがもうちょっと植物とかの知識ついたら考えますけど、
 今はまだ私の方が勝ってますもん」
エテルネは"とこしえの樹"の知識とか記憶受け継いでんだから、私が勝てるわけないじゃない!
 それよりね、バターはパンに塗って食べるの! パンと別々にパクパク食べない!」
「えっ!? 一緒に食べるって、こうじゃないんですか……?
 どうりで美味しくないと……」
「いいから、ナイフ貸しなさいよもぉぉ……こうやってパンに塗るのよ、ほら!」
「ありがとうアネーロちゃん。……おお……美味しい」



食卓の上でいつものやり取りをしながら、エテルネアネーロブレド特製のパンを食べている。
まるで姉妹のようなその様子に、私とお姉さまは思わず吹き出してしまった。

「工房もにぎやかになりましたねぇ、お姉さま」
「ええ、ほんと。毎日飽きないわ」



あれからエテルネアネーロに続く新しい私達の弟子として、工房に住むことになった。
ベアード教授の話によれば、本来植物に近かったエテルネは、
今は何故かより人間に近い生物に変化しているみたい。
エテルネいわく、「ファラフォリアのおかげ」ってことだったんだけど、私は詳しくは聞かなかった。
言いたくなったら、きっとあの子の方から話してくれるはずだと、私は思ってる。

カルテロブレドは、相変わらずケンカばっかり。
でも、最近ブレドロゼッタにやたらと好かれてて(狙われてて?)、
カルテロは面白くないって愚痴を言ってた。
そう言うカルテロも、ソリッサに結構懐かれちゃって、彼女を後ろに載せて時々走っているのを見かける。



フェルチお姉さまは、相変わらず世話好きで、アネーロエテルネに調香についての色んな事を教えてる。
まだまだ成長期の二人はメキメキと実力をつけてきてて、気を抜くと追い抜かれてしまいそう。

「私も、頑張らないとなぁ……」
「はいはい、そう思うならさっさとベッドから出る!」

思わず私の口をついて出た言葉に、フェルチお姉さまは耳ざとく反応する。
しぶしぶベッドから降りて、私は皆の待つ食卓についた。
寝癖でモサモサになっている髪を手櫛で直して、私は改めてみんなに朝の挨拶をする。

「おはようございます。アネーロちゃん、フェルチお姉さま」
「お早うございます、ファムさま!」
「ん。おはよ、ファム



二人はいつも通りに、笑顔と一緒に返事をしてくれた。
それからもう一度、私はおはようを言う。この工房に加わった、新しい家族に。

「おはようございます、エテルネちゃん」

にっこりと笑う彼女は、まるで太陽みたい。

「はい、おはようございます、お母様!」

ミルクリーフ入りの紅茶をひとくち飲んで、私は窓の外を見る。
遠くに見えるのは、大きくそびえる"とこしえの樹"と、分け隔てなく光を降らせる、白い太陽。
色んなことがあったけれど、私たちは、この"天上岬"で生きている。
これまでも、そしてきっと、これからも。

──今日も、良い一日になるといいな♪



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