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Dragon's Blader
ラグナロク | ||
ゾディアーク | エアリル | シャドウ |
Dragon's Blader ZERO ~ 起源
epsode.1 エアリル
……何度見ても、慣れるものではありませんね。 | ||
その異界に降り立った神界の天使エアリルは、目の前に広がる光景に嘆息する。 | ||
大地は、龍帝の暴虐によって跡形もなく滅ぼされもはやそこに人の営みなど存在しなかった。 | ||
一刻も早く龍帝を討たなければ……そのためにも……。 | ||
神界の外に力を及ぼすことの出来ない神々に代わり、龍帝と戦う勇者の魂を探し出すこと。 | ||
それがエアリルに課せられた使命であった。 | ||
彼女はそのために、龍帝に滅ぼされた数ある異界の一つである、この地にやって来たのだ。 | ||
今度こそ見つかるとよいのですが……。 | ||
エアリルは翼をはためかせ、滅亡した異界の地を翔け巡る。 | ||
わかってはいたことですが、そう易々と見つかるはずもないですね……。 | ||
エアリルが求める魂とは、聖と魔を兼ね備えた勇者の魂である。 | ||
聖とは光であり、魔とは闇である。 | ||
人の魂は、その両者が融合しており、同時にどちらか一方が強いという状態にある。 | ||
だがそれでは、龍帝に打ち勝つことはできない。 | ||
光と闇は相反するという理を超越した勇者こそ、エアリルの求める魂なのだ。 | ||
そのような資質を持つ者でなければ、龍帝を滅する"切り札"を使うことはできない……。 | ||
しかし……そのような者が、果たして本当に存在するのでしょうか……。 | ||
エアリルが思わず不安を吐露した、その時であった。 | ||
──っ! これは……! | ||
荒れ果てた大地を巡るさなか、エアリルはとても強い魂の気配を感じ取り、その場にとどまる。 | ||
龍帝に倒された戦士の魂……それも今までの魂とは比べ物にならないほどの強い遺志……! | ||
エアリルは目を閉じて精神を集中させ、魂の在り処を探す。 | ||
……あちらのようですね、急がなければ! | ||
エアリルは再び飛び立ち、魂より放たれる遺志の波動を辿るのだった。 | ||
エアリルが見出した魂は、荒涼たる大地の上で、死してなお燦然と輝いていた。 | ||
その遺志には、龍帝を倒し、その脅威から人々と世界を救おうという正義の〈光〉が宿っていた。 | ||
だが同時に、龍帝に敗れた無念、同胞を奪われた怨嗟といった黒い〈闇〉にもまみれていた。 | ||
とてつもなく強い〈光〉と〈闇〉。それがこの勇者の魂には内在しています。 | ||
これほど強い遺志の輝きを放つ魂が存在するとは……ですが、このままでは……。 | ||
しかし、光と闇は相反する理。その魂の光と闇もまた、互いの力で拮抗し、相殺しつつあった。 | ||
このままでは、光と闇の相克で魂が疲弊し、消滅してしまう。一体どうすれば……。 | ||
エアリルは咄嗟に考えをめぐらし……そして、ある結論へと達した。 | ||
……このようなことは初めてですが……すべては龍帝を滅ぼすため。 | ||
エアリルは、目の前の魂を優しく手に包み込むと……。 | ||
翼を広げてその異界を飛び立ち、神界へと帰還したのであった──。 |
ここは神界の、とある場所──。 | ||
神界を脅かす龍帝ロード・オブ・ラグナロクを倒す使命を帯びた二人の剣士がいた。 | ||
ゾディアーク、シャドウ。龍帝の降臨に伴い、かの者の一族の動きが活発化しています。 | ||
二人で協力し、速やかに龍族を討伐するのです。よろしいですね? | ||
彼らは天使エアリルの導きによって己を磨き、来るべき日に向けて修行の最中にあった。 | ||
はっ! その任、必ずや成し遂げて見せましょう! | ||
……。 | ||
……。……まったく、相変わらず何を考えているのかわからぬ奴だ……。 | ||
師よ、シャドウはあのままでよろしいのですか?奴の剣はどこか危うく感じられます。 | ||
今はシャドウの意思のままに行動させるのです。いずれあなたにもわかる時がくるでしょう。 | ||
……はい、我が師の仰せのままに。 | ||
(シャドウ・サーヴァンド……兄弟だというのに 私とはあらゆる面で対極の剣士、だな……) | ||
(龍帝は倒すべき真の敵……しかし、シャドウがあのような調子で、我々に勝機はあるのだろうか?) | ||
(シャドウ……一体奴は……。) | ||
ゾディアークはシャドウへの疑念を抱きながらも、龍族の討伐に向かうのだった。 | ||
──はぁっ!! | ||
ゾディアークの鋭い剣閃が、襲い来る龍を両断する。 | ||
シャドウ、そちらは片付いたか? ……シャドウ! 聞いているのか! | ||
うおおおーーー!! | ||
シャドウもまた龍を次々と斬り伏せる。 | ||
しかしその剣筋は、まるで荒れ狂う暴風……ある種の狂気をはらんでいるかのように見えた。 | ||
くくく……ふはははは……!! | ||
倒れ伏す龍を何度も斬りつけ、ついには哄笑をあげるシャドウ。 | ||
(戦う前の不気味な静けさとは打って変わって、まるで狂戦士だな……) | ||
……前々から思っていたが、貴様の剣からは危うい何か……深い〈闇〉のようなものを感じる。 | ||
我々の使命は、龍帝を討ち滅ぼすことであり、龍族そのものの蹂躙ではない。それを忘れるな。 | ||
…………。 | ||
聞いているのか、シャドウ! これでも私は、貴様の身を案じて言ってい…… | ||
はあああ! | ||
なに!? | ||
瞬間、シャドウがゾディアークに向かって、その凶剣を振り払う! | ||
ゾディアークの背後に飛びかかった龍を、シャドウが無言のままに斬り捨てる! | ||
……感謝する、シャドウ。 | ||
……ああ。 | ||
(奴の行動は全く読めんが……シャドウの実力が信頼に値することに変わりはない、か……) | ||
シャドウを見据えながら、ゾディアークはふと思う。 | ||
(シャドウの剣には幾度となく助けられた。奴がいなければ、私はとうにやられていただろう) | ||
(龍帝討滅には、私の剣だけでなくシャドウの剣もまた必要なのだ) | ||
そしてゾディアークは、今一度周囲を見渡し、今度こそ脅威が去ったことを確認した。 | ||
……どうやら今ので最後のようだな。師に報告に向かうぞ。 | ||
……まだだ……龍どもめ……どこ……だ! | ||
急くな、シャドウ。我らが討つべき真の敵は龍帝であることを忘れるな。 | ||
彼奴との決戦は必ず来る。貴様の剣を存分に振るうのはその時だ。よいな? | ||
……くっ! | ||
龍族殲滅の任を終え、帰還するゾディアークとシャドウ。 | ||
(私もシャドウも、もっと強くならなければならない……龍帝、必ずや討ち倒してくれる!) | ||
来るべき龍帝との決戦は近い──そんな予感めいたものをゾディアークは感じていたのだった。 |
エアリルより、龍族討伐の任を言い渡されたゾディアークとシャドウ。 | ||
その時から、シャドウの心は抑えようのない憎しみに支配されていた。 | ||
ぐ……うう……! | ||
(憎い……龍帝のみならず、すべての龍族が憎い! なんだというのだ……この感情は!) | ||
龍が憎いのですね、シャドウ。 | ||
…………。 | ||
言わずともわかります。あなたの内に渦巻く黒い感情は、あなたが思う以上に強大です。 | ||
(……師の言うとおりだ。俺のこの憎悪は、日に日に増してきている……) | ||
(俺の心が、すべての龍族を根絶やしにしたいとざわめくのだ……!) | ||
その感情は、龍帝を討つための力となるでしょう。今はその心のままに剣を振るのです。 | ||
……龍は、狩る……すべて、狩る……! | ||
シャドウは剣の柄を強く握り締め、エアリルのもとから立ち去った。 | ||
……決戦の日は近い。今こそ彼らに真実を告げる時が来たのかもしれません……。 | ||
くくく……ふははははは……!! | ||
憎悪の衝動のままに龍を斬り、その手応えに酔いしれるシャドウ。 | ||
龍だ……もっと龍を……! | ||
(憎しみが止まらない……! 何匹狩ったところで、この感情が満たされることはないのか?) | ||
ふとシャドウは、他の龍の群れと戦うゾディアークに目をやる。 | ||
(ゾディアークの振るう剣には、憎悪など微塵も感じられない……まさに高潔そのものだ) | ||
(……兄弟で、どうしてこんなにも対極の剣になる?) | ||
(心に闇を抱える俺は……ゾディアークとは真逆の……〈悪〉なのか?) | ||
うおおおおーーー!! | ||
自身の存在意義に苦悩しながらも、その剣が止まることはなく、シャドウはひたすらに龍を狩る。 | ||
──っ! | ||
そのさなかに、ゾディアークの背後から襲い来る龍に気づいたシャドウは……。 | ||
(ゾディアークっ!) | ||
はあああ! | ||
奇襲をしかけた龍に向かって剣を振り払った! | ||
ゾディアークの窮地を救ったシャドウ。討伐の任を終えた二人は、エアリルのもとに帰還する。 | ||
無事に務めを果たしたようですね、ゾディアーク、シャドウ。 | ||
はっ! | ||
……。 | ||
いずれ龍帝は、他の龍族を率い、神界に対して進撃を開始するでしょう。 | ||
ですが、その前に……あなた方兄弟には話しておくべき真実があります。 | ||
エアリルは、二人の目を見据え、神妙な面持ちで告げた。 | ||
真実……? 師よ、それは一体……。 | ||
かつて私は、龍帝の侵攻を受けた異界に渡り、かの者に対抗できる勇者を探し求めていました。 | ||
そこで見つけた、一人の勇者の魂……それは、とても強い〈光〉と〈闇〉を内包していました。 | ||
その魂を二つに分かち、純粋な光と闇の勇者として転生した存在が……あなた方なのです。 | ||
な……に……! | ||
魂を……二つに? な、なぜそのようなことを……? | ||
これをご覧なさい。 | ||
エアリルは、光り輝く剣と、黒い瘴気をまとう剣を二人に見せた。 | ||
この二振りの剣は、髪より与えられし聖と魔の力の象徴にして、龍帝に抗するための唯一の神器。 | ||
光と闇が混在しない、純粋な光、そして闇の勇者であるあなた方のみが使いこなせるのです。 | ||
〈聖剣ゾディアーク〉、〈魔剣シャドウ・サーヴァント〉……それがこの剣の名前です。 | ||
……我々兄弟は生まれながらに、その剣と共に龍帝に立ち向かう宿命にあったのですね。 | ||
(……では、この俺の中に渦巻く憎悪の正体は……) | ||
シャドウ、あなたの中に根付く憎しみは、龍帝に敗れ去った勇者の無念から来るものです。 | ||
それは決して邪悪なものではありません。その感情もまた勇者としての一面なのです。 | ||
……俺が……勇者……。 | ||
ゾディアーク、シャドウ。今この時より、あなた方に命じます。 | ||
己が名を冠するこの剣と共に龍帝を討ち滅ぼすのです。 | ||
はっ! この私の命にかけて、必ずや龍帝を討ち取ってみせましょう! | ||
龍帝……奴は……この手で……倒す! | ||
聖剣を掲げる光のゾディアーク。魔剣を振るう闇のシャドウ・サーヴァント。 | ||
二人の勇者と龍帝の決戦の日は、刻々と迫りつつあった──。 |
Demon's Blader
アスモデウス | アウラ |
Damon's Blader ~ 審判者が舞い降りる
アウラは、うやうやしく傅いて、あのお方の言葉を一言も聞き逃すまいと、耳をそばだてていた。 | ||
謹んで、拝命いたします……。 | ||
あなた様に代わって、わたしが世に平等と静寂を取り戻しましょう。 | ||
アウラは、深々と頭を下げる。 | ||
あのお方は、優しく微笑まれた気がした。 | ||
そう見えただけだ。その姿を直視することは、アウラにもできない。 | ||
ただ、ただ……眩しく輝く光。 | ||
こんなに美しいものは、この世界に二つと存在しないとアウラは思う。 | ||
このお方のためたら……。 | ||
アウラは、翼を翻して主の前を辞した。 | ||
(場面転換) | ||
この飢え、渇望は、いつになったら収まるのだ……。 | ||
アスモデウスは、奈落から這い出て、いくつもの世界を彷徨っていた。 | ||
過去、神に反逆して、地底に落とされたアスモデウス……。 | ||
自らを奈落に陥れた存在を許すことができず、今も復讐の怒りを蓄え続けている。 | ||
怒りを一時忘れるために数多の世界を奈落に引きずり込み、その魔力を吸い取ってきた。 | ||
だが、感情の昂りは、一向に収まることはなかった。 | ||
この飢え、乾き……全てを止めるには、光の元を断つ以外にないのか! | ||
天上より降り注ぐ暖かな光は、アスモデウスに絶えることのない「渇望」をもたらしている。 | ||
そこに、天より一条の光が降り注いだ。 | ||
光と共に来臨するのは、日差しのような笑みを湛えた双翼の天使──。 | ||
探しましたよ。アスモデウス──。 | ||
我が名はアウラ・アマタ……。あのお方の意思によって遣わされた審判官。 | ||
審判官? 我になんの罪があると言うのだ? | ||
罪状を一つ一つ上げなければ、わからないのか? | ||
これまで、どれだけの世界を奈落に引きずり込んだのか、忘れてしまったとは言わせない。 | ||
アスモデウスは、なにも答えない。 | ||
貴様の身勝手な振る舞いに、あのお方はお怒りになっている。 | ||
貴様が犯した罪に対して、神の代行者たる私が裁きを下そう──。 | ||
裁き? あやつは、まだ全てを支配している気でいるのか? | ||
支配? この世は、全てあのお方のもの。 | ||
あのお方がお造りになられて、あのお方の消滅と共に消え去る運命だ。 | ||
くだらん。それでは我々のいる空間は、やつ一人の妄想と大差ないではないか? | ||
アウラは、なにも言わずに微笑んでいる。 | ||
やはり、やつが消えない限り、我のこの苦しみは消え去ることはないようだ……。 | ||
裁きによって貴様が消えれば、悩みも共に霧散するだろう。 | ||
裁きを下すというのなら、好きにするがいい。 | ||
だが、気づいた時には、貴様も奈落の底に引きずり込まれているかもしれんぞ? | ||
驚いた。私を喰らうつもりか? | ||
そうだ。我の行く手を遮るものは全て喰らい尽くす。それが我の生きる道なのだ。 | ||
またしても、アウラは笑った。 | ||
ついに、奈落の覇帝に審判が下される……! | ||
奈落で蠢く愚かな存在よ。今すぐここで絶え果てよ! |
Divine Blader
ザラジュラム | ルルベル |
Divine Blader ~ 邪神のプライド
ここは魔界の最奥にある、とある神殿──。 | ||
ルルベル様! ルルベル様! | ||
牛頭を持つおぞましき魔物が、今その門を叩いた。 | ||
聞こえてるってば! いったい何の用よ? | ||
門を押し開き、魔物の前に現れた彼女は邪神、ルルベル。この神殿の主である。 | ||
毎日神殿にこもられて何をされているのですか?そろそろ人間と契約して頂かなければ困ります! | ||
ルルベルは生まれながらに、魔界において絶対的な力を持つ邪神となった。 | ||
それほどまでに彼女の魔力は強く、他の魔族を凌駕し、従えるだけの資質にも恵まれていた。 | ||
ただ、その若さゆえ、言動、行動は稚拙で、魔族の戒律にも疎かった。 | ||
そこで、神殿の守護者であるズローヴァがこの若き邪神の教育係を兼ねることになったのである。 | ||
分かってるわよ! あたしだって毎日神殿に引きこもって遊んでるわけじゃないんだからね! | ||
ズローヴァが神殿をのぞき込むと、魔族の祭祀に用いる道具や書物が散乱しているのが見えた。 | ||
……ルルベル様。ご自身で努力をされていたとは……。 | ||
言ったでしょ? あたし、根は真面目なの。学ぶべきことは大体マスターしたつもりよ。 | ||
あとは人間と契約し、その者の望みを叶える代償として、欲望のままに堕落させるだけね……。 | ||
はい。見事人間と契約を結んだ暁には、ルルベル様は立派に一人前の邪神となられるのです。 | ||
ふふふ……。でも、ただ契約して堕落させるだけじゃ面白くないわね。 | ||
……自覚することもなく、気づけば堕ちるところまで堕ちている……そんな感じがいいわ……。 | ||
ルルベルはサディスティックな微笑みを浮かべ、唇に舌を這わせた。 | ||
ルルベル様……なんとご立派なお言葉……。 | ||
その時、ルルベルはふと、誰かの呼ぶ声が聞こえたような気がした。 | ||
しっ! 黙って! 今何か聞こえたわ! | ||
彼女は感激するズローヴァを鋭く制す。 | ||
「……神……さ……ま。邪神……ルルベル様……」 | ||
ほら、誰かがあたしを呼んでいる。 | ||
「どうか私の願いをお聞き届け下さい……」 | ||
その声は遥か上空、人間界からルルベルの心に直接響いた。 | ||
邪神の祈りを乞う人間の声である。 | ||
うん。どうやら遂にこの時が来たみたい。彼女はそう言うと、足早に神殿の中へ入る。 | ||
「邪神ルルベル様、私の声が聞こえておりますでしょうか?」 | ||
祭壇に立ったルルベルは、散らばる本の中から「邪神の心得」と書かれた一冊を拾い上げる。 | ||
……えーと。人間との契約、人間との契約……っと。 | ||
彼女は慌ただしく本をめくり、目当てのページを開き、書かれた台詞を確認し、 | ||
……コホン。我が名は邪神ルルベル。汝の願いを述べよ。 | ||
と、本に書かれた通りの受け答えをする。 | ||
「私は、世界から全ての争いを取り除きたいのです。どうか力をお貸し下さい」 | ||
……え? あの……あたし、邪神なんですけど……。 | ||
「高名な邪神の力を以ってしても、やはり難しいのでしょうか……」 | ||
その言葉が、彼女のプライドに火をつけた。 | ||
な、なにを言うか! よかろう! 汝にあたし……いや、我が力を貸してやろう。 | ||
「ありがとうございます!」 | ||
ふふふ……。どうやってあの人間を堕落させてやろうかな……。 | ||
晴れて契約を結んだルルベルは、彼女を堕落させるべく、行動を共にすることにした。 | ||
しかし、ルルベルの思惑とは裏腹に、彼女が堕落することはなかった。 | ||
あたしの力を使えば、いくらでもお金が手に入るし、綺麗な服だって好きなだけ……。 | ||
「いいえ。人々の平穏がなによりの宝です」 | ||
……じゃ、じゃあさ。お腹空いてない? 私の力を使えばどんなごちそうだって……。 | ||
「労働した後に食べる、ひとかけらのパンに勝るごちそうはありませんわ」 | ||
あっそうだ! だったらさ──。 | ||
「ルルベル様! あの街でも人々が争っております。さ、お力をお貸し下さい!」 | ||
ルルベルの囁きを無視し、彼女は淡々と自分の目的、争いを無くすためだけに力を借りて行く。 | ||
あろうことか、ルルベルと契約を結んだのは聖女だったのである。 | ||
そして世界から、少しずつ争いが減り始めた矢先、1体の魔神がその聖女に目をつけた。 | ||
世界を救う定めの聖女か……。ならばその定め、この魔神ザラジュラムが歪めてくれよう。 | ||
そう言い残し、聖女を抱いた魔神は彼方へと飛び去っていく。 | ||
あたしの契約者をさらっていくなんて許せないわ。 | ||
待ってなさい! 邪神の名に懸けて、必ず取り返してやるっ! |
Heretic Blader
リュコス | クオン |
Heretic Blader ~ 朱き凶月は低く大きく
クオン・リムセは、化け狐のヤスナと共に夜の樹海を歩いていた。 | ||
ずいぶんと回り道をしたものだ。敵の居場所はわかっている。真っ直ぐ進めばよいものを。 | ||
仕方ないじゃない。凶兆の方角を避けながら進むのは、陰陽道の基本よ。 | ||
行く先に災いが待つのならば、それごと敵をねじ伏せればよいではないか。 | ||
あなたたち物の怪なら、それでいいでしょうけどね。 | ||
そなたも今は、我ら真狐の力を持ったのだ。その物の怪の眷属ではないか。 | ||
わかっているわ。でも、この力、私に使いこなせるかしら。 | ||
クオンはじっと自分の手──人ならざる者の妖気を帯びた右手──を見つめる。 | ||
当代最高の陰陽師と称されるそなたなら扱えよう。そう信じたから、一族の力を託したのだ。 | ||
九尾に達した真狐の力……並の人間なら、宿した時点で無事では済まん。 | ||
ええ。本当に、恐ろしいほどの力だわ……。 | ||
クックック……。後悔しているのか? | ||
ううん。もちろん、感謝しているわよ……。 | ||
私の力だけでは、到底「アレ」を止めることは出来ないのだから。 | ||
月を墜とす妖魔……か。 | ||
そう言って、ヤスナは空を見上げた。 | ||
樹海の木々の合間から、異様に巨大な月が見える。 | ||
信じがたいわね、異国の妖魔の力というものは……。 | ||
和ノ国の物の怪が劣っているわけではないからな。その者が異常なのだ。 | ||
不機嫌になるヤスナの頭をクオンは軽くなでる。 | ||
そうね。これまで月を守って来た、妖狼の一族だという話だけど……。 | ||
「異国の妖魔が月を墜とそうとしている」 | ||
クオンがそんな噂を耳にしたのは、数ヶ月前のことだった。 | ||
そんな話を信じるものなど誰もいなかったが、月は確かに地上との距離を縮めていった。 | ||
やがて月が日増しに大きくなっている事に気づいた人々は、クオンに助けを求めた。 | ||
妖魔を祓うため、その妖気を辿って向かった先にいたのが、月に向かって吼えるリュコスだった。 | ||
墜としてやる! 私から全てを奪ったおまえを、必ず、必ず叩き墜とす! | ||
あの恨みに満ちた悲しい目……忘れられないわ。あの時私が味わった、圧倒的な無力感も……。 | ||
その時のクオンは、リュコスに挑むことなくその場を去った。 | ||
人間であるクオンと、妖魔であるリュコス。その力の差は、あまりにも歴然としていた。 | ||
そして、そなたは我らの元を訪れた。人の力を超えるために。 | ||
ええ……。 | ||
人間のためにも、物の怪のためにも、月を墜とさせるわけにはいかない。 | ||
月が墜ちては、月見酒が味わえなくなる。それだけでも戦う理由になるというものだ。 | ||
ふふふっ。それもそうね。お月見が出来なくなったら、悲しむ人が沢山いるわ。 | ||
クオンはそう言って、ヤスナの頭をもう一度優しく撫でた。 | ||
人間と物の怪、異なる種族の力を併せ持つ少女は今、相棒と共に決戦の地へと向かっていく。 | ||
止めてみせる……必ず! | ||
クオンは空に浮く巨大な月を見据え、決然と言い放った。 |
Tempest Blader
ブリューダイン | アヴィン |
Tempest Blader ~ 過ちを清算するために
き、きた……!? | ||
アヴィンの頭上に、人の形をした巨大な影が覆いかぶさった。 | ||
どこからともなく出現した古代兵器「ブリューダイン」が、雲の切れ間を縫って飛翔している。 | ||
やつの行く先では、破壊しか行われない……。 | ||
また、どこかで無意味な破壊行為が行われるのか……。 | ||
必ず、やつは俺が止める……。待てっ!! | ||
ブリューダインは、アヴィンの声に気づくことなく、進んで行く。 | ||
その手に持つ黒鋼の大槍が、鈍い光を放っていた。 | ||
地面を駆けて助走をつけたアヴィンは、盾のような形をした板に飛び乗る。 | ||
高高度滑空戦術騎盤「スカイドミネイター」。古代遺跡からブリューダインと共に発見された遺物。 | ||
おっとっと……。いいぞ! ちゃんと飛んでる……っ! でも、もっと高く、高く飛ぶんだ! | ||
ブースターから粒子状のエネルギーを放出し、空中を飛行する。 | ||
あいつを蘇らせてしまったのは俺だ……。だから、なんとしても俺が止める! | ||
無意味に破壊と殺戮を繰り返す古代兵器ブリューダイン。 | ||
誰が、なんのために作り出した物かはわからない。 | ||
遺跡に封印されていたことからして……。 | ||
古代人たちにとってもブリューダインは、混乱をもたらす破壊神だったのかもしれない。 | ||
そんな凶暴な存在を、アヴィンは自らの好奇心によって封印から解き放ってしまったのだ。 | ||
そして、封印から解かれたブリューダインは、すぐさま破壊衝動をむき出しにしたのである。 | ||
アヴィンに襲いかかり……そして、アヴィンの身代わりになる形で父親が重傷を負った。 | ||
当初よりも回復したとはいえ、アヴィンの父親はまだベッドから起き上がることはできない。 | ||
親父のためにも、早くブリューダインを止めないと……。 | ||
突如、ブリューダインが、スピードを落として背後を振り返る。 | ||
気づかれた……!? でも、やつに追いつくチャンスだ。 | ||
しかし、アヴィンの乗ったスカイドミネイターは、空中でバランスを崩す。 | ||
え……? スカイドミネイター。いきなり、どうしたんだ? | ||
お……落ちる!? そんな!? 飛行テストでは完璧だったのに! | ||
故障により飛行能力を失ったスカイドミネイターは、アヴィンごと海上に墜落する。 | ||
ぶはっ! ブリューダインは!? | ||
空の向こうに、遠ざかっていく大きな黒い影が見えた。 | ||
アヴィンの存在などに気づかなかったかのように……。 | ||
くそ、また追いつけなかった! 「俺たち」になにが足りなかったんだよ……。 | ||
アヴィンは、自分の不甲斐なさに怒りを感じる。 | ||
その時、スカイドミネイターがアヴィンの感情に呼応するように淡い光を放つ──。 | ||
まさか……俺の怒りに共感してくれているのか?人の感情がわかるのか? | ||
呼びかけに応じるように、スカイドミネイターは二度三度、エネルギー粒子を放出してみせた。 | ||
数ヶ月後……。 | ||
見つけた! 今度こそ逃がさないぞブリューダイン!! | ||
改良とテストを積み重ねたスカイドミネイターは、今やアヴィンの肉体の一部になっていた。 | ||
今日こそ、ブリューダインを止めるぞ。 | ||
呼吸するように、エネルギー粒子がブースターの噴射口より吐き出される。 | ||
遊びはなしだ。最大加速で一気にカタをつけるぞ。 | ||
行こうぜ、相棒! |
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