境界騎士団
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境界騎士団 -目醒めし魔竜と境界騎士団
プロローグ
深緑の大地を颯爽と駆ける風がどこまでも広がっていく。
荷馬車の揺れる音が平原を弾む。
旅商人は手綱を引き、ゆっくりと故郷を目指していた。
その途中、見張り塔が高々と立っていた。
それは近隣に新しい砦が建てられてから、存在価値を失っていた。
朝の光をさえぎる塔が細長い影を伸ばし、荷馬車を覆い隠すと、
旅商人はどこか居心地の悪いひんやりした空気を感じた。
恐る恐る塔の天辺を見上げた瞬間、
──轟く雷鳴。
読んで字のごとく青天の霹靂だった。
見張り塔の上空に突如、黒い稲光が現れ、暗雲を呼び寄せた。
かつてない災厄の刻。
訓練されたはずの馬が、飼い主を馬車から振り落とし逃走する。
勢いよく方向転換した馬車から、積み上げられた酒樽が地に散乱する。
それすらも気にならない衝撃的な現象。
旅商人は確かに目撃した。
塔の上空で空間が激しく歪み、そこに小さな黒点が現れた。
黒点は徐々に膨張し、やがて人体を丸呑みにできるほどの穴となった。
その穴の内側からウロコをまとった巨大な生物が顔を出し──旅商人と目を合わせた。
旅商人は蛇に睨まれた蛙のように体が硬直。
空間の亀裂から現れる魔物との対峙を余儀なくされる。
魔物が亀裂から抜け出ると、隕石が落下したように大地を荒々しく揺さぶった。
それは旅商人の硬直を解き、尻餅をつかせるほど。
余波でも自由を奪われた。
ならば当事者なら、あれほどの衝突の後で動けるはずがない
──だが、致命傷を負うどころか魔物は、怯むことなく旅商人へと歩み寄る。
刻々と迫る恐怖によって被食者の瞳孔は極限まで開き、捕食者の姿を鮮明に脳裏に焼きつける。
金剛石のように硬いウロコ、肉を引き裂く鋭い爪牙、舌の上で炎を転がす、
それは紛れもなく──ドラゴンだった。
死を覚悟した旅商人だったが、ドラゴンの咆哮にそんな思考はかき消され、二度と振り返ることなく平原を激走した。
この一件はたちまち噂となり、この世界──クエス=アリアスを震撼させた。
──ここに、異界の歪みと聞くや否や軍旗を掲げ、大義に殉じる騎士団があった。
人知れず発生する異界の歪み。そこから襲来する魔物の群れを一網打尽にしてきた戦士たち──
『境界騎士団』
その勢力は拡大し、国王が一目置く大組織へと成長を遂げた。
そして今、境界騎士団の存亡をかけた戦いが始まろうとしていた……。
平原の視察から帰還した兵によると、未だかつてない脅威だという。
現時点の戦力では到底及ばないと感じた騎士団長セドリックは、国王に援軍の要請をするために王都に向かった。
その間の指揮を委ねられた副団長のアネモネは、砦を中心に防衛線を張っていた。
ドラゴンたちの猛威に陣形は崩されていく。
それでも使命感と責任感を背負ったアネモネの剣は誰よりも重く、鋼鉄のウロコを切り裂いていく。
激化していく戦場で時折、弱音を吐くこともあったがその反面、期待もあった。
──世界各地の魔道士ギルドがきっと助けに来てくれる。
戦場に向かう魔道士たち。
その中に事態を飲み込めず、足早に歩く〝黒猫をつれた魔法使い〟がいた──
<登場キャラ>荷馬車の揺れる音が平原を弾む。
旅商人は手綱を引き、ゆっくりと故郷を目指していた。
その途中、見張り塔が高々と立っていた。
それは近隣に新しい砦が建てられてから、存在価値を失っていた。
朝の光をさえぎる塔が細長い影を伸ばし、荷馬車を覆い隠すと、
旅商人はどこか居心地の悪いひんやりした空気を感じた。
恐る恐る塔の天辺を見上げた瞬間、
──轟く雷鳴。
読んで字のごとく青天の霹靂だった。
見張り塔の上空に突如、黒い稲光が現れ、暗雲を呼び寄せた。
かつてない災厄の刻。
訓練されたはずの馬が、飼い主を馬車から振り落とし逃走する。
勢いよく方向転換した馬車から、積み上げられた酒樽が地に散乱する。
それすらも気にならない衝撃的な現象。
旅商人は確かに目撃した。
塔の上空で空間が激しく歪み、そこに小さな黒点が現れた。
黒点は徐々に膨張し、やがて人体を丸呑みにできるほどの穴となった。
その穴の内側からウロコをまとった巨大な生物が顔を出し──旅商人と目を合わせた。
旅商人は蛇に睨まれた蛙のように体が硬直。
空間の亀裂から現れる魔物との対峙を余儀なくされる。
魔物が亀裂から抜け出ると、隕石が落下したように大地を荒々しく揺さぶった。
それは旅商人の硬直を解き、尻餅をつかせるほど。
余波でも自由を奪われた。
ならば当事者なら、あれほどの衝突の後で動けるはずがない
──だが、致命傷を負うどころか魔物は、怯むことなく旅商人へと歩み寄る。
刻々と迫る恐怖によって被食者の瞳孔は極限まで開き、捕食者の姿を鮮明に脳裏に焼きつける。
金剛石のように硬いウロコ、肉を引き裂く鋭い爪牙、舌の上で炎を転がす、
それは紛れもなく──ドラゴンだった。
死を覚悟した旅商人だったが、ドラゴンの咆哮にそんな思考はかき消され、二度と振り返ることなく平原を激走した。
この一件はたちまち噂となり、この世界──クエス=アリアスを震撼させた。
──ここに、異界の歪みと聞くや否や軍旗を掲げ、大義に殉じる騎士団があった。
人知れず発生する異界の歪み。そこから襲来する魔物の群れを一網打尽にしてきた戦士たち──
『境界騎士団』
その勢力は拡大し、国王が一目置く大組織へと成長を遂げた。
そして今、境界騎士団の存亡をかけた戦いが始まろうとしていた……。
平原の視察から帰還した兵によると、未だかつてない脅威だという。
現時点の戦力では到底及ばないと感じた騎士団長セドリックは、国王に援軍の要請をするために王都に向かった。
その間の指揮を委ねられた副団長のアネモネは、砦を中心に防衛線を張っていた。
ドラゴンたちの猛威に陣形は崩されていく。
それでも使命感と責任感を背負ったアネモネの剣は誰よりも重く、鋼鉄のウロコを切り裂いていく。
激化していく戦場で時折、弱音を吐くこともあったがその反面、期待もあった。
──世界各地の魔道士ギルドがきっと助けに来てくれる。
戦場に向かう魔道士たち。
その中に事態を飲み込めず、足早に歩く〝黒猫をつれた魔法使い〟がいた──
セドリック | アネモネ | オルハ |
エステル | ルートヴィッヒ | ロベルト |
歪から出でし魔物(2014/08/22 登場)
ラギカ | リリグ | ザフル |
ベーゼ | オグルーヴ | ボウルダム |
アクアヴニル |
戦闘開始 「厳しい戦いになると思いますが、頑張っていきましょう」
敵は作戦通り混乱している。 | ||
陽動隊は帰陣せよ! | ||
──たどり着いた君とウィズは唖然とする。 | ||
──ドラゴンの群れと交戦する魔道士たち。 | ||
その戦火の中で悠然と、銀の剣を振るう女騎士。 | ||
そのまま第3部隊は敵の背後に回り、本隊を援護。1匹ずつ確実に仕留めるぞ! | ||
──君はその強者が放つ引力に誘われるように近づいた。 | ||
!? | ||
お待ちしておりました!……ご覧のとおり戦場は激化しています | ||
あなた方のような優秀な魔法使いの力が必要で無理を承知でお呼びいたした所存で…… | ||
──君は突然のことで状況が飲み込めず、 | ||
目を丸くしたウィズと見つめ合う。 | ||
申し遅れました | ||
私の名はアネモネ。 "境界騎士団"副団長で本作戦の指揮を託されています | ||
異界の歪みから魔物が現れるたびに、魔道士ギルドと協力して鎮圧してきました── | ||
しかし今やそれは国家を壊滅させる脅威。我々の軍勢では太刀打ちできない状況です | ||
あそこに見えるのはいわば最後の砦、ここで侵攻を許せば世界は大惨事となります | ||
──君の靴先に微弱な振動。 | ||
ウィズの前足が武者震いしている。 | ||
猫の手も借りたい非常事態です。どうか、一緒にドラゴンと戦ってください | ||
──君は息をのむのと同時に、思わず首を縦に振る。 | ||
ありがとうございます! | ||
──アネモネはあどけなく笑った。 | ||
厳しい戦いになると思いますが、頑張っていきましょう |
数が多すぎる……! このままでは持ちこたえられない…… | ||
──そのとき、背中を押す一陣の風。真紅の旗がひるがえる。 | ||
はーい、凡人さんたちはひざまずいてて~。全知全能才色兼備、最強魔道士の登場だよ~ | ||
エステル! | ||
アネモネ様っ! 褒めてくださいませ! 作戦通り、低俗な虫どもを掃除してきました | ||
わ、分かった……。頭をなでてやるから少し離れてくれ…… | ||
おっ、こっちのほうが楽しそうじゃねえの? 情熱的で刺激的な戦がしたいのよ、俺は | ||
まだ1匹残ってましたよ……まったく。アンタはいつも戦い方が雑なんだよ | ||
ロベルト、ルートヴィッヒ! | ||
弱っている敵から順番に倒していきましょう。効率よく、まずは右から── | ||
いちいち細かいんだよ、お前さんは。全部まとめて倒せばいいんだよ! | ||
無鉄砲に敵の群れの中に突っ込むロベルト。 | ||
その背後に迫る敵を斬り払うルートヴィッヒ。 | ||
もしかして、わざとやってます? いいんですよ、見殺しにしても | ||
はっ、お前こそ助けるタイミング遅いんだよ。わざと俺をオトリにしたろ。お互い様だ | ||
相変わらず危なっかしい2人だな……。けど、いいコンビだ | ||
──どうやら心配無用だったな。すまない。予定よりも援軍が遅れてしまって | ||
セドリック団長…… | ||
よく、持ち場を守りきってくれたねアネモネ。魔法使いの君も立派だった。ご協力感謝する | ||
さあ、反撃開始だ! アネモネ──号令をかけてくれ! | ||
はい! それでは……全軍、今こそ反撃に転じよ!! | ||
──アネモネの号令を受け、全軍の士気が高まる。 | ||
オルハさんは上手くいっているだろうか…… | ||
── 一方そのころ。砦の屋上。1人の女性が指を組み、魔力を放っている。 | ||
──視線の先で、竜を吐き出す異界の歪みが、わずかずつ縮まっている……。 | ||
今日の異界の歪みちゃんは頑固ですね。えーい、もっと締めつけちゃえっ |
──これで何匹の竜を倒しただろう。 | ||
──際限なく続く戦闘の中、君は既に数えることを諦めている。 | ||
──キリがない。竜を吐き出し続ける不吉な異界の歪みを見つめ、君は改めてそう思った。 | ||
怯むな! 何としてもここで食い止める! | ||
──そう騎士達を鼓舞するアネモネの背後を狙って、竜がその爪を振り上げる。 | ||
──と、そこに白銀の鎧をまとった騎士が駆け寄り、その斬撃を剣で受けた。 | ||
大丈夫ですか? あなたが倒れたらみんな悲しみますよ | ||
セドリック団長…… | ||
──その刹那、炎を纏った隕石が目の前の竜を射抜いた。 | ||
アネモネさまー | ||
エステル! | ||
団長! アネモネ様の背中は私が守りますので! | ||
──エステルはそう得意げに微笑むと、呪文を詠唱し、竜の群れに隕石の雨を降らせていく。 | ||
──それは君の初めて見る魔法だ。 | ||
ロベルト! ルートヴィッヒ! | ||
──両翼から2人の騎士が、すさまじい勢いで竜を圧倒しながらこちらへ向かってくる。 | ||
図体ばっかだな! 目を閉じても勝てるぜ | ||
ホントに閉じないでくださいよ。あんたに死なれたら戦力半減なんですから | ||
──口論しながらも、竜を打倒していく2人。 | ||
黒猫の魔法使い殿 | ||
──と、アネモネは君に振り返り、 | ||
これから仕上げにかかります。最後まで力をお貸し下さい | ||
ゆくぞ! 勇烈なる戦士たちよ! | ||
──騎士団は戦意を上げ、竜の群れに立ち向かっていく。 | ||
──しかし、あの異界の歪みがある限り、竜は際限なく現れるだろう。 | ||
──そう思いながら君が空を仰いだ時、砦の方角から一筋の光が歪みの中心に射し込んだ。 | ||
──そして異界の歪みは徐々に狭まっていく。 | ||
どうやら間に合ったようですね | ||
オルハさん…… | ||
──程なくして、異界の歪みは完全に閉じた。 | ||
──騎士団は一気に士気を上げ、残りの竜を一掃していく。 | ||
──君には何が起こったのか分からなかった。 | ||
──境界騎士団は全ての竜を掃討し、今回の任務を終えた。 | ||
さぁ、みんな! 砦へ帰還するぞ! | ||
──彼らはどんな魔法を使ってあの歪みを閉じたのだろう。 | ||
──強大な力が発せられたのは分かったが、少なくとも、君はあんな魔法を見たことがなかった。 | ||
──砦への帰り道、君はアネモネに尋ねてみる。 | ||
あれは、魔法ではありません | ||
我々の仲間、オルハさんには異界の歪みを察知し、それを閉じる力があるのです | ||
──そんなすごい騎士がいるなんて。君は境界騎士団の実力に改めて感心する。 | ||
騎士? 彼女は騎士ではありませんよ。さ、彼女も待っています。砦へ急ぎましょう | ||
──アネモネはそう微笑むと、自分の馬を急がせる。 | ||
──砦に到着した君達を一人の女性が出迎える。君は一目で彼女が騎士ではない事が分かった。 | ||
おかえりなさい、みなさん | ||
ただいま、オルハさん。今日は素晴らしい魔法使い殿に出会ったんですよ | ||
──そう言って君の事を紹介する。 | ||
ご協力ありがとうございました。今日はゆっくり休んでください | ||
──この華奢な女性が、あれだけの力を持っているなんて、君はまだ信じられない。 | ||
私にはこんな事しか出来ません、みんながいなければ、歪みを閉じる事すら出来ないのです | ||
異界の歪みは、これからも現れるでしょう。どうか、あなたのお力をお貸しください | ||
──祈る様な彼女の眼差しに、君は力強く頷いた。 |
エピローグ
古めかしい塔の屋上で、白い竜が怒りの咆哮を放つ。
それだけで凄まじい魔力が走り、その場に集った面々を強烈に打ちすえた。
「これほどの力を持つ魔物が出てくるとは……!」
背後のエステルをかばい、盾で衝撃波を受けきったアネモネがうめく。
「やはり、この『歪み』……これまでとは違う!」
「だからこそ、我々の『力』で一刻も早く『歪み』を閉じねばならない」
セドリックが凛然と言った。
「そのためには──まず、この竜を討つ!」
その言葉に、集ったみながうなずく。
セドリックら境界騎士団の隊長格と、ギルドから派遣された魔道士たちのうち、精鋭数名。
塔に登るにあたって厳選されたメンバーだ。
異界の狭間をさまよった経験を持つセドリックたちは、オルハの力を『中継』することができる。
彼らが『歪み』に接近し、オルハの力を叩き込めば、より早く『歪み』を閉じることができるのだ。
そのために、危険を冒して塔に登ったのである。
「こいつが最後の関門ってわけだ。燃えるねえ!」ロベルトが笑い、
「勝手に燃え尽きないでくださいよ。作戦が崩壊するから」ルートヴィッヒが肩をすくめ、
「こんなザコ、とっととぶちのめしちゃいましょう、アネモネ様!」エステルが意気込み、
「ああ。ここで折れるわけにはいかない!」アネモネが奮起する。
魔道士たちも、それぞれ決意の表情でうなずいている。
「みなの志……頼もしく思う!」
剣を構え──セドリックは、竜の咆哮にも劣らぬ凄烈の雄叫びを上げた。
「多くの命が、我らの剣に懸かっている! ゆくぞ──勇烈なる戦士たちよ!」
天地を震わすような唱和と共に、騎士たちと魔道士たちの全力の攻撃が、竜に集中した──
──日の暮れた頃になって、セドリックたちは砦に戻ってきた。
誰もが傷つき、疲弊していたが、勝利の高揚感が足取りを軽くさせていた。
砦に入る直前、セドリックが全軍の足を止めさせた。
門の前で、1人の女性が待っていたのだ。
「おかえりなさい、みなさん」
にっこりと微笑むオルハに、セドリックも微笑で返す。
「お出迎え、痛み入ります。オルハさん」
「おかげで、『歪み』は完全に閉じました。みなさん、本当にありがとうね」
オルハの言葉を受けて、境界騎士団、王国騎士団、魔道士たち
──激闘を終えた戦士たちは、勇ましくうなずき、あるいは照れ笑いを浮かべる。
「だが、あの規模の『歪み』が、今後も発生しないとは限らない」
セドリックが真剣な表情になって、みなをぐるりと見回した。
「願わくば貴公らには、そのときにまた、ご助力願いたい……」
「そういう話は後でしようぜ、団長」
ロベルトが肩をすくめる。
「今は勝利を喜ぶのが最優先だろ?」
「そうだね──失敬」
セドリックは苦笑した。
「どうも私は堅物でいけないね。では、オルハさん……」
「ええ」
うなずいて、オルハは一同へ朗らかに手を振った。
「みなさーん! 中で勝利の宴を準備していますよ~! もう、好きなだけ食べていってくださいね~!」
その言葉に、待ってましたとばかり、盛大な歓声が上がった。
境界騎士団と『異界の歪み』。その戦いは、いつ終わるとも知れない。
だが、彼らが剣を折ることはないだろう。
『歪み』と戦い続けることこそが、彼らにとっての確かなる誇りであるゆえに。
それだけで凄まじい魔力が走り、その場に集った面々を強烈に打ちすえた。
「これほどの力を持つ魔物が出てくるとは……!」
背後のエステルをかばい、盾で衝撃波を受けきったアネモネがうめく。
「やはり、この『歪み』……これまでとは違う!」
「だからこそ、我々の『力』で一刻も早く『歪み』を閉じねばならない」
セドリックが凛然と言った。
「そのためには──まず、この竜を討つ!」
その言葉に、集ったみながうなずく。
セドリックら境界騎士団の隊長格と、ギルドから派遣された魔道士たちのうち、精鋭数名。
塔に登るにあたって厳選されたメンバーだ。
異界の狭間をさまよった経験を持つセドリックたちは、オルハの力を『中継』することができる。
彼らが『歪み』に接近し、オルハの力を叩き込めば、より早く『歪み』を閉じることができるのだ。
そのために、危険を冒して塔に登ったのである。
「こいつが最後の関門ってわけだ。燃えるねえ!」ロベルトが笑い、
「勝手に燃え尽きないでくださいよ。作戦が崩壊するから」ルートヴィッヒが肩をすくめ、
「こんなザコ、とっととぶちのめしちゃいましょう、アネモネ様!」エステルが意気込み、
「ああ。ここで折れるわけにはいかない!」アネモネが奮起する。
魔道士たちも、それぞれ決意の表情でうなずいている。
「みなの志……頼もしく思う!」
剣を構え──セドリックは、竜の咆哮にも劣らぬ凄烈の雄叫びを上げた。
「多くの命が、我らの剣に懸かっている! ゆくぞ──勇烈なる戦士たちよ!」
天地を震わすような唱和と共に、騎士たちと魔道士たちの全力の攻撃が、竜に集中した──
──日の暮れた頃になって、セドリックたちは砦に戻ってきた。
誰もが傷つき、疲弊していたが、勝利の高揚感が足取りを軽くさせていた。
砦に入る直前、セドリックが全軍の足を止めさせた。
門の前で、1人の女性が待っていたのだ。
「おかえりなさい、みなさん」
にっこりと微笑むオルハに、セドリックも微笑で返す。
「お出迎え、痛み入ります。オルハさん」
「おかげで、『歪み』は完全に閉じました。みなさん、本当にありがとうね」
オルハの言葉を受けて、境界騎士団、王国騎士団、魔道士たち
──激闘を終えた戦士たちは、勇ましくうなずき、あるいは照れ笑いを浮かべる。
「だが、あの規模の『歪み』が、今後も発生しないとは限らない」
セドリックが真剣な表情になって、みなをぐるりと見回した。
「願わくば貴公らには、そのときにまた、ご助力願いたい……」
「そういう話は後でしようぜ、団長」
ロベルトが肩をすくめる。
「今は勝利を喜ぶのが最優先だろ?」
「そうだね──失敬」
セドリックは苦笑した。
「どうも私は堅物でいけないね。では、オルハさん……」
「ええ」
うなずいて、オルハは一同へ朗らかに手を振った。
「みなさーん! 中で勝利の宴を準備していますよ~! もう、好きなだけ食べていってくださいね~!」
その言葉に、待ってましたとばかり、盛大な歓声が上がった。
境界騎士団と『異界の歪み』。その戦いは、いつ終わるとも知れない。
だが、彼らが剣を折ることはないだろう。
『歪み』と戦い続けることこそが、彼らにとっての確かなる誇りであるゆえに。
境界騎士団with魔道杯
ルピラ | ウッド&リーリ | チュリー |
エスタロス | カシア | ティーレ |
境界騎士団本部。 | ||
団長のセドリックは、自分の机に腰掛けて、深い息を吐き出した。 | ||
セドリックの顔には、疲れが見えている。 | ||
このところ多発している「歪み」の出現のせいで、部下たちの疲労が蓄積している。 | ||
当然ながら、それに比例するように団長であるセドリックの心労も増えていた。 | ||
ここの戦力は申し分ないのだが……やはり人手が足りないな。 | ||
騎士たちからも、人が足りなくて既に限界だという申し出がいくつか上がってきています。 | ||
副団長のアネモネは、セドリックの傍で書類の束を抱えていた。 | ||
それらは、騎士たちの健康状態をまとめた書類だった。 | ||
みんな強い使命感を持つ者たちばかりです。でも、これほど戦いが続くと……。 | ||
騎士といえど人である以上、限界はある。 | ||
だが、騎士を増やすといっても、誰でもいいわけではない。 | ||
歪みに対抗できるオルハの力をちゃんと「中継」することができる素質が必要だ。 | ||
素質を持つ者を見つけるだけでも大変です。 | ||
その時、団長室のドアが勢いよく開け放たれた。 | ||
んもう、疲れたー! この天才魔道士エステルちゃんを、こき使うなんてひどいよ! | ||
入ってきたのは、エステルと……。 | ||
やれやれ、若い奴は辛抱がねぇぜ。ちっとは我慢を覚えろってんだ。 | ||
そういうアンタこそ、さっきまでぼやきっぱなしだったじゃないですか。 | ||
余計なこと言うんじゃねえよ! それに、あんなのは、ぼやいているうちに入らねえからな? | ||
ねぇ、アネモネ様~。私疲れちゃった。みんなでお休みしな~い? | ||
今はふざけている場合ではない! 真剣味が足りないわよ! | ||
まったく、アネモネは真面目だなぁ。あんなんじゃ、嫁の貰い手がねぇよな。 | ||
ロベルト、聞こえてるわよ……。 | ||
おっと。 | ||
そこへ、オルハが音もなく部屋に入ってきた。 | ||
いつものことだから騎士たちは誰も驚かない。 | ||
団長、それにみなさん。心配には及びません。 | ||
私たちと同じく、歪みと戦う力を持った者たちがこちらの世界に存在しています。 | ||
それは、本当かよ? | ||
私には感じるのです。彼らの持つ力を……。 | ||
オルハは、穏やかな表情で全員を見回した。 | ||
彼らの中から、才能のあるものを見いだしましょう。 | ||
ですが、誰でも入団させるというわけにはいきません。騎士になるには、実力と覚悟が必要です。 | ||
ではこうしましょう。騎士候補者たちと現団員たちとでチームを組ませて競争し──。 | ||
成績が優秀だった者たちを入団させることにするのはいかがでしょう? | ||
一緒に戦えば、その者たちがどれほどの器を持つ者なのか、わかるはずです。 | ||
騎士たちは、目を見合わせてから──力強く頷いた。 | ||
決まりだな。では早速チーム分けだが……。 | ||
セドリックは騎士たちの顔を見回す。 | ||
そして、ふっと意味ありげに笑って見せた。 |
あーあ、アネモネ様と同じチームがよかったのになー。 | ||
チームを率いることを命じられたエステルは、子供みたいに頬を膨らませていた。 | ||
不満なのはこっちの方だ。なんで、俺がこんな子供の部下なんだよ。 | ||
子供ってなによ!? 天才魔道士エステルのこと、舐めてるのー? | ||
憤慨するエステルを、ロベルトは容易くいなす。 | ||
はいはい。それよりも、オルハが言ってた騎士団員候補生ってどこにいるんだ? | ||
付近には、それらしい人物はいない。 | ||
あれ? もしかして、集合場所と違うところに来ちゃったかなー? | ||
お前っ! 何も考えないで適当に歩いてたのかよ!? | ||
そんなふたりの側に、1匹の犬が駆け寄ってきた。 | ||
わあ、可愛いわんちゃん! お前の飼い主はどこなの? | ||
エステルが、犬を抱き上げようと手を伸ばす……。 | ||
すると、駆け寄ってきた犬の体が、突然むくむくと膨らみはじめる。 | ||
可愛かったはずの犬は、たちまち巨大な魔物に変化した。 | ||
ぐおおおおおおおおーん!! | ||
おい、エステル下がれ! こいつは、魔物だ!ちっ、どうしてこんなところに魔物がいるんだ? | ||
ん? ロベルト、ちょっと待って。 | ||
剣を抜こうとするロベルトを制して、エステルは犬だった生物に近づく。 | ||
……なになに? ふんふん。 | ||
お前、魔物の言葉がわかるのか? | ||
この子は魔物じゃないみたい。猛獣使いのご主人様に飼われてる戦闘用の「竜魔獣」だって。 | ||
竜魔獣? そんな物騒な獣を放し飼いにしてる主人は誰だよ? まったく……。 | ||
名前はエスタロスだってさ。 | ||
歪みから出た魔物と戦うために、ご主人様と共に駆けつけるつもりだったけど……。 | ||
直前で、ご主人様がぎっくり腰で動けなくなったから、代わりにこの子が1匹で来たってさ。 | ||
巨大な竜魔獣は、エステルの言葉に同意するように唸った。 | ||
うわ、うるせえ! でも、お前の志は嬉しいが、騎士って感じがしないよな……。 | ||
エスタロスが、ロベルトに向かって巨大な牙を剥き出した。 | ||
わ、わかったよ! 怒るなって! | ||
ねえねえ、おじさんたちって騎士団の人? | ||
突然、ロベルトに声をかけてきたのは、男の子と女の子のコンビだった。 | ||
1本の大きな剣をふたりで大事そうに抱えている。 | ||
そうだけど君達は? もしかして迷子になった? | ||
俺たちを! | ||
あたしたちを! | ||
バカにするなー! | ||
俺は「ウッド」。冒険者だった父ちゃんの遺志を継いで! | ||
あたしは、「リーリ」。父ちゃんの形見の剣を携えて! | ||
あたしたち「ウッド&リーリ」が、参上したんだ(の)! | ||
お……おお? 兄妹なのは、結構だが……いちいちハモらないと喋れないのかよ? | ||
死んだ父ちゃんの代わりに俺たち! | ||
あたしたちが! | ||
平和を乱す、悪い竜を退治するんだ(の)! | ||
ウッドとリーリは、ふたりで一本の大剣を華麗に振り回してみせた。 | ||
へー、剣さばきはなかなか鋭いわね。鍛えたら役に立つかも。 | ||
でもよ、犬とか子供とか……。もっと騎士らしい候補生はいないのかよ? | ||
その言葉に、エスタロスとウッド&リーリが、同時に非難の声をあげる。 | ||
俺たち! | ||
あたしたちを! | ||
侮るな! このあとのチーム戦で兄弟の力を見せてやるからな(ね)! | ||
ぐおおおおおおおおおおおおんーー!! |
塾団長、確かこの辺りにいるはずです。オルハさんが力を感じたという新しい騎士候補生は。 | ||
いくら力を感じたとはいえ、まだ入団させるか決まってないわ。 | ||
細かいことは言わずに、全員入団させてしまえばいいのでは? | ||
簡単に言うけど、それじゃあ団長に気苦労を押し付けるだけね。 | ||
話しながら進んで行くと、大勢の人だかりができている広場に到着した。 | ||
彼らは騎士のアネモネとルートヴィッヒの顔を見るなり、表情を引き締めた。 | ||
どうやら、こいつらが騎士候補生ってわけか。使えなさそうな奴も混じっているけどな……。 | ||
集まった者たちは、境界騎士団に入ることを望む者たちばかり。 | ||
しかし、その中でも一際目を引く者がいた。 | ||
お初にお目にかかる。私はカシア・クルシュトだ。 | ||
なんだ、驚いた顔をして? ああ、この翼が珍しいのか? | ||
それもそうだけど……。 | ||
アネモネの視線は、カシアが担いでいる大鎌に注がれていた。 | ||
ふっ、副団長らしいですね。 | ||
この大鎌には、同じ部族の者たちの魂が込められている。切れ味は実戦でご覧に入れよう。 | ||
魂……? もしかして、あなたの部族は……。 | ||
ああ、「歪み」から現れた魔物との戦いで全て……。 | ||
カシアの話を聞いて、似たような経験を持つアネモネは、悲しそうに目を伏せた。 | ||
辛い目にあったのね。気持ちは察するわ。私も「歪み」との戦いで部下を……。 | ||
生き残った私たちは、死んだ者たちの分まで、戦い続けなきゃならない。 | ||
アネモネは、少し潤んだ目でカシアを見つめる。 | ||
その姿に過去の自分を重ね合わせているのだろうか……。 | ||
そしてアネモネは、突然、カシアの手を取って熱く宣言する。 | ||
カシアさん、あなたの入団を許可します! | ||
副団長! チーム戦が終わるまで、勝手に決めちゃダメですよ。 | ||
アネモネは、はっと我に返った。 | ||
そうよね……。カシアさん、いい働きを期待しているわ。 | ||
カシアと別れて、他の候補生たちの調査を続けることに。 | ||
すると、自分がどうしてここにいるのかわからないような顔で立っている少女を見かけた。 | ||
あの~。ここは~、どこなのでしょうか~。 | ||
どうやら、一般人が紛れ込んじまったみたいですね。どうしますか? | ||
でも、あの子の周りにいる獣は? 一般人とは思えないわ。 | ||
あ~、この子は、「水霊獣」のクルンちゃんです~。クルンちゃん、ご挨拶~。 | ||
少女に促されて、水霊獣はぺこっとお辞儀する。 | ||
クルンか、結構可愛い霊獣だな。ほらほら~。 | ||
子猫をあやすように指を差し出すのを見て、突然、クルンの表情は一変した。 | ||
水霊獣なのに、拳を固めてルートヴィッヒをグーで殴ろうとする。 | ||
あ~、クルンちゃんは、私以上に怒りっぽいですから言葉には気をつけてくださいね~。 | ||
ルートヴィッヒは、渾身の一撃を間一髪でかわした。 | ||
あぶね! こんな凶暴な霊獣、見たことねぇよ! | ||
あの~。ところで~お聞きしたいんですけど。 | ||
こっちも聞きたいことがあるわ。あなたは何者? どこに向かおうとしているの? | ||
あ~、あたしは~チュリーといいます。そしてこの子は~。 | ||
それはさっき聞いた。 | ||
そうでした~。で、あたしはクルンちゃんと、境界騎士団に入れてもらいたくて~。 | ||
……私たちが境界騎士団だけど? あなたも入団希望者なの? | ||
あ~、そうなんですか~。それはよかったです~。 | ||
つかみどころのない奴だ。だんだん不安になってきたぜ。 |
これほどの多くの者たちが集まってくれるとは……。喜ばしいことだ。 | ||
集まった騎士候補生たちを眺めて、セドリックはしみじみとつぶやいた。 | ||
最初は「歪み」の存在すら、知られていなかったというのに……。 | ||
セドリックは、やや眉をひそめた。 | ||
それだけ「歪み」の出現が頻繁になってきたということでもある。 | ||
だからこそ我々も仲間を増やし、力を付けなければなりません。 | ||
もう一度、セドリックは目を細めて集まった者たちを見つめた。 | ||
まるで、遠い過去を振り返っているような悲しさを湛えた目をしている。 | ||
オルハは、何も言わずにセドリックの横顔を見つめていた。 | ||
ん? 子供が混じっているな? | ||
騎士候補生の中に先込め銃をいくつも背負ったあどけない少女がいた。 | ||
あなたが団長さんだね? 僕はティーレ。田舎じゃ多少は名の通った賞金稼ぎさ。 | ||
賞金稼ぎがなぜここに? | ||
なんでも「歪み」ってところから現れた魔物に手こずってるそうじゃないか。 | ||
そういう時は、僕に任せなよ。こう見えても魔物退治は得意なんだぜ? | ||
ティーレは銃を握って、銃口をセドリックに向ける。 | ||
セドリックは、とっさに腰の剣に手を伸ばすが……。 | ||
あんたとやりあうんじゃないよ、っと! | ||
空いた手で握っていたコインを、空に向かって弾き飛ばす。 | ||
空中で回転しながら落下するコインに目掛けて、ティーレは素早く引き金を引いた。 | ||
落ちてきたコインの真ん中には、銃弾が通過したことを示す穴が、ぽっかり空いていた。 | ||
ほう、見事な腕だ。 | ||
どう? 僕ってすごいでしょ? 子供の頃からずっと、魔物相手の賞金稼ぎで食ってるんだ。 | ||
君のような子がいるとは、世界は広いな……。このあとの対抗戦、期待しているよ。 | ||
ティーレと別れたセドリックだったが、気がつくとオルハがいない。 | ||
視線を彷徨わせてオルハを探す。 | ||
すると、離れた場所からオルハがひとりの少女を伴って来るのが見えた。 | ||
あちらにいるのがセドリック団長です。ご挨拶を……。 | ||
こんにちは、セドリック団長! 私はルピラよ。よっろしくねー。 | ||
妙にノリが軽い。隣にいるオルハとは、正反対のタイプの女の子だ。 | ||
なんだか私もオルハさんと同じような力があるみたいなんですけど、よくわかんないんですよね。 | ||
ルピラという少女は、さらりととんでもないことを打ち明けた。 | ||
「歪み」とか私よくわかんないですし、将来の夢は、「ルピラ姫」って呼ばれることなんでー。 | ||
姫といえば、守ってくれる「騎士」が必要でしょ? | ||
将来、私の部下になる人たちと、仲良くなっておくのも悪くないですよね? | ||
そうか……。 | ||
恐れを知らない少女。 | ||
無垢といえばそれまでだが、セドリックは正直反応に困った。 | ||
というわけで、セドリック団長に命ずる。今日から私のことを「姫」と呼ぶのじゃ! | ||
ひ……姫だと? | ||
ルピラ、さすがに調子に乗り過ぎです。団長が困ってらっしゃいますよ。 | ||
そうなの? 困らせちゃってごめんなさい。 | ||
ははっ……構わないよ。 | ||
オルハは、セドリックに近づいて、ルピラに聞こえないような声で囁く。 | ||
まだ若いので世間知らずなところがありますけど、ああ見えて将来有望です。 | ||
セドリックは、目を見張った。 | ||
オルハがこういうことを断言するのは珍しい。 | ||
まさか、オルハ。彼女は、君と同じ素質を……? | ||
何も言わずに、オルハは頷く。 | ||
これは新しい希望になるのか、それとも……。いや、今は考えてもしょうがないな。 | ||
セドリックは身を翻すと、集まった候補生たちと、騎士たちに向き直る。 | ||
みんな、よく集まってくれた。これから、チーム対抗戦を始める。 | ||
模擬戦ではあるが、それぞれの実力を計るためのものでもある。存分に力を発揮して欲しい。 | ||
セドリックの言葉に応じるように、集まった者たちから大声が上がる。 | ||
みんなの気持ちは昂っている。 | ||
いい結果が期待できそうだ、とセドリックは心の中で微笑んだ。 |
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ヒルデ |
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