Halloween Night

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Halloween Night

プロローグ

……これじゃ全然足りないにゃ。
──空になった皿の前で、ウィズは不満そうな声を上げる。
お菓子をもらえるのは子供だけだなんて誰が決めたにゃ。
──猫は甘さを感じない、と聞いたことがあるけれど……?
それはそれ、これはこれにゃ。
──この日、トルリッカの街は、ハロウィンの祝祭で賑わいをみせていた。
──お菓子をもらいに行こうとウィズはドアを爪で掻く。
こらこら、それだけじゃ足りないとでも言うのか?
──ウィズの様子に気づいたバロンが君に声を掛ける。
街中は大変な人出だからな。私は少し見回りに出てくるぞ。
お前はここで待機していてくれ。
──バロンはそう言い残し、騒めきの響く街へと出かけていく。
……やっぱり、今は甘いものをお腹いっぱい食べたい気分にゃ。
そうにゃ! 私たちも変装してお菓子をもらいに行くにゃ!
──ウィズのいきなりの提案に君は呆れる。
──そもそも、バロンに待機を命じられたばかりだ。
にゃはは、怒られたら後で何とかすればいいにゃ。
──ウィズは玄関先に置かれた『ジャック・オー・ランタン(カボチャのマスク)』に体を突っ込み、
にゃは、変装完了! にゃ。
──ただの置物にしか見えない……。
そうかにゃ?
……変装って難しいにゃ。
──ようやく諦めをみせたウィズは大人しくマスクから出ようとする。
──しかし……。
にゃ? あれ!? ん~ぎゃ……。
──マスクの下から、ウィズのうめき声が聞こえてくる。
で、出れないにゃ! ちょっと手伝ってにゃ!
──君はカボチャをつかんでウィズを引っ張り出そうとする。
にゃっ……もっと優しく……してにゃ。
──言われたとおりウィズの足を優しく引くが、すっぽりとはまっているのかびくともしない。
──ここは心を鬼にして一か八かに出るしかない。
──君はウィズを掴む手に力を込めた。
にゃにゃ……うにゃ~!!
──やっとのことで、ウィズを引き抜くことに成功する。
──が、勢い余った君はウィズを抱えたまま部屋のドアを突き破ってしまう。
!?
──次の瞬間、まばゆい光が二人の周囲を包み込む。
──空間にぽっかりと現れた穴は、君とウィズを飲み込み……。
──そして、何事もなかったかのように口を閉じる。
──シーンと静まり返った部屋に、両手いっぱいにお菓子を抱えたバロンが戻ってくる。
おい、お留守番のご褒美を……。
ん?
──そう言ったバロンは室内に誰もいないことに気付く。
あいつら……あれほど部屋にいろと言ったのに!
──床に転がるジャック・オー・ランタンが、あたかも笑っているかのように揺れていた。
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<登場キャラ>
プフタバサニーナ
ポポルサキュナBTキャット
エミージル(猫)セリナ

第1話 お菓子の家

にゃ……。
ここは……どこにゃ?
──気づくと君たちは見知らぬ場所にいる。
トリック・オア・トリート!
──カボチャの帽子をかぶった可愛らしい女の子が、背後から声を掛けてくる。
お菓子をくれないと、悪戯しちゃうぞ!?
あれ!? このへんじゃ見ない顔。それに、こっちは可愛らしい黒猫さんね。
──さっきまで、ギルドにいたはずなのに……と君は首をかしげる。
ぎるど? なんだか渋そうな名前。
わかった! あなたたち、甘さにつられてぎるどってとこから逃げてきたのね?
──段々と、君は状況を把握しはじめる。
──ここはきっと、さきほどまでいた世界ではなく──。
大丈夫、歓迎するわ。ようこそ、ハロウィンへ!
──女の子は挨拶とばかりにウィズの体をくすぐりはじめる。
に……にゃははは! やめるにゃ、くすぐったいにゃ!
──たまらずウィズが声を上げると──。
──女の子はウィズを見ながら、真ん丸な目玉を見開いて、
お……お姉ちゃーん! 来て~!
どうしたのプフ? そんな大声出して。
こ、ここに喋る猫がいるよ! それに、ぎるどってとこから来た人も!
──当惑しつつ、君はここに来た経緯を話す。
そうですの? では、どうにかして元の場所に送り届けてさしあげないと……。
そう言えば申し遅れました。わたくし、タバサともうしますの。
──タバサと名乗った少女の姉は、自分のことのように心配してくれている。
今日は、ハロウィン──。
死んだ祖先たちが年に一度だけ元の世界へと戻ってくる日。
こんな良き日にあなた方が見えるなんて、なにか運命めいたものを感じますわ。
にゃっ!
今度は何にゃ!?
──スカートから尻尾を出し、耳の生えた女の子がウィズの匂いを嗅ぎまわっている。
ちょっとニーナ、何してるの?
──ニーナと呼ばれた少女はウィズから顔を上げると、
……うん。危ない人たちじゃないみたい。
──ニーナはもともと姉妹が飼っていた狼でプフが魔法で女の子に変えたのだという。
でも、失敗して耳や尻尾が残ってしまって。
別に……いいよ。私はこのままでも。
そのうち魔法が上手くなったら直してあげるからさ。
最初から百点取れる人なんていないのよ。誰だってそうでしょ?
相変わらず能天気な子ね。
──颯爽とやってきたのは、尖った衣装を身に纏った少女だ。
げ……。
がうっ……。
サキュナ、どうしましたの? なんだか嬉しそうですけれど。
えっへへ~。ちょっといい情報があってさ。
いい……情報?
この先に、お菓子をいっぱいくれる家を見つけたの。
プフが行きたいんじゃないかなって思ってさ。
お、お菓子? いっぱいくれるの?
そーよ。あっちにポポルが見えるでしょ?
あの家で、美味しいお菓子を配ってるの。
──サキュナの指さす方に目を向ける。
──すると、クマのように大きい生き物が、一心不乱にお菓子を頬張っているのが見える。
──家の前では村の子供たちが列を作って並んでいる。
ムシャムシャ。美味しいポポ! これだからハロウィンは止められないポポ。
ほらプフ、あんたもお菓子をもらいに行かなくていいの?
ポポルに全部食べられちゃうわよ。
お姉ちゃん? アタシ、行ってもいい?
……そうねぇ? でも、あんなところにお菓子の家なんてあったかしら?
──タバサは怪訝そうにお菓子の家を見つめた。


ほらほら、プフ、こっちよ。
──サキュナが子供たちで行列のできているお菓子の家へとプフを誘う。
……何かしら。とても嫌な予感がするわ。
気を付けるのよ、プフ
ポポル、全部食べちゃダメだからね! アタシまだもらってないんだから。
ムグムグ……まだまだいっぱいあるポポ。焦らなくてもOKポポ。
プフったら、お菓子のことになると、夢中になってしまうんだから。
プフ……心配。
──サキュナに導かれ、お菓子の家の前にやってくると──。
ほーら、みんないっぱい食べるのよ。
そしてお腹いっぱいになったら、お姉さんと一緒にいいところに行こうね~。
あれは……セリナ!?
あら……面倒なのがついてきてしまったみたいね。
サキュナ! 連れてくるのはプフだけって言わなかったかしら?
あー、そうだったっけ?
これはどういうことかしら、セリナ
もしかしてあなた、また──。
もう……計画が台無し。でも、私の邪魔はさせないわよ。
──セリナは、持っているランタン杖を天高く振り上げる。
──するとどこからか亡霊たちが集まってきて、彼女の周りで踊り始めた。
もっと回って! ……もっと速く!
──ランタンに灯る青い炎が激しく光ったかと思うと、突然家の周りで旋風が巻き起こる。
──風は勢いを増し、家の前で待っていた子供たちを天高く巻き上げてしまう。
ふふふっ、上手くいったようね。
あの子たちをどうするつもり!?
聞かれて簡単に答えると思う?
──子供たちを乗せたお菓子の家は、空の中へと消え去り……。
──後にはセリナの不敵な笑い声だけが残る。
すぐに追いかけなきゃ。プフ、行くわよ!
──追いかけようと足を踏み出す彼らの前に、突然セリナの手先が立ちはだかる。

(戦闘終了後)

大変なことになってしまったわね。
アタシ、お菓子、一つも食べてないのに!
まだこれじゃ全然足りないポポ。
みんなお菓子のことばっかり!
そんなことより、もし子供たちが戻らなかったらどうするの?
な……何よ、アタシのことジッと見て。
みんながどこに連れ去られたか知ってるわよね?
……見当はつくけど。
それじゃ、案内して。恐ろしいことが起きる前に。
そういうことならアタシも頑張る!
……見習いだからまだ力不足だけど。
私も……一緒に行くから!
よーし、ニーナ! アタシについてきて!
うん!
魔法使いさん、あなたのお力も貸していただけませんでしょうか?
──もちろん、と君は答える。
──蚊帳の外に置いてきぼりのサキュナは、面倒くさそうに腕組みしながら、
……ま、子供たちに何かあったら目覚めも悪いし──。
いいよ、一緒に行ってあげる。
──こうして一同は、セリナが子供たちを連れ去った険しい山の頂を目指し歩き出した。
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第2話 BTキャット

──一行は薄暗い森の中を進んでいる。
なんだか薄気味悪いところだね。
お菓子の匂いは……しないポポ。
……あれ? なんでポポルまで一緒に来てるの?
ポポルはお菓子が好きポポ。
でも、一人でお菓子を食べてても楽しくないんだポポ。
──辺りは先ほどまでのお祭りの喧騒が嘘のように静まり返っている。
……そっか。じゃあ、一緒にみんなを助けようね!
ポポル、本気出すポポ!
そう言えばプフ、もうすぐ試験だったわね。
──"試験"ってなんのこと? と君は尋ねる。
今度、魔法使いになる試験があるんです。プフは見習いを卒業するんだものね?
どうせ受かりっこないけど……。
そんなこと言わないの。年に一度のチャンスなのよ?
お姉ちゃんだってアタシの歳には、魔法使いになってなかったじゃん?
大丈夫、あなたには才能があるのだから。
でも、ニーナは失敗しちゃったし……。
──ニーナは耳と尻尾を申し訳なさそうに隠し、
私は……プフとお話できるようになれただけでも嬉しいよ。
そういうことなら、少し指導してあげないこともないにゃ。
指導……?
こっちの世界の"魔法が"どんなものかわからないけれど──。
たぶん、どうにかなるにゃ。
──ウィズは、誇らしげに胸を張る。
ひょっとして、先生なんですか?
──君はそうだと頷く。
それじゃ、ぜひよろしくお願いします!
──タバサは走り寄り、君の前に頭を下げる。
にゃ!?
──君は慌てて訂正し──。
先生って……そっちの黒猫が!?
え!? 本当ですか?
その目……全然信じてないにゃ?
──どことなく不機嫌そうなウィズを見て、胸を不安がちょっとだけよぎった。


──ふて腐れているウィズを気遣いながら、君はプフに魔法使いになりたい理由を尋ねる。
そ、それは……。
──プフはなぜか答えに詰まってしまう。
お菓子が食べられるからよね?
──君がキョトンとしていると、
お菓子は魔法使いの必需品ポポ。
お菓子の甘いエネルギーが不思議なパワーを生み出すポポ。
お菓子はとっても素晴らしいものポポ。
解説ありがとね、ポポル。でも、それだけが理由じゃないし!
それだけじゃないって、お菓子も理由なんだ!?
甘いにゃ。
──それまで黙っていたウィズが声をあげ、
生半可な気持ちでいたらいつまでも一流にはなれないにゃ。
べ……別に一流じゃなくてもいいもん!
プフは……一生懸命だし……!
盛り上がりそうなとこ悪いんだけど、お客さんみたいだよ。
──と、たくさんの猫を引き連れた女の子が現れる。
あなたたちがセリナ様の計画を邪魔する者たちね!? 覚悟なさいッ!

(戦闘終了後)

まさか、こんなお子様たちにやられてしまうなんて……。
なんだか同類を懲らしめたみたいで心が痛むにゃ。
見たところだいぶ猫好きみたいだしにゃ?
それはもう……心から愛していますわ。
なんだかお上品な言葉づかいね?
あら? やはりこんな姿になっても生まれは隠せないものですわね。
申し遅れました。私、ブラックティップス・キャットと申します。
言いにくいようでしたら、"BTキャット"と呼んでください。
以前はとある王国の姫をしておりました。
お姫様!? そんな方がどうしてこんなことを?
それは……完全なる猫になるためですわ。
私、どうしても猫の気持ちが知りたくてセリナ様にお願いをしたのです。
猫の姿にしてください、と。
セリナ……様!?
代わりに、私からは宝石を差し上げました。
でも、あの方はそれでも契約に釣り合わないと言って……。
半分だけ、猫にしてくださいました。
そしてもし、純粋な猫になりたければ──。
あなた方を懲らしめるよう言いつけたのです。
でもこんなにいい方々ばかりなのに、どうして?
昔から『猫好きには悪い人はいない』と言うではないですか?
そんなこと聞いたことないけどね。
そうかしら? とにかく、あなた方を傷つけなくてホッといたしました。
この先もセリナ様が魔物を遣わしていますので、くれぐれもお気をつけて。
まだこの先にも?
それでは私は、このニャンコちゃんたちと森の中で戯れてきますわ!
ではご機嫌よう!
良かった……みんなが無事で。
……セリナって魔法使い……どうにも三流の感じがするにゃ。
──プフは神妙な面持ちで、去っていくブラックティップス・キャットを見つめている。
※話の最初に戻る
第3話 手作りクッキー

魔法を教えてください!
──カボチャの帽子を落としそうになりながら、プフがウィズに頭を下げる。
どういう心境の変化にゃ?
アタシ、一流の魔法使いになりたいの! そして、みんなを助けたいの!
目の色が変わったみたい。
プフが頑張るなら……応援するよ。
よーし! それじゃあ特訓にゃ!
──歩きながら講義は進む。プフの顔に、それまでの甘えた表情は見えない。
そうなんだぁ! 魔法って楽しいね!
──そんな様子を傍目に見ながら、君はなんとも言いがたい妙な心境に襲われる。
気分でも?
──大丈夫と君は答える。
あの、よかったら。
──そう言ってタバサは、ポケットからカボチャのクッキーを取り出す。
これ、今日のハロウィン用に作ったんです。もしよかったらどうぞ♪。
──美味しい! 頬張った君は思わず声を上げる。
何が美味しいポポ!?
──先行して森を探索していたポポルが香りに気づいて戻ってくる。
クンクン……なにか甘~い香りがするポポ?
ポポルにもあげるからね。
──差し出されたクッキーを大きな爪で器用に挟み込んだポポルは……。
──指先にある小さなクッキーを見て悲しそうな表情を浮かべる。
これだけポポ?
それじゃあポポルにはお腹いっぱいにはならないか。
ちょうどいいにゃ。あのクッキーを大きくしてみるにゃ!
──小さなクッキーを見て落胆しているポポルに気付いたウィズが、プフに魔法を促す。
気持ちを集中すればできるにゃ!
気持ち……集中……。
──プフは持っているスティックを振り上げる。
大きくなれ~、えいッ!
わはっ! これ全部食べていいポポか!?
──ポポルの巨体は、持っていたクッキーに押し倒されている。
ほら、やればできるにゃ!
──いつの間にかプフの顔には晴れやかな表情が戻っていた。


なかなかやるにゃ!
えっへぇ~。
あとは力加減を覚えないとにゃ。
ねえ早く行こう!? アタシの魔法で、みんなを助け出すんだから!
そうね、急がないと。子供たちのことを考えたら一刻も早く行ってあげなきゃ。
──急に駆け出したニーナが落ち着きなく前方に向かって鼻を鳴らした。
なにか……くる……!
──すると、ハアハアと息を切らせながら、二匹の奇妙な犬が現れる。
──走り寄ってきた犬は、様子がどこかおかしい。
この犬たち、なんかちょっと変だよ!?
そいつらは、普通の犬じゃないのさ。改造犬さ。
かいぞうけん?
ああ。体に継ぎはぎがあるだろ?
──確かによく見ると、二匹の体には糸で縫い合わせたような痕が至るところに見える。
ってことは、エミーが来たみたいだね。
──巨大なスパナを担いだ少女が、ノッシノッシと現れる。
よくやった。邪魔者たちを見つけたみたいだね。
ご褒美にたっぷり充電してあげる。
──二匹の犬たちは、言葉の意味が解るのか、彼女の周りでキャンキャンと飛び跳ねている。
じゅうでんって、どういうこと?
そいつらは機械なのさ。
機械……?
そう。一度死んでるの。それをセリナが改造して蘇らせたってわけ。
改造されてるのは犬だけじゃないけどね。
私には、こうインプットされている。
ドクター・セリナの敵は、私の敵、とね。
──エミーは、節々からモーター音を響かせながら不気味に近づいてくる。

(戦闘終了後)

機械の私が、生身の奴らに負けるなんて……たっぷり充電してきたのに……。
──怪力を誇っていたエミーが、力なく膝をつく。
どこかに電源はないか?
……ないだろうな。では、このまま本当の死を迎えるまでか……。
──エミーを舐め回し、元気づけている犬たちにもどうすることもできない。
お姉ちゃん?
クッキー、まだある?
少しだけなら残ってるけれど。
それ、この人にあげようよ。
……ええ、いいわよ。
……ポポ……。
──タバサは、動けなくなったエミーの元へ行き、お手製のカボチャクッキーを差し出す。
どうぞ。
……これは……。
お姉ちゃん特製のカボチャクッキーだよ。
──タバサからクッキーを受け取ったエミーは、口に運び、ひとかけらかじる。
……!?
──エミーの体には力がみなぎり、体力がみるみる回復していく。
こんな美味しい食べ物を長い間忘れていたなんて……。
……残念だ。今の私はお前たちを敵として認識できない。
──そしてエミーは、プフタバサに深々とお辞儀をし、森の中へと消えていった。
──その姿を見送ったプフのお腹がクーと一鳴きする。
あー、ホッとしたらお腹が空いちゃったぁ。お姉ちゃん、クッキーまだある?
え!? あれが最後の一枚だけど?
嘘っ!? ああ、もう力がでない……。
──今度はプフが、その場にへたり込んでしまった。
※話の最初に戻る
第4話 腹ペコの収穫祭

──一行は目的地の近くまで来ていた。
──気温はぐっと冷え込み、みんなの顔に疲労の色が見え始めた。
みんな頑張って! 頂上まであと少しよ!
もうお腹が減って歩けないポポ……。
プフ? 魔法でおっきなお菓子出してみなよ。
一流のアンタならできるよね?
……む~。
──空腹はいつも元気いっぱいのプフからも体力を奪っている。
プフ、無理しないで?
──負けず嫌いのプフは、残った力を振り絞り、
ようし……やってみる。
プフ、できるポポ?
──その言葉に頷き、プフはスティックを振り上げる。
お菓子よー! 出てこい!
──……。
……ポポ?
──精根尽き果てたプフは、その場に座り込んでしまう。
プフ
お腹が空いて……力が出ない……。
無茶しないのも、大事なコトだにゃ。
猫先生……。
──みんなの体力は限界に近付いている。
──先を急ごう、と君は言う。


もうなんでもいいから食べ物が欲しいポポ。
もっとたくさんクッキーを焼いておくんだったわ……。
な、なによ? そんなにアタシのこと見ないでよ!
その……反省してるわよ、少しは。
──すると朦朧としたポポルの目に、なにか地面で光り輝くものが映る。
あ! あれは!
──雲の隙間から差し込む陽が、一粒のどんぐりを照らしている。
ど、どんぐりポポ!
──この時ほどポポルの俊敏な動きを見たことがない。
──駆け寄り大きな爪で摘み上げたポポルは、小さな粒を愛おしそうに見つめる。
これは天からのお恵み……いや、物忘れの多いリスさんからのお恵みポポ!
──みんなの羨む視線など気にもせず、ポポルは一粒のどんぐりに向かい大口を開く。
いっただっきまーす!
──どんぐりを頬張ろうとした……その瞬間、山の中に一発の銃声が鳴り響いた。
んがーっ! リスさんからのお恵みがぁ!!!
──指先を見つめたまま、ポポルが悲鳴を上げた。
──一行が辺りを見回すと、岩の陰から一筋の白煙が立ち上っている。
あ! あそこ!
あなたたち、怪我しないうちに引き下がった方がいいかもねぇ?
──銃を構えた女の子が腰をくねらせながら岩陰から姿を現す。
あんたは猫スナイパー・ジル!
あら? サキュナもいるわけ? セリナ様の手下だったら間違えないでくれる?
なにを?
正確には、私は猫じゃなくて豹だからね~?
どっちだっていいよ! それと、セリナの手下じゃないから。
なに言ってるの? 猫娘と女豹じゃぜんぜん違うじゃない?
このぉ! ポポルのどんぐり、返せポポ!
──怒りに狂い雄叫びを上げ突進していくポポル。それに対しジルは再び銃を構えた。
──それを見た君は咄嗟にカードを握りしめる。

(戦闘終了後)

──戦いに敗れたジルの頬を猫たちが優しく舐めている。
お前たち、無事だったの?
にゃ~。
そう……良かった……。
──ジルは優しい微笑みを浮かべると、満身創痍の体を押して立ち上がる。
──させないッ……!
──向かっていこうとするニーナタバサが引き止める。
待って。敵意は……ないみたい。
!?
──ジルは、ふらつきながらも、おもむろに頭を下げた。
ありがとう。……この子たちには攻撃しないでくれたのね?
なんと言ったらいいのか。
──君は猫に罪はないからと答える。
恥ずかしい限りね……。
……私の負けね。
──ジルはすんなりと山頂までの秘密の近道を教えてくれた。
気をつけて。セリナ様は一筋縄では行かない相手よ。
──そう告げると、ジルは猫たちと共に山の奥へと消えていった。
──君は一ついい知らせがある、とウィズに言う。
いい知らせってなんにゃ?
──プフが先ほどのバトルに参戦し、魔法を繰り出していたと君は伝える。
にゃにゃ? 本当にゃ!?
──ウィズが、プフを褒めようと彼女の元に走る。
プフ──?
──声を掛けるが、プフは下を向いたまま呆然と立ち尽くしている。
どうしたのにゃ? 浮かない顔して。
──地面に注がれた視線の先を追う。
なんにゃ!? これは?
──プフの足元には、様々な種類のお菓子が散乱している!
どうしたにゃ? これは!
こんなにどこに隠してたポポ!?
アタシ見ちゃった。……言ってもいい?
……。
これってまさかにゃ?
そう。そのまさかよ。プフが魔法で作り出したの!
バトル中に……お菓子を?
だって……お腹が空いてしょうがなかったんだもん!
みんなの力になるって言ってたくせに……ダメな子だよね、アタシ……。
……やっぱり、魔法使いに向いてないのかな。
──プフは下唇を突き出し、顔を覆って泣き出してしまう。
まずいにゃ……完全に自信を無くしちゃったにゃ。
──どうすることもできず、君はただプフのすすり泣く声に耳を傾ける。
※話の最初に戻る
第5話 トリック・オア・トリート!

──頂上近くに差し掛かり、雲行きと同じようにプフの気持ちは暗く沈んでいた。
もう教えられることは全部教えたにゃ。……あとは自信を取り戻すだけにゃ。
元気出すポポ。もう少しでみんなにも会えるポポ。
ありがとう……。
みんなを助けて……そしたら、ハロウィンをやり直そう?
プフ、しっかりして。
……お姉ちゃん?
そんな顔して迎えに行ったら、みんなは嫌々来たんじゃないかと思うわ。
つらいかもしれないけど、せめて元気な顔で迎えに行かないと!
でも……こんなんじゃ、助けに行っても足手まといになるだけだよ……!
アタシ、どうすれば?
そうね……。
私は、楽しいことを考えるようにしているわ。
……楽しいこと?
そう。……だってあと少しでみんなに会えるのよ?
みんなの笑顔が待っているのよ?
みんなの……笑顔……。
プフ……ちょっと、笑ってくれた……。
あのね、お姉ちゃん。
なーに?
アタシ、魔法使いになれなくなったっていい?
どうしたの? そんな弱気になって。
だって、みんなを助けにいかなきゃならないのにお菓子のことばかり考えたりして……。
まだ、その資格はない気がするの。
だからアタシ……。
いいよ。プフがそうしたいなら、無理にならなくたって。
お姉ちゃんは、プフが見習いのままでも全然平気だよ。
!? でもお姉ちゃん、試験に受かれっていつも……。
いいのよ。プフが元気な笑顔を見せてくれたら。
お姉ちゃんは、プフが元気でいてくれたら、それだけで幸せなの。
それに、プフがなんであろうと、姉ちゃんの妹であるってことには変わりないからね。
……ありがとう、お姉ちゃん。
アタシ、頑張るから。ダメかもしれないけど、精一杯。
お姉ちゃん、アタシが魔法使いになれた方が嬉しいでしょ?
もちろん! 決まってるじゃない。
あー、聞いてたら、なんだか体が痒くなってきた!
この匂い……。
……あの建物は、お菓子の家ポポ!
──それまで立ち込めていた霧が晴れ──。
──山の頂に子供たちが連れ去られたお菓子の家が見えてくる。
行こう! みんなを助けに!
──プフの顔には、もう迷いはなかった。


──プフを先頭に、一行はお菓子の家の前へとやってくる。
いるんでしょ、セリナ! みんなを返して!
──…………。
──家の中はシーンと静まり返り、物音ひとつ聞こえてこない。
……あれっ?
──するとドアがゆっくりと開き、煙と共に人影が浮かんでくる。
──身構えるプフは、現れた人影を見て愕然としてしまう。
……お……姉ちゃん!?
──プフの前に立つのは、つい先ほどまでそばにいた姉の姿。
お姉ちゃん!? どういうこと……?
疲れたでしょ、プフ
ごめんね。あなたのこと、少し試していたの。
よく……頑張ったわ。さぁ、こっちへ。ケーキを焼いてあるわ。
──優しく微笑みかけるタバサの姿……。
──催眠術にでもかかったかのように手招きに応じてしまう。
ほら、早く……。
お姉ちゃん……。
──姉の手を取ったとき、プフの前に何か黒い影が飛び込んできた。
ニャー!
──突然現れた猫たちは、タバサの面影に向かい爪を立てる。
きゃあッ!!
は!?
──獣のようなその叫び声にプフは我を取り戻す。
──そしてタバサの姿は、セリナへと変貌を遂げた。
この猫め! あと少しだったのに。誰がこんなことを!
悪いわね。この子たちがどうしても助けようって言うものだから。
じ、ジル!? 私を裏切るつもり!?
裏切ったっていうより……目が覚めた、ってところかしら。
ちょっと! あなただけにいい格好は許しませんよ!
私の猫ちゃんもその中に混じっているのですから。
BT!? あなたまで!
良く考えましたら、いくら猫好きだからといって──。
私が猫になることはなかったということに気付きました。
……なので契約は破棄させていただけたらと思います。
くっ!
私も仲間に加えてもらえるかな? ちゃんと充電もしてきたからさ。
え、エミー!?
機械だってクッキーの恩は忘れないよ。
あらら、こうなっちゃうとは……。
サキュナ! お前は私の味方だよね!?
う~ん、別にアタシは誰の味方ってこともないかな?
サキュ……ナ! あたなって子は!
ゴメンね。アタシ、見ての通り流されやすいタイプなの。
──孤立無援の状態になったセリナは、小さなプフに泣きついてくる。
プフ、お菓子は欲しくない?
ほら、好きなだけ持っていっていいんだよ?
──プフは、どうすべきか考えあぐねているように見える。
どうしたのプフ
……アタシ……。
どうしたの?
自信を持つにゃ。
よく考えるにゃ。……プフは今、どうしたいのにゃ?
アタシは……アタシが今したいことは……。
──プフセリナに向かい手を差し出す。
お菓子はいらない! アタシが欲しいのは……。
子供たちよ!
みんなを返さないと、痛い目にあわせてやるんだから!
見習いのくせして、ずいぶん大きな口叩くじゃないか?
こうなったら、力でわからせるしかないようだね!
──ランタン杖を掲げるセリナに対し、プフは小さなスティックを構える。
トリック・オア……。
マジック!!

(戦闘終了後)

──プフの魔法の前にセリナの幻は砕け散った。
──そしてお菓子の家からは、奪われた子供たちが駆け出てくる。
みんな! 大丈夫だった? 怪我はない?
良かった! みんなが無事で!
どうして? 私がこんな小娘に!?
もうプフは、見習いなんかじゃないにゃ。一人前の魔法使いになったにゃ。
まだ……試験には受かってないけど。
今のプフなら大丈夫。試験にも合格できるはずにゃ。
──そう断言するウィズの言葉を聞いて、プフの顔に満面の笑みが浮かぶ。
なんだかたくましくなったみたい。
プフ、カッコいい……!
見直したポポ!
──そしてプフは、ウィズと君の前に歩み寄り、そっとお辞儀をする。
猫先生、どうもありがとうございました!
そんなに改まられると、なんだか照れるにゃ。
本当になんとお礼を申し上げたらいいか……。
──と、プフのお腹がグーと大きな音を立てる。
……あらあら。
──顔を赤らめるプフ
安心したら、なんかお腹が空いたみたい……。
──帰ったら一緒にオヤツにしようと君は言う。
──プフは感謝の気持ちを込め、被っていたカボチャの帽子をウィズの頭に乗せる。
これ、アタシの分身みたいな帽子なの。……猫先生、もらってくれる?
そんな大事なもの、いいのかにゃ?
でもサイズ、大きすぎるかな?
──プフは、ウィズに被せたカボチャを取ろうとする……。
──が、なにかに引っかかってしまったのか、外すことができない。
──加勢する君は、ウィズの体を掴み、力いっぱいカボチャの帽子を引き抜いてみた。
あ!?
──スポッと抜けた勢いで、君はバランスを崩す。
──すると突如閃く光が! 君とウィズはそれに目が眩んで……。
──気が付くと、そこは元の部屋だった。
夢? ……だったのかにゃ?
──それにしてははっきりし過ぎた夢だった、と君は答える。
にゃにゃ!
──ウィズは部屋の隅に何かを見つけ、黒い指先で示す。
──そこには、カボチャで作られた小さな帽子が落ちていた。
※話の最初に戻る
コメント(1)

コメント

  • KAGA No.90114321 2015/11/03 (火) 17:04 通報
    顔差分が無いと、編集が非常に楽なのですが……ボイスも含めて見たかったですねえ。
    1

削除すると元に戻すことは出来ません。
よろしいですか?

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