クロム・マグナⅡ 学園祭
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クロム・マグナⅡ 学園祭
◆◆◆プロローグ◆◆◆
──学園を揺るがした「あの事件」から半年。
教員、生徒が一丸となって手に手を合わせて協力し、ついに「新校舎」が完成した。
新校舎完成の記念式典で学園長ダンケルは声高らかに宣言する。
「あの日……開催が出来なかった我が校の学園祭」
「学園の復興記念と、更なる発展を願い、今こそ開催しよう!」
学園長の宣言にはしゃぐ生徒達の声を聞きながら、
ダンケルには考えていることがあった。
「あの事件」の解決に協力してくれた彼ら
──"魔法使いと黒猫"を是非とも我が校の学園祭に招きたいと。
その為の"鍵となる目印"は、あの日の別れ際に彼らへと渡してある。
あとは彼らをこちら側ヘと招き入れる儀式の準備を進めるだけだ。
間に合うといいのだが……。
──時を同じくして学園校舎裏。
そこには学園のはみ出しもの……いわゆる「不良」と呼ばれる生徒達が集まり、
今日も今日とて学園内での上下を決めるための喧嘩に明け暮れていた。
中でも異彩を放つ2人の存在。
生徒会執行部のヴォルフと、彼をライバル視している巨漢の生徒ジョージ・トドロキだ。
……まったくいい加減にして欲しいものだ、俺は番長になんて興味が無いんだが。
ヴォルフは見た目で勘違いされ易いが「動物」や「草木の花々」、
そしてこれは秘密だが「可愛らしいもの」が好きな心優しい男子。
争いに関しても出来ることなら遠慮願いたい。
生徒会に所属してからは立場的にも尚更だ。
煙に巻くようにしてはいるが、それも毎日続くようであれぱ身が持たない。
ヴォルフの気苦労など知らずに、ジョージが「今こそ学園最強の番長を決めるのだ!」と叫ぷ。
いつものように煙に巻きつつ逃げるヴォルフには閃いたことがあった。
『学園最強の番長』?……妙案を思いついたかもしれない。
すぐに学園長や生徒会に掛け合ってみよう。うまくいけぱ全て解決するかもしれない。
ヴォルフの提案は、"いくつかの条件"と共に実行を許された。
<番長ファイト基本ルール>
①善良な一般生徒に危害を加えない。
②校舎や備品を破壊しない。
③やり過ぎ厳禁。敗者には鞭を打つべからず。
④腕に自身のある者は誰でも自由参加可能。
⑤最期の一人『番長オブザ番長』になった者には、1年の期間中「学園の番長」として君臨出来る。
期間中は番長の命令は絶対。敗者達は従わなくてはいけない。
⑥次の大会実施まで1年間は生徒同士の私闘禁止。
大会はクロム・マグナ魔道学園の学園祭当日に開催される。
こうして華やかな学園祭を舞台に
『番長オブザ番長』の座をかけた不良達?の熱き戦いの幕が切って落とされた。
※話の最初に戻る
<登場キャラ>
イツキ | リンカ | ニコラ | ヴォルフ |
シャーリー | アーシア | MIU☆MIU | カエデ |
アキラ | ジョージ | エミリア | ダンケル |
第1話 プロローグ
──ウィズと共に街道を歩いていた君は、ふと、懐から魔力の波動を感じた。 | ||
うにゃ? 何事にゃ? | ||
──ウィズとそろって首をかしげつつ、魔力の源を取り出してみる。それは…… | ||
クロム・マグナ魔道学園の学生証にゃ? | ||
──そう。半年前、こちらの世界に転移してきた学園を元の世界に戻した時、手に入れたものだ。 | ||
──学生証から放たれる魔力は、やがて、空中にさらさらと文字を描き出す。 | ||
──『クロム・マグナ魔道学園祭にご招待!』 『参加されますか? ①はい ②いいえ』 | ||
学園祭ってことは、学園が復興したのかにゃ。 | ||
──きっとそうだろう。生徒会の面々……イツキたちの努力が実ったのだ。 | ||
──招待を受けない理由はない。君は微笑みながら①の文字を叩いた。 | ||
──すると、君とウィズの周囲に、激しい魔力の風が吹き荒れ…… | ||
──浮遊感を覚えたかと思うと、次の瞬間、周囲の気色が一変していた。 | ||
草原……にゃ? あ! あっちに学園があるにゃ! | ||
──ウィズの示す方角を見ると、草原の先に見覚えのある校舎が建っている。 | ||
──見えたのは、それだけではない。 | ||
おーい! 魔法使い! | ||
お久しぶりね! よく来てくれたわ! | ||
──手を振りながら、クロム・マグナ生徒会の会長と副会長……リンカとイツキが駆けてくる。 | ||
学園祭の招待、受けてくれたのね。 | ||
学園長の魔法が成功したんだな。 | ||
──半年ぶりの再会に、イツキもリンカも、喜びの笑顔で君を迎えてくれる。 | ||
しかし、どうせ招待するんだったら、学園の敷地内にしてくれれば、迎えも楽だったのに | ||
万が一、周囲に変な影響が出てしまったらいけないもの。仕方がないわ。 | ||
それに……今、学園に現れてしまったらアレに巻き込まれることになるし……。 | ||
あー……まあ、そうだな……。 | ||
──アレ? と君が首をかしげると、2人は苦笑を交わし合った。 | ||
今、学園は大変な騒ぎなの。 | ||
そう。学園祭と同時に行われてる大イベント……、 | ||
──『番長オブザ番長』決定戦でな! |
※話の最初に戻る
第2話 念願の学園祭
半年かけて、学園は完全に復興したんだ。 | ||
──学園までの道を案内してくれながら、イツキが語る。 | ||
それでダンケル学園長が、あの日できなかった学園祭を開催しよう、って宣言してさ。 | ||
──あの事件で学園祭をめちゃくちゃにされた生徒たちにとって、その開催は悲願だったろう。 | ||
──しかし、それと『番長オブザ番長』と、なんの関係があるのだろうか……? | ||
その……ヴォルフがね。提案したの。 | ||
絶対の命令を下せる『番長オブザ番長』の決定戦を開催するイベントはどうかって。 | ||
生徒会長としては当然、却下したんだけど……学園長が『面白い!』って許可してしまって。 | ||
──君は、ヴォルフのことを思い出す。 | ||
──ぶっきらぼうながら、動物を愛する心優しい青年だったはずだが…… | ||
最近、不良どもにケンカを吹っかけられて困ってたんだよ。あいつ。 | ||
『番長オブザ番長』決定ルールに、『次の大会実施まで生徒間の私闘禁止』ってのがある。 | ||
つまり、番長オブザ番長を決めちまえば、1年間は平穏な生活が保障されるのさ。 | ||
その代わり、年1回、全校生徒を巻き込んだ大乱闘が行われてしまうけどね……。 | ||
それに、番長オブザ番長の命令は絶対。生徒会としては頭の痛い話だわ……。 | ||
よこしまな考えの持ち主が番長になったら、生徒会でも止められないってことだもんな。 | ||
ヴォルフは自分が番長オブザ番長になって、そういうのを防ぐつもりなんだろうけど。 | ||
そうよね、きっと。ヴォルフは……優しいから……。 | ||
てなわけで── | ||
今、学園祭中に『番長オブザ番長』決定戦が行われてるから、学園内は大騒ぎなんだ。 | ||
──イツキは、君に苦笑してみせる。 | ||
まあ……これもお祭りだと思って、楽しんでいってくれ。 | ||
ふぅ~ん……なかなか面白そうにゃ。 | ||
──君の肩の上のウィズは、わくわくとした表情を見せている。 | ||
──平穏に学園祭を楽しめることを願いつつ、君は学園への道を歩いていく……。 | ||
──学園校舎まであと少し、というところで、2人の女生徒がこちらに走ってきた。 | ||
来てくれたんだね! ありがとう! | ||
黒猫さんに魔法使いさん、ひっさしっぶりぃー! | ||
──生徒会会計ニコラと、書記のシャーリー。以前、学園を救うため共に戦った2人だ。 | ||
2人とも、学園の様子はどう? | ||
んー、しっちゃかめっちゃかって感じ? | ||
番長オブザ番長を巡るバトルが、どんどん白熱してっちゃってるもんね……。 | ||
──直したばかりの校舎が、また壊れてしまうのでは、と君は心配する。 | ||
大丈夫。『校舎や備品を破壊しない』ってルールが設けられているから。 | ||
『善良な一般生徒に危害を加えない』とか『やりすぎ注意』とかも、厳命されてるの。 | ||
とはいえ……白熱してるってんなら、ついつい暴走しちまうヤツも出るかもな。 | ||
そうね。魔法使いさんの案内も兼ねて、私たちで学園内を見回りましょうか。 | ||
あ……と、ところでヴォルフは? | ||
ヴォルフ先輩なら、どっか行っちゃったよー。不良の人にいっぱい絡まれてたからねー。 | ||
はは。モテモテだな、あいつ。 | ||
男子にばっかモテてもね~。ラブレターじゃなくて果たし状しか来ないし。 | ||
えっと……シャーリー的には、ヴォルフにラブレターが来るとか、許せる感じなの? | ||
え? そりゃそうだよー。妹分としては、先輩がセーシュンできるか心配だもん。 | ||
あ、そういう感じなんだ。へぇ……。 | ||
──なんだろう、この微妙な空気は。 | ||
あー……えーと、リンカ? 結局、見回りする、ってことでいいんだよな。 | ||
ええ……そうね、そうしましょう。 | ||
じゃ、じゃあ……行くか! うん! | ||
──この空気を強引に吹き飛ばすように、イツキが先頭に立つ。 | ||
てなわけで、魔法使い。今回は、ちゃんと正門から入るとしようぜ! |
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第3話 美女達の晴れ姿
──見事に建て直された、壮麗なる白亜の校舎。その内部は、活気と熱気に満ちている。 | ||
──まず目につくのは豊富な出し物の数々だ。お化け屋敷に喫茶店、占いの館にクイズ会場……。 | ||
クラスや部活動ごとに、それぞれなにかしら出し物をやってるんだ。 | ||
『グリングラード』2年組ならダンスのお披露目とか、まあそんな気楽なヤツさ。 | ||
『イグニーマ』2年は、色とりどりの炎で壁画を描いているわ。 | ||
『エクレアル』2年はエレクトリック縄跳び! 縄に触れたら感電してアウトになるの! | ||
──あれ? と、君は思った。シャーリーは幼く見えるが、イツキたちと同学年なのだろうか。 | ||
わたし、10歳だけど飛び級してるんだー。すごいっしょー! | ||
こっちに進むと講堂があるわ。今は、なにか出し物をやっているみたいね。 | ||
『ミス クロム・マグナ』コンテスト……? へぇ~……なあ、ちょっと寄ってみようぜ! | ||
…………ふーん。好きにしたら? | ||
に、にらまなくてもいいだろ!? ちょっと気になっただけだって! | ||
──わいわい騒ぎながら、行動のなかに足を踏み入れると…… | ||
それではっ、発表いたしまぁーっす!! | ||
──壇上に、数人の美少女がずらりと並び……司会の生徒が、観衆に大声を張り上げる。 | ||
今年度の『ミス クロム・マグナ』は…… | ||
──ドラムロールが響く。壇上の美少女たちが息を詰めて発表の声を待ち── | ||
エントリーナンバー3番! 『アーシア・ベネット』さんに決定ですー! | ||
えっ……、わたし──ですか? | ||
──驚きの顔を見せる少女に、魔法で作ったらしいスポットライトが当たる。 | ||
おめでとうございまーす! アーシアさんにはこちらのトロフィーが授与されまーす! | ||
あれ、アーシアじゃん。 | ||
あら、知り合いなの? | ||
うん。アタシやイツキ君のクラスメイト。 | ||
じゃあ、『グリングラード』? 優秀なんだ! それでミスコンも優勝なんてスゴーい! | ||
でも、アーシアっておとなしいっていうか、ああいうのに出る性格じゃないよな……? | ||
──そんなことを話している時。 | ||
そんなの、認めなぁーーーーいっ!! | ||
──大声を上げる少女と共に、数十人の生徒が講堂になだれこんできた! | ||
学園中をトリコにする、『ミス クロム・マグナ』の栄光。それは…… | ||
このハイパーアイドル、学園の超絶天使MIU☆MIUことミユキちゃんのものよ! | ||
さあ、ファンのみんな! トロフィーを奪うのよっ!! | ||
イエース、MIU☆MIU! フゥーー!! | ||
くそっ、止めるぞ、みんな! | ||
──並みいるファンを薙ぎ倒していく君たち。その間にミユキはアーシアと対峙していた。 | ||
断固、決闘を申し込むわッ!! ミスの称号、そして番長オブザ番長を賭けて勝負よ!! | ||
番長オブザ番長も……ですか? | ||
知らないの? ミスコン優勝者は、同時に番長オブザ番長決定戦にエントリーするの! | ||
すいません、わたし、友達が勝手に応募したもので…… | ||
ちなみにアーシアさん、もし番長オブザ番長になれたら、どんな命令を出しますか? | ||
えっ? ええっと……『図書館の本をもっと充実させてほしい』くらい、かな…… | ||
地味ぃー! 地ぃーー味ぃーーっ!! | ||
こんな地味なコが優勝で、ワタシが予選落ちだなんて、ありえなぁーーいっ!! | ||
ありえなぁーーいっ!! | ||
いい加減にしろっ、ミユキ! | ||
──トンファーを持つ少女が、ファンのみんなを蹴散らしながらミユキの前に現れた。 | ||
でたな! クロム・マグナ学園警備委員! カエデ・ジングウジ!! | ||
ミユキ! おまえの予選落ちは、ファンに裏工作を命じていたのが発覚したせいだろ! | ||
うるさぁーい! ファンの力はワタシの力! アイドル渡世は力がすべてなのー! | ||
ならば、その力、私の力で打ち砕こう! 行くぞ渾身四連ッ! クロスブレイブッ!! | ||
さっせるかー! ファンバリアー! | ||
──ミユキの前に立ちふさがるファンの壁を、カエデのトンファーが吹き飛ばしていく…… | ||
ミユキのファンが尽きるのが先か、カエデの体力が尽きるのが先か……! | ||
……わりぃ、リンカ。オレ、その勝敗の行方、ぜんっぜん気になんない…… | ||
ていうか、ファンがこんなにいるなら、裏工作せず普通にやったら優勝できたんじゃ…… | ||
カエデ先輩も、バカ正直に相手しないで、ファン飛び越えて本人狙えばいーのにねー | ||
──ミユキとファンとカエデ、そして君たち。武器と魔法が入り乱れる激しい乱戦のなか…… | ||
あのう…… | ||
──アーシアが、所在なげに立ち尽くしていた。 | ||
MIU☆MIU フゥフゥハァーー!! | ||
──ファンの手がアーシアのトロフィーに迫る。 | ||
きゃっ── | ||
させるかよっ! | ||
──瞬間、ようやくファンの壁を突破したイツキの蹴りが、そのファンを昏倒させた。 | ||
アーシア、大丈夫か!? | ||
イツキ君……! ごめんなさい、助けてもらって…… | ||
気にすんなって。それより、おめでとう! 優勝するなんてすごいじゃん! | ||
う、うん──ありがとう。私もまさか、優勝するなんて……。 | ||
はいはいアーシア、危ないからね、スミの方に行こうね、うん。 | ||
──イツキに笑いかけられ赤面するアーシアを、ニコラがずいずい移動させていく。 | ||
う、ぉおぉおおおおおぉおっ!! | ||
──連戦の末、消耗しきったカエデのトンファーが、最後のファンを打ち倒す。 | ||
くうっ……ここまでか…… | ||
──悔しげに言って、ばたりと気絶するカエデ。 | ||
う、ウソでしょお~!? ワタシのファンが全滅するなんてぇ~…… | ||
──ファン全員を倒されたミユキも、完全に戦意を失っているようだ。 | ||
……ってことは、つまり── | ||
──無数のファンが倒れ伏した講堂内を見回して、イツキがつぶやく。 | ||
この場はアーシアの1人勝ち……ってことでいいのか? | ||
──名を呼ばれた少女は、あわてて、首を横に振った。 | ||
き、棄権します! |
※話の最初に戻る
第4話 燃え上がる祭魂
──死闘の行動を後にした君たちは、校舎に戻ってきていた。 | ||
まったく、とんでもない騒ぎだったな。 | ||
学園の超絶天使MIU☆MIU……彼女が兵法を学んだら恐るべき将になるわね。 | ||
……リンカさ。アイドルって何か、実はよくわかってないだろ……。 | ||
あーあ、運動したらおなかすいちゃった。ねえねえ、どっか寄ってこーよ! | ||
そうだね。ちょうどこっちに、出店がいろい……ろ…… | ||
──角を曲がったところで、君たちは絶句した。 | ||
──廊下に、生徒たちがバタバタと倒れている! | ||
これは……!? 大丈夫!? しっかりして! | ||
ひどい……どうして、こんな── | ||
見て! みんなの口に、こんがりほかほかおいしそうなものが……! | ||
──確かに。よく見れば、生徒たちはみな、口に何かを突っ込んだ状態で倒れている。 | ||
──焼きトウモロコシ、お好み焼き、焼きそば。いずれも香ばしく焼き上げられている……! | ||
みんな恍惚とした顔で倒れている……。 | ||
こんなことができるのは……まさかッ!! | ||
──イツキは、廊下の奥をにらみつける。 | ||
行くぞ、みんな! こいつばっかりは……止めなきゃならない! | ||
──その頃。クロム・マグナ魔道学園、校舎裏…… | ||
──やっぱ、来やがったか。ジョージ。 | ||
ったりめーよ! 今日こそ決着つけてやるぜ、ヴォルフ! | ||
──意気込むジョージに、ヴォルフは嘆息する。 | ||
てめぇも飽きねぇな。毎日毎日挑んできてよ。 | ||
貴様がのらくらと逃げるからだろうが! だがそれも今日までだぜ! | ||
そうだな。番長オブザ番長になっちまえば、1年間は平穏な日々を送れるからな。 | ||
ふん! 番長の座はオレのものだ。それを証明してやる! | ||
──待ちな。 | ||
──身構えるジョージを制するヴォルフ。 | ||
──ヴォルフが指差す先……校舎裏の隅には、可憐な花々が咲き誇っている。 | ||
『校舎や備品を破壊しない』、だ。やるなら表に出ようじゃねぇか……。 | ||
余裕ぶりやがって……! 上等だ、表で叩きのめしてやるっ! | ||
──それがヴォルフ自身の育てた花々だと知らぬジョージは、挑発と受け取って怒声を上げた。 | ||
──不意に。 | ||
イツキの顔面に、棒状の何かが鋭く飛来した。 | ||
──しょうゆの香る、焼きトウモロコシだ! | ||
くっ……! | ||
──イツキは身をひねってかわすと同時に、顔の脇を通過するトウモロコシにかぶりつく。 | ||
──きらめく黄金の表面にしょうゆの焼き色がついたトウモロコシをかじり、彼はつぶやいた。 | ||
この味……やっぱりおまえか! アキラッ!! | ||
へ──やっぱり兄ちゃんの目は、じゃねーや、舌はごまかせねーか。 | ||
──不敵な笑みを浮かべた少年が、廊下の奥から進み出てくる……。 | ||
何やってんだ、おまえ! この惨状はどういうわけだ!? | ||
知れたことよ。番長オブザ番長を賭けた、熱く激しいバトルの結果ってヤツさ! | ||
なんだって!? じゃあ──、 | ||
そのとぉーりっ!! オレも番長オブザ番長の挑戦者ってこと! | ||
オレには叶えてー夢がある……兄ちゃんにだって邪魔させないぜ! | ||
夢……? | ||
オレの屋台を購買に出店するって夢さ! もちろん……費用は全額学園持ちでな!! | ||
ふ、ふざけんなー! おまえ、その予算がどっから出ると思ってんだ、おい!! | ||
え、知らねーよ。そこをどーにかすんのが、兄ちゃんたち生徒会の仕事だろ? | ||
オレたちの仕事を勝手に増やすな!! | ||
勝手じゃねーぜ! オレが番長オブザ番長になりゃ、兄ちゃんたちは従わざるを得ねー! | ||
屋台は全面金箔! 鉄板はミスリル製! 焼くのはもちろん世界各地の超高級素材よ! | ||
なんてことなの……そんな命令が下されたら、生徒会の予算はッ……! | ||
──へぅっ | ||
かいちょー! 会計がショックで卒倒しましたー! | ||
ククク……そしてゆくゆくはチェーン展開ッ! いずれ三ツ星、いや、三億星を冠するのさ! | ||
それ以上しゃべるなアキラ! バカ丸出しではずかしい! | ||
男一匹バカ上等! バカなくらいがちょうどいいッ! | ||
──アキラの周囲に、ごうっ、と紅蓮の炎が渦巻いた。 | ||
夢に燃え立つオレの炎ッ! 消せるもんなら消してみなァーッ!! | ||
(戦闘終了後) | ||
はぁ、はぁっ……! | ||
ぜぇ、ぜぇっ……! | ||
──水と炎を操る兄弟が、息も荒く向かい合う。 | ||
思ってたより、成長してるじゃないか……。 | ||
へ──兄ちゃんも、なかなか簡単には追い越させてくれねーなぁ! | ||
まさしく実力伯仲……この勝負どちらに転んでもおかしくないわ! | ||
──勝負の合間にアキラが焼いたタコ焼きをもぐもぐしながら、リンカが語る。 | ||
いつのまにか、ギャラリーも増えてるねー。 | ||
──シャーリーの言う通り、2人の周囲に観衆の輪ができあがりつつあった。 | ||
──どういうわけか、女生徒が多い。 | ||
きゃーん! アキラくんって、わんこみたいでかわいくなーい? | ||
あたしはやっぱり副会長派かなぁ~。やれやれ、って頭なでなでされたーい! | ||
──勝手な想像で盛り上がる女生徒たちを、復活したニコラがむ~……とにらんでいる。 | ||
兄ちゃん……これが、オレの最後の全力だ! | ||
いいだろう……オレも全力で迎え撃つ! | ||
おおおおおぉおおおおおーっ! | ||
はぁああぁああああああーっ! | ||
──猛り狂う水と炎が、正面から激突し…… | ||
……ぐあっ! | ||
……がはっ! | ||
──2人は、同時に仰向けに倒れ込んだ! | ||
へへ……ダメだったか……。 | ||
オレの店を世界全土チェーンすりゃ……この世界の争いも終わると思ったのによ……。 | ||
おまえ……そんなこと、考えてたのか……いや、まあ、無理だと思うけど……。 | ||
でも、負けちまったもんはしょーがねー。また一から出直すぜ……。 | ||
出直す前に、おまえはいろいろ考え直せっつーの。ったく……。 | ||
──倒れたまま笑い合う2人に、観客たちが惜しみない拍手を送った……。 | ||
──その頃。 | ||
クク……みな、学園祭を楽しんでいるね | ||
──各地で勃発する熱いバトルを眺めながら、ダンケルは微笑みをおさえられずにいた。 | ||
さすがは我が学園の生徒たちだ。血湧き肉躍る戦いを見せてくれる…… | ||
クク……困ったものだよ。私も血が騒いでしまうではないかね……! | ||
──と、そこに、幼い少女が通りかかった。 | ||
あのっ、すみませんっ。『イグニーマ』2年組って、どちらですか? | ||
ああ、それなら、そこの角を曲がってまっすぐ行った先だよ、クク……。 | ||
そうなんですか! ありがとうございますっ。 | ||
──ひょこん、と礼儀正しくおじぎをして、少女は廊下の向こうへ駆けていく。 | ||
ふふっ。お兄ちゃんをびっくりさせちゃうんだから! |
※話の最初に戻る
◆◆◆中間報告◆◆◆
ダンケルからの"招待状"で、ウィズ達がクロム・マグナ学園の学園祭に訪れた時
──そこは"番長オブザ番長"をかけた校舎全体を利用した大乱戦が幕を切っていた。
参加者は不良だけではなく多岐に渡った。
番長オブザ番長の特権である「1年間の絶対君主権」目当てに、
一般の生徒達も名乗りをあげたからだ。
──熱烈なファン(親衛隊)も居る学園内の地下アイドル的存在の生徒。
彼女の目的は、自身の公式ファンクラブ設立と、
学園によるアイドル活動の全面的なバックアップ。
……志半ぱで敗れてはしまったものの、彼女の活躍は学園中の目に触れることとなり、
ファン数を大幅に増やす結果となった。
──本年度の「ミスクロム・マグナ」に輝いた生徒。
彼女は……本人には参加の意思など無かったが友達の推薦で参加してしまったので、
とりあえずの目的は「図書館の本をもっと充実させて欲しい」だった。
元々参加意思が無かったがゆえに早々に棄権。
それよりも今は学園祭というお祭りを楽しみたいというのが彼女の考えだった。
──学園祭で警備委員を務める生徒。
彼女の目的は、トレーニング器具の充実と部活動費の増額。
普段から武の鍛練に余念ない彼女にとって、この戦いは自らの腕前を試す絶好の機会となったが、
愚直過ぎる彼女の性格が災いし、たった一人で"とある女生徒のファン十数人"と戦い、これに敗北した。
──学園祭の模擬店で焼きそばを焼く男子生徒。
彼の目的は、「自身の経営する屋台」を購買部に出店する許可を貰うこと。
もちろん出店費用は全額学園持ち。
邪な野望を叶えんとする弟の暴挙を止めにきた兄との"兄弟対決"により、壮絶な相討ちとなった。
炎と水の兄弟対決は多くの女生徒たちの心を掴んだという……。
この他にも多数の生徒達……おおよそ戦いとは無縁の生徒達も
己の野望もとい"己の夢"を叶える為に立ち上がった。
戦っては散っていく参加者達。
──生徒達が"健全"に汗を流すその姿を学園長室の窓から眺める一つの影。
そこには年甲斐も無く"番長オブザ番長"を目指して
飛び入りでの参加を決意した学園長ダンケルの姿があった……。
※話の最初に戻る
──そこは"番長オブザ番長"をかけた校舎全体を利用した大乱戦が幕を切っていた。
参加者は不良だけではなく多岐に渡った。
番長オブザ番長の特権である「1年間の絶対君主権」目当てに、
一般の生徒達も名乗りをあげたからだ。
──熱烈なファン(親衛隊)も居る学園内の地下アイドル的存在の生徒。
彼女の目的は、自身の公式ファンクラブ設立と、
学園によるアイドル活動の全面的なバックアップ。
……志半ぱで敗れてはしまったものの、彼女の活躍は学園中の目に触れることとなり、
ファン数を大幅に増やす結果となった。
──本年度の「ミスクロム・マグナ」に輝いた生徒。
彼女は……本人には参加の意思など無かったが友達の推薦で参加してしまったので、
とりあえずの目的は「図書館の本をもっと充実させて欲しい」だった。
元々参加意思が無かったがゆえに早々に棄権。
それよりも今は学園祭というお祭りを楽しみたいというのが彼女の考えだった。
──学園祭で警備委員を務める生徒。
彼女の目的は、トレーニング器具の充実と部活動費の増額。
普段から武の鍛練に余念ない彼女にとって、この戦いは自らの腕前を試す絶好の機会となったが、
愚直過ぎる彼女の性格が災いし、たった一人で"とある女生徒のファン十数人"と戦い、これに敗北した。
──学園祭の模擬店で焼きそばを焼く男子生徒。
彼の目的は、「自身の経営する屋台」を購買部に出店する許可を貰うこと。
もちろん出店費用は全額学園持ち。
邪な野望を叶えんとする弟の暴挙を止めにきた兄との"兄弟対決"により、壮絶な相討ちとなった。
炎と水の兄弟対決は多くの女生徒たちの心を掴んだという……。
この他にも多数の生徒達……おおよそ戦いとは無縁の生徒達も
己の野望もとい"己の夢"を叶える為に立ち上がった。
戦っては散っていく参加者達。
──生徒達が"健全"に汗を流すその姿を学園長室の窓から眺める一つの影。
そこには年甲斐も無く"番長オブザ番長"を目指して
飛び入りでの参加を決意した学園長ダンケルの姿があった……。
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第5話 漢のけじめ(1)
──番長オブザ番長を巡る激しい戦いは、学園の各所で絶え間なく発生した……。 | ||
──しかし、多くの生徒が脱落したことで、その戦いも終わりが近づいていた。 | ||
──クロム・マグナ魔道学園、校庭。 | ||
──今そこで、2人の番長候補が相対している……。 | ||
あれは……ヴォルフとジョージか! | ||
──ジョージという方の生徒は、君には見覚えがない。 | ||
ジョージは、いわゆる不良生徒よ。ずっとヴォルフをライバル視してきたの。 | ||
ヴォルフ先輩は、ああ見えて平和主義者だから、戦いを避けてきたんだけど……。 | ||
ここでやっつけておけば、1年間は平和に過ごせるってことだね。 | ||
ようやくケリをつけられるな──ヴォルフッ! | ||
ああ。てめぇの暑苦しいカオを見なくてすむようになるわけだ。 | ||
ふん! 調子に乗りやがって! | ||
貴様の顔を、二目と見られんくらいボコボコにしてくれる……覚悟しろ! | ||
悪いな。オレは平和主義者だがよ……負けてやるってのは性に合わねぇんだ! | ||
残っている生徒たちのなかでは、あの2人がおそらく最強……。 | ||
この戦いの勝者が番長オブザ番長になる。事実上の決勝戦だな……。 | ||
そぉーーはさせねぇぜぇぇー! | ||
ヒャッハァー! まだオレたちだって残ってんだぜぇー!? | ||
あ、なんか集まってきた! | ||
……学園の品性を疑われるような連中しか残ってないのかしら。ヴォルフ以外。 | ||
そんなこと言ってる場合じゃないって! こっちにも向かってくるよ! | ||
手当たり次第かよ! 仕方ない、応戦するぞ! | ||
──ヴォルフとジョージが激突するなか、君たちは襲いくる生徒たちを迎撃していく。 | ||
──その時だった。 | ||
うわぁーっ!! | ||
──突如、すさまじい闇の波動がほとばしり、番長候補たちを薙ぎ倒していく……! | ||
──なんだっ!? | ||
この、とてつもない闇の魔力……まさか……!? | ||
学園生徒諸君ッ! クク……楽しんでくれているかねッ!? | ||
ダンケル学園長! | ||
おお、生徒会メンバー諸君ではないか! それに愛すべき異世界の友人たちも! | ||
クク……いかがかな? 我が学園祭、そして番長オブザ番長決定戦はッ! | ||
いやあの、学園長……それはいいんすけど。あんた今、生徒ブッ飛ばしませんでした? | ||
いかにも! なぜなら……私もまた、番長オブザ番長を目指す挑戦者ゆえに! | ||
なんだってぇーーーー!? | ||
クク……残る番長候補を倒してしまえば、番長オブザ番長の座は私のものだ! | ||
学園長! なぜそんなことを! | ||
まさか、また闇の力に操られて……!? | ||
いや! 単に番長オブザ番長になって、学園を思いのままにしたいだけだ!! | ||
あんたすでに思いのままにしまくりだろ! 番長オブザ番長決定戦を企画したりとかさ! | ||
問答無用! クク、血がたぎる! さあ諸君、我が力についてこられるかな!? | ||
少なくともそのテンションにはついていけねーよ!! | ||
なんだァ!? 邪魔が入りやがったのか!? | ||
おいジョージ。さすがにアレはヤバいぜ。ここは一時共闘して…… | ||
うるせぇっ! みんなまとめて片づけてやらァ! | ||
あああもう、なんなのこの状況~! | ||
とにかくやるしかない! 気を抜くなよ、魔法使い! いくぞ! |
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第6話 漢のけじめ(2)
ククク……ハァーッハッハッハ! 絶望し、ひれ伏すがいいッ!! | ||
学園長のセリフじゃねぇー!! | ||
完全に悪役の立場に酔っているわ……! | ||
ちょ、マジ手ぇつけらんないよ学園長! | ||
ぐぅっ……! | ||
ジョージ! | ||
──闇の魔力に襲われたジョージを、ヴォルフがとっさにかっさらう。 | ||
ラ、ライバルの助けなんて……! | ||
そんなこと言ってる場合か! 学園長を倒さなきゃ、決着どころじゃねえ! | ||
……………………。ちっ──今回だけだぜ!! | ||
──ヴォルフとジョージ。2人の番長候補が、強大な敵を前に並び立つ! | ||
ほう!? 勇ましい、いぃーい覚悟だッ! それが絶望に変わると思うと楽しいなぁッ! | ||
しゃらくせえ! てめぇはとっとと悪ノリから覚めやがれってんだ! | ||
ちょいと早いが、お礼参りといかせてもらうぜ! 学園長! | ||
ふははははははははッ! ならばお礼参り返しをさせていただこう!! | ||
──たちまち、激しい戦いが始まった。 | ||
──ジョージの拳が! ダンケルの魔法が! ヴォルフの動物たちが、 激しく交差する! | ||
──そして…… | ||
む、無念…… | ||
──ヴォルフとジョージの連携攻撃の前に、ついに……ダンケルが倒れ伏した! | ||
はぁっ、はぁっ……こ、これで……ヴォルフ! | ||
ああ……正真正銘、最後の決戦といこうや、ジョージ! | ||
──もはや気力だけで立っている2人が、尽きぬ戦意を瞳に輝かせて向かい合い…… | ||
──激突! | ||
が……は── | ||
──ジョージの拳が届くよりも早く……ヴォルフの拳がジョージを吹き飛ばす! | ||
ふ……、貴様の、本気……ようやく、見られた、な……。 | ||
完敗……だぜ。ヴォルフ──貴様、が……真の番長オブザ番長だ…… | ||
そうだ……な──これで……長い戦いが、終わ── | ||
──瞬間。 | ||
──ボロボロで立ち尽くすヴォルフへと、小柄な影が飛び込んでいく。 | ||
お兄ちゃんを……いじめちゃ、ダメー!!! | ||
──涙目でランチボックスを振りかざし、向かってくる少女に、ヴォルフは茫然。 | ||
エ、エミリア!? | ||
えぇぇーーーーいっ!! | ||
──重いランチボックスは、見事、ヴォルフの脳天に直撃した。 | ||
カ、カワイイ……。 | ||
──その一言を残して、ヴォルフは倒れ、完全に気絶する。 | ||
せ、せんぱぁーい!? | ||
ヴォ、ヴォルフ! しっかりして! | ||
…………。って、え? お兄ちゃんって……ええー!? | ||
──君とウィズは、元の世界の街道に戻ってきていた。 | ||
──クロム・マグナの学園祭が終わり、ダンケルの魔法で送還されたのだ。 | ||
まさか、あんな結末になるなんてにゃ~。 | ||
──あの時。番長オブザ番長は、ジョージの妹……エミリア・トドロキに決定した。 | ||
あの、学園長? 彼女、この学園の子ではないらしいですけど……。 | ||
学園の人間でなければダメ、などというルールはないよ。最後に立った者こそ勝者だ。 | ||
番長オブザ番長は彼女に決定! 命令は……『お兄ちゃんをいじめちゃダメ!』 | ||
は!? はあっ!? ま、待ってくれ! それじゃオレのメンツってもんが…… | ||
もう! お兄ちゃんったら、手当てしてる途中なんだから動いちゃダメ!! | ||
だ、だけどよぉ、エミリア…… | ||
これでもうてめぇは殴られねぇんだ、いいじゃねぇか。『お兄ちゃん』。 | ||
そうだよー。番長オブザ番長の命令はゼッタイだよー、『お兄ちゃん』。 | ||
あなたをいじめる者が現れたら、生徒会が全力で処罰するわ、『お兄ちゃん』。 | ||
妹ががんばってくれたんだから、文句言っちゃだめだよ、『お兄ちゃん』。 | ||
あー、なんつーか、いろいろあきらめた方が人生楽だぞ、『お兄ちゃん』。 | ||
きぃーさぁーまぁーらぁー!! | ||
──という感じで、どうやら、丸く収まったようなのだった。 | ||
──今頃イツキたちは、互いの健闘をたたえ、後夜祭に興じているところだろう。 | ||
──学園長の悪ノリはどうあれ、生徒たちがお祭り騒ぎを楽しんだのはまちがいない。 | ||
それにしても。 | ||
──君の足元で、ウィズは少し残念そうに言った。 | ||
学園の人間じゃなくてもいいってわかってたら私も目指したのににゃ~。番長オブザ番長。 | ||
──話がややことしくなるから、やめてください。 |
※話の最初に戻る
◆◆◆エピローグ◆◆◆
──"優勝候補"もとい"番長候補"としてついに動き出した学園長ダンケル。
彼の手によって次々と打ち倒されていくクロムマグナ学園生徒たち。
あの日確かに失った筈の"闇の力"でさえ、
使いこなさせるまでに"修練済み"の彼に死角は無かった。
……二人の生徒……ヴォルフとジョージが立ちはだかるまでは。
突如現れた『最大の難敵』を前にして結ばれた一時的な共闘関係。
ジョージの拳が!
ダンケルの魔法が!
ヴォルフの動物たちが!
激しく交差する。
────いったいどれだけの時間が流れたのだろうか。
熾烈を極めた3人の戦いも終焉を迎え、
ついにダンケルが地に伏せた。
対峙するヴォルフとジョージ。
ダンケルとの戦いによって、二人はもはや気力のみで立っている状態。
残された最後の力……全身全霊を込めた、
正真正銘最後の一撃を互いに放ち……勝ったのはヴォルフだった。
これで"番長オブザ番長"は俺で決まり。
学園内での私闘禁止(1年間)によって学園生活も安泰に。
……"それ"はそんなことをヴォルフが考えてるまさにその時だった。
「お兄ちゃんを虐めちゃダメー!!」
声の主はジョージ・トドロキの妹『エミリア・トドロキ』のもの。
満身創痍のヴォルフには、眼前に迫る
中身がギッシリと詰まったランチボックスを避けることは出来なかった。
薄れゆく意識の中で彼が思った事は唯一つ。
「……カ、カワイイ」
それだけだった……。
こうして第一回"番長オブザ番長"は
飛び入りの参加者『エミリア』が君臨することで幕を閉じた。
番長オブザ番長の特権『絶対君主』としてのエミリアが命じたのは
「お兄ちゃんを虐めちゃダメ!」。
ジョージにとって……学園の番長を目指していた兄にとって……
不名誉なこの命令は、約束通り1年の期間守られる事となるのだった。
──時間も過ぎて後夜祭。
番長ファイトに参加しなかった者も、参加をして競いあった面々も、
校庭で『火』を囲み、お互いの活躍を讃え合う。
そこには健全で爽やかな、学生らしい青春の輝きがあった。
遠く……"違う世界から招いた友人たち"にも、
我が校の学園祭を存分に楽しんで貰えたようだ。
彼らを"本来の世界へ"と返還するという大仕事もひと段落し、
後夜祭を楽しむ生徒たちの姿を眺めるダンケル。
傷だらけの彼の心には確かな満足感があった。
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