森の守り神

 
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ただいまー……お父さま、いるー?

──言いながら、アネーロはそっと扉を開ける。薄暗い室内の端で、何かが動く気配があった。
──巨大な羽ペンを持ったまま、その影は振り返り……


お帰りアネーロ! 我が愛しの娘!

──アネーロに抱きつこうとして、
バカ――――!!
へぶしッ!
──杖で思い切り殴られ、床へのキスを強制させられた。
……はっ!
──杖を振り下ろしたまま、アネーロは君たちを素早く振り返る。
あ、愛情表現は……ひとそれぞれよね。
いろんなおやこのかんけいがあるにゃ。
──棒読みのウィズとフェルチ。ちなみに、カルテロブレドはそっと目を逸らしている。
──その様子を見て、アネーロは頭を抱えてうずくまった。
もおおお……だから連れてきたくなかったのに……!
アネーロちゃん、お父様をそんな邪険にしたらだめですよぅ。大丈夫ですか、えーと……。
ベアードと呼んでくれたまえ。
──シャッキリと立ち上がった渋い男性……ベアードは、そう言いながら胸を張る。
それにこの痛みはいわば娘からの愛!
……のようなものだ、特に問題は無いぞ。
とりあえず鼻血を拭くにゃ……。
おっとこれは失礼。溢れ出る愛が鼻から出たようだ。
──殴られたというのにピンピンしているベアードは、帽子を直しながら君たちを見る。
キミたちかね、アネーロの憧れてる調香師の姉妹というのは。
──ベアードに聞かれ、ファムフェルチ、君たちは自己紹介を済ませた。
──同時にタネの扱いについても君は尋ねた。すると、ベアードは外へ君たちを促す。
状況は大体理解した。ここは少々汚い、外で話をしよう。
──扉を開けたベアードは、そのまま視線の先の”とこしえの樹”へ向かって歩き出した。
ちょっ、ちょっとお父さま! 話をするんじゃなかったの!?
歩きながらでも話はできる。時間がないのだアネーロファムくん、タネを見せてくれ。
は、はい!
──かなり早足のベアードに、小走りになりながらファムはタネを見せる。
"とこしえの樹"は、別名生まれ変わりの樹と言われている。
寿命が来ると花を咲かせタネを宿し、自らを苗床にそれを育てる……。
そんな閉じたサイクルで生きる特異な樹だ。故にタネは常に樹の上になければならない。
な、なるほど……。
──早口でまくしたてられる解説に、ファムは少しだけ混乱しているようだ。
──なおもベアードの言葉は続く。
そのタネがここにあり続ければ、近いうちに"とこしえの樹"のサイクルは終わる。
さらにこれは単純な話だ。これだけ大きな樹の根はどうなっていると思うね?
──君は想像をふくらませる。巨大な樹はそれだけに巨大な根を持っているだろう。
──つまり、天上岬のあらゆる場所に、"とこしえの樹"の根が伸びている、ということだ。
──そんな樹が枯れ果ててしまえば、支えを失った地面は……!
また、樹は魔物避けや生命力の増強といった魔法的効果も持ち合わせている。
つまりだ、あの樹の寿命が訪れた時、次の代の樹となるタネが適切な場所になければ……。
この天上岬は終わる。
そんな! そんなことって……。
うろたえている時間はないぞ。危険な道だが近道を使う。異論はないな。
……はい!
──あくまで冷静さを失わないベアードの言葉に、君たちはただ頷いた。
──突如として突きつけられた天上岬の未来。
──それを回避するために、君たちはただ、ベアードの後を追った。


次はあっちだ、足元に気をつけ給え。
――ベアードは妙なコンパスと、ボロボロの手帳を交互に見ながら戦闘を進んでいる。
なあ、そういえばここって、"ジャガード"のいる森じゃ……。
ジャガード? それは魔物か何かなのかにゃ?
森の守り神だよ、超恐ろしい奴でさ……デカい牙と爪があって……。
ボクも聞いたことがあるよ。実際に見たことはないけど、炎を吐くとか……。
──君はカルテロブレドの言葉を頼りに、想像をふくらませる。
──大きな牙、大きな爪、そして炎を吐く、森の守り神……。
それって、こんな顔してませんでしたか?
──想像していた怪物が目の前に現れ、君たちは総毛立つ。
きゃ……!
──静かに。
――ベアードは素早く、叫び声を上げそうになったアネーロの口を手で塞いだ。
――対して、ファムフェルチはけろりとしている。さすがの二人といったところだ。
うわ、すごい顔。
私は可愛いと思うけどなぁ、このワンちゃん。
ちょっ……ファム、一体何をしてるにゃ……?
──君はファムの行動に目を疑った。なんと、彼女は怪物の頭を撫で始めたのだ!
ど、どういう……さすがに命知らず過ぎにゃ……!
──危ない、と叫びそうになる自分の声を必死におさえ、君はファムの袖を引っ張る。
あう。な、なんですかもう、こんなに可愛いのにぃ。
お、おいファム、何考えてんだ……! 噛まれるぞ……!
──慌てる君たちに対し、ベアードはまったくその素振りを見せない。
──挙句の果てに、ファムが撫でたようにベアードも怪物を撫で始めた。
大丈夫だ、カルテロくん。背中のアレがジャガードだ。あれを起こさなければ危険は無い。
下にいる大型獣のグランは奴が目覚めなければただの置物だ。今のうちにここを抜けるぞ。
あっちがジャガードなのか……。
──よく見ると恐ろしい怪物の背中に、一匹の可愛らしい獣人が転がっている。
──すやすやと心地よさそうに寝ているその獣人は、どこか超然とした雰囲気があった。
──君たちは、ジャガードが目を覚まさぬよう、そっと息を殺しながら進んでいく。
──だが。
きゃっ!
──運悪く、アネーロの髪が枝に引っかかってしまったのだ!
──彼女の叫び声に反応し、ジャガードの目が、ゆっくりと開く。
──その動きに呼応するように、グランの瞳に光が宿り、低い唸り声を上げ始めた……!
いや、やだ……! 待って……!
いや……! ファムさま! 助けて!
──とっさに君は駆け出すが、それよりも早く、グランの爪が振り上げられる!
──君の目に映るのは、ジャガードのいびつな笑顔。そして、アネーロの悲痛な表情……!
嫌ァ――!!
──絹を裂くような叫び声、そして振り下ろされる無慈悲な爪。君の手は、届かない──!
──だが、次の瞬間!
アネーロちゃん!
──ファムが、いつの間にかアネーログランの間に立っているではないか!
瞬間移動!? まさか空間を……!
やぁぁあああ!!
──爆発する魔力の奔流が、グランの爪を跳ね上げ、吹き飛ばす!
さっきは可愛いと思ったけど……あなた、やっぱり可愛くないです!
アネーロちゃん。もう大丈夫だから。
私が、あなたを守るから、ね?
──うっ、ぐす、ファムさまぁ……!
──やっと二人の元へたどり着いた君は、体勢を立て直しつつあるジャガードを見据える。
……魔法使いさん、可愛い見習いを守ろうとしてくれて、ありがとう。
ね、もう一回手伝って? あの可愛くない子に、おしおきしないと!
──君は力強くうなずく。断る理由なんかひとつもなかった。
──追いついたフェルチが、泣きじゃくり震えるアネーロの肩を抱える。
うぅ、フェルチ、さまぁ……! こわかった、こわかったです……!
怖かったよね、アネーロ。もう大丈夫だから。
……ぶっ飛ばしてきなさい、ファム! この子を泣かせたアイツを!
──もう後顧の憂いはない。君はファムと視線を交わし、そして同時に強くうなずく。
……ええ、やってやりますわ、お姉さま!
──言葉はもういらなかった。杖を構える彼女の隣で君はカードを手に魔力を込めた!

(戦闘終了後)



──君たちの奮戦が功を奏したのか、ジャガードは再び眠りについた。

どうやらジャガードの機嫌は直ったようだな。流石守り神といったところか、傷一つ無い。
──感心しているベアードに、走ってきたアネーロが抱きつく。
うああ~! パパぁー、怖かったよぉ~!!
おおおよしよし! 怖かったなぁアネーロちゃん! 怖かったなぁ!
……はっ!
──君たちは振り返るアネーロから、サッと視線をそらした。
さまざまなおやこのかんけいがあるにゃ!
まあまあ。お父さまと仲良くなれてよかったねぇ、アネーロちゃん♪
あ、いや、その……もおおお……。
──顔を真赤にしながらも、アネーロの手はベアードの服から離れない。
──微笑ましい光景を目の当たりにしながら、君たちはふと空を見上げた。
──"とこしえの樹"は、今や君たちの手の届くところにある。
……ん? なんか、カバンが震えて……。
──違和感を感じたのか、カバンの中からファムは例のタネを取りだした。
これって……。
蕾、だろうな。"とこしえの樹"が近づいたことで反応したのだろう。
この場所……土壌がやはり重要ということか。ココへ来て正解だったな。
──不思議な植物だ、と君は思う。
──目の前に立ちはだかる巨大な樹は、果たして本当に植物なのだろうか。
──そんな疑問が頭に浮かび、空を見上げた、その時だった。
うわっ!?
な、何だいまの……。
――一瞬太陽を遮った、『何か』。
──それを恐れるように、蕾は再びふるふると震えだす。
……異変の原因は、樹の頂上、か。目指す他に手段はないようだな。
──苦い顔をするベアードだが、対してファムフェルチは逆に期待に満ちた表情をしている。
元からそのつもりですよ、私達は花を手に入れなきゃいけませんから!
花で香水、作りたいですからね♪
──嬉しそうなファムフェルチベアードは昔を思い出すような、遠い目をした。
……たくましいな、娘が憧れるのも、分かる気がする。
……さっきは、娘をありがとう。いくら感謝してもしきれんよ。
──まだ涙目のアネーロの頭を撫でながら、彼は君とファムに頭を下げた。
ふふっ、いえいえ♪ 困ったときはお互い様ですから。
──それから、少しだけいたずらに、試すように。ファムアネーロに話しかけた。
……ねえ、アネーロちゃん。私達、いまから"とこしえの樹"に登るんだけど……。
ついてきて、くれるかなぁ?
見習いには、ぜひ見せたい大きなお仕事なんだよね♪
……!
──はっとした彼女は涙を拭いて、前を向いて、太陽のような笑顔を浮かべる。
当然です! ファムさまに、フェルチさまに、ずっとついていきますから!
──この太陽を、笑顔を、陰らせてはいけない。
──君は天上岬を守る決意を固め、もう一度空を見上げた。
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