命をはぐくむ泉
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それじゃ、"とこしえの樹"に出発しましょっか! | ||
──ファムはそう言いながら、元気よく工房の扉を開ける。 | ||
──だが。 | ||
きゃっ……! | ||
──丁度扉の向こうに誰か居たのだろう。開きかけた扉は途中でガツンと止まった。 | ||
だ、だれかしら……お客さん? | ||
──こわごわとファムが扉を開けると、そこには額を赤くした好青年が居た。 | ||
イタタタ……なんだよもう、せっかくパンを届けにきたのに……。 | ||
なんだ、ブレドか。 | ||
なんだとはなんだカルテロ。 | ||
──一瞬険悪になる二人だが、すぐにその仲をファムが取り持つ。 | ||
ケンカはだーめ。……ごめんなさい、ブレド。結構勢い良く開けちゃった。 | ||
大丈夫だいじょうぶ──あれ? 出かけちゃうの? それに君は見ない顔だね。 | ||
──君は自己紹介と合わせ、事の顛末をかいつまんでブレドに話す。 | ||
──すると、彼は手を打ってニッコリと笑った。 | ||
それならボクも同行するよ、途中でお腹が空いた時、これがあった方がいいよね? | ||
──言いながら取り出したカゴには、美味しそうなパンが山盛り。 | ||
美味しそうだにゃ! | ||
もちろん! 味の保証はするよ、どこのパンよりも美味しいはずさ! | ||
──ブレドはウィズにパンを渡そうと、取り出したカゴを開こうとした。 | ||
それはそうと、オイラたちの足を引っ張るんじゃないぞ、パン屋。 | ||
──カルテロの言葉に、ピタリとブレドの動きが止まる。 | ||
言うじゃないか運び屋。なんならどちらが"とこしえの樹"に先に辿り着くか……。 | ||
勝負、してみるかい? | ||
──直後、『また始まった』という表情で、フェルチとファムは大きなため息をつく。 | ||
二人は仲が悪いのかにゃ……? | ||
ええと、なんというか、ちょっと説明し辛い理由があってね……。 | ||
あっ! ちょっと、二人共! | ||
──フェルチが止めるのも聞かず、二人は工房の外へと駆け出していた。 | ||
うおおおおおお!! 負けるかァ! ラルゴ、ダッシュだ――! | ||
あああ……パンをもらいそこねたにゃ! | ||
あの二人、放っておいていいんです? | ||
……追いかけましょっか。多分いつもみたいに、途中でへばってそうだし。 | ||
はーい! それじゃあ改めて、出発~♪。 | ||
──土煙を上げて走って行く二人を追って……、 | ||
──君たちは遠くにそびえ立つ、"とこしえの樹"へと歩き出した。 | ||
あー、やっぱり。 | ||
──フェルチの予想通り、カルテロとブレドは小さな泉の前で大の字になって倒れていた。 | ||
──ラルゴも全力疾走で喉が乾いたのか、泉に頭を突っ込んでゴクゴクと水を飲んでいる。 | ||
丁度良いタイミングですし、私達も休憩しましょうか♪ | ||
さっきもらいそこねたパンを食べるチャンスにゃ! | ||
ブレド~! | ||
──ウィズを追って泉のほとりに着いた君たちは、そこに腰を下ろして足を休める。 | ||
ほら、キミも食べなよ。はぁ、疲れた……。 | ||
──泉の水で喉をうるおし、ブレドの渡してくれたパンをかじる。 | ||
すごいにゃ……いままでのパンはなんだったにゃ……。 | ||
──素材が良いのだろうか、ウィズの言うとおり味は絶品だった。 | ||
ブレドさん、いつもマドレーヌをありがとう♪ 次はデニッシュがいいなぁ~。 | ||
お安いご用さ! デニッシュでもクロワッサンでも何でも持って行くよ! | ||
カルテロさん、今度またラルゴに乗せてね。緑麗峰に行きたくて……。 | ||
ああ、オイラにまかせとけ! 普通なら3日だけどオイラとラルゴなら1日さ! | ||
……なるほど、二人が争う理由がわかった気がするにゃ。 | ||
さすがファムさま……! 私も色々と見習わないと……! | ||
アネーロ、めっ。 | ||
あう。 | ||
──和気あいあいとした雰囲気。だが、君がもう一度泉の水を汲もうとした、その時だった。 | ||
──ずるり、と植物で出来た体を引きずりながら、泉の奥から現れたのは……。 | ||
ニオイに誘われてきてみれば……面白いもの持ってるじゃない、そこの小娘。 | ||
イヤ――!! 魔物――!! | ||
――叫びながら、アネーロは君の後ろへと隠れてしまう。彼女をかばい、君は身構えた。 | ||
このロゼッタ様を魔物とは、失礼しちゃうわ……噛みつきたくなっちゃう。 | ||
おっほ! たまらんね! | ||
これはなかなか……。 | ||
──ふたりとも? | ||
──空間が歪むほどの魔力をたたえながら、満面の笑みを浮かべるファム。 | ||
──それを見たカルテロとブレドは、一瞬だけ『まずい』とい表情で固まったあと……。 | ||
お、オイラとラルゴに任せとけ、ファム! オイラはファム一筋だからな! | ||
ぼ、僕だってそうだぞ! ファムには指1本触れさせないからな! | ||
──そう言いながら、彼女を守る構えを取った。 | ||
──調子の良い二人だな、と思いながらも、君も戦闘準備を整える。 | ||
気をつけろ、ファムを狙ってるぞ! | ||
──カルテロは叫ぶ。だが、それは正確ではなかった。 | ||
──ロゼッタの視線は、ファムの持っているタネに集中している! | ||
キミも気付いたかにゃ? やっぱりあのタネ、何かあるにゃ……! | ||
そのタネを……寄越せ! | ||
──のたうつ触手が、君たちへ襲いかかる! | ||
(戦闘終了後) | ||
チッ……リリー姉妹相手は、やはり分が悪いわね……! | ||
──捨て台詞を吐きながら、ロゼッタは体をうねらせて森の奥へと消えていった。 | ||
おとといきやがれです~♪ | ||
はい、乱暴な言葉づかいはだーめっ。 | ||
あう。 | ||
──ファムを守りながら奮戦した君に、ブレドが声をかけてくる。 | ||
助かったよ、魔法使いさん。 | ||
この泉が使えないと、ボクのパンの味は半分以下になっちゃうからね。 | ||
──どういたしましてと君は笑う。 | ||
お礼に何かプレゼントしたいところだけど、あいにくボクにはパンしかないからなあ……。 | ||
そうだ。あとで店に寄っていきなよ。それまでにとびっきり美味しいパンを作ってるからさ。 | ||
それは楽しみにゃ♪ お持ち帰り用もお願いするにゃ! | ||
──戦いを終え、和やかな空気が戻ってきた……そう思い、君が一息ついた時だった。 | ||
──あっ! | ||
──泉のほとりで、ファムが驚きの声を上げる。 | ||
どうしたの、ファム。 | ||
いま、タネが動いたの! | ||
さっきの戦いで、泉の水がかかったせいかなぁ……。 | ||
──期待半分、心配半分という表情で、ファムはじっとタネを見つめている。 | ||
──少し濡れたタネは、モゾモゾと動いたかと思うと、新緑の芽をピンと弾けさせた。 | ||
まるで生きてるみたいだにゃ。私にもよく見せてほしいにゃ! | ||
はいはい……よいしょっと。 | ||
──背伸びするウィズを持ち上げながら、アネーロは困った顔でタネを見つめる。 | ||
でも、この状態で持ち運んでいいのかなぁ。 | ||
──アネーロの言葉に、皆が同時にウーンとうなる。 | ||
──当然だろう、この場の誰も、そのタネの扱い方を知らないのだから。 | ||
……あっ! ねえ、アネーロちゃん。お父様は"とこしえの樹"にお詳しいのよね? | ||
だったら、一度お話を聞きに行きましょうよ。一度ご挨拶もしたいと思っていたし。 | ||
──ファムの言葉に、君はアネーロが投げた『天上岬植物大観』という本の存在を思い出す。 | ||
──この場所に詳しい植物学者なら、これ以上に頼もしい味方はいない。 | ||
あ、それじゃあオイラも行っていいかい? 仕事のタネになるかもしれないしな! | ||
ボクも話を聞きたいな、パン用の小麦について相談したいことがあるんだ。 | ||
じゃあ、皆で一緒にいきましょう。お邪魔しても平気かしら、アネーロ。 | ||
──だが、皆の期待に満ちた視線を受けて、アネーロは露骨に嫌な顔をした。 | ||
ええー……いや、まぁ、いいですけど……。 | ||
お父さま見て、引かないでくださいね……? | ||
──とぼとぼと道案内をはじめるアネーロ。一体どんな人物なのだろうか。 | ||
──期待半分、心配半分という気持ちで、君たちはアネーロの背中を追った。 |
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