調香娘への憧憬
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困った。すごく困った。
こんなに困ったのは初めてかもしれないというくらい困った。
「だいだいさぁ、エテルネが! グスッ、消えて、いなぐなるならさぁ!?
わだしだってね!? もっといっぱいお話じだのに! えぐ、グスッ」
「そ、そうですよね、私もいっぱい色んな事お話したかっ」
「でしょお!?」
「んっ、あ、はい」
フェルチさまは食い気味に私に強く同意してくれる。ただ目が怖いですフェルチさま!
「ぞれにざぁ!? ファムもさぁ、づらいならさぁ、私にぞれをざぁ、
ぶづけてぐれればぁーーーー! ああーーーーあーー!!」
「ちょっ、フェルチさま、フェルチさま! 色々拭いてください、お顔がひどいことに!」
「あ゛ぁーーううーー、もぉぉーー、なんでもぉぉーーーー!!」
「よだれ! お鼻も!」
困った、超こまった!!
あのしっかり者のフェルチさまをこんな形でお世話することになるなんて!
「あの、フェルチさま、大丈夫ですか?」
「んん、大丈夫! ……ごめんね、グスッ、アネーロぢゃん、
ごんながっこ悪いところ……ううー……!」
「い、いえ、平気ですよ。私でよければ、話くらいなら聴けますから」
「やざじいねぇアネーロぢゃん!! ありがど、グスッ……ううー! ああーー!」
なんだか、酔っ払って泣き上戸になってるお父さんを介抱してる時に似てるなぁと思いながら、
私はフェルチさまをどう扱って良いやら困り果てていた。
(……でもフェルチさまがここまで取り乱すなんて、
ファムさまは一体どうしているんだろう……?)
エテルネちゃんを失ったことと、"とこしえの樹"の花で香水を作れなかったことは、
一体どれくらいのショックをファムさまに与えたのか……。
どれだけ想像しても、私にはその悲しさとか辛さとかは、ハッキリとはわからなかった。
(お父さんなら、こういう時どうするんだろう……)
私がファムさまたちに憧れて調香師になりたいと言った時、お父さんが言ってたっけ。
──お前は他人になれないし、他人の代わりにもなれない。
自分のやりたいこと、やれることを見失うんじゃないぞ、って。
……今、私にその言葉が違う形で刺さっていた。
私はファムさまを元気づけたい。
でも、私はファムさまになれないから、ファムさまの気持ちが完全にはわからない。
それにエテルネちゃんやフェルチさまにもなれないから、
ファムさまを完璧な形で慰めることも出来ない。
自分の無力さが憎い。
私は、ただの見習いで、知識も経験もない、どうしようもないほどにただの小娘だった。
……ただ、その時私はふと、エテルネちゃんと"とこしえの樹"の香りを思い出していた。
どこまでも優しくて、ちょっぴり甘い、不思議な香り。
──「やりたいこと、やれることを見失うんじゃないぞ」
……お父さんの言葉が、私の中でハッと繋がる。
「……あの、フェルチさま」
「ぐすっ、なあに?」
「香料集めに行きませんか? ファムさまにプレゼントする香水の」
「……なんでファムに?」
真っ赤な目をして、口元に私が渡したハンカチを当てたまま、フェルチさまは首を傾げる。
あの日、ファムさまとフェルチさまは、"とこしえの樹"の花で香水を作ることを諦めてしまった。
そして、エテルネちゃんを失ったファムさまは、今ふさぎこんでいる。
それなら……
「再現するんです、"とこしえの樹"の……ううん、エテルネちゃんの香りを!」
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