獣神懐柔賢者
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ジャガードは困っていた。
先日、人間たちが自分たちの住処を荒らしに来た時以来の困り方だった。
「ガウゥ……!」
グランが警戒して唸り声を上げるのを、ジャガードの背中を叩いてなだめる。
いつも彼らが寝床にしている古木の虚のなかに、
なんだかよくわからないモノが根を張り、入れなくなっているのだ。
何年か前に見つけた、お気に入りの場所だったのに。
ジャガードはそう思いながら、そのよくわからないモノに手を伸ばしてみた。
明らかに植物である見た目を持っているにも関わらず、それは暖かく、静かに脈打っている。
困った。ジャガードはこんなものを見たことが無い。
見たことのある植物や動物であれば、それが毒や敵であることはわかる。
また、仮に初めて見る何かだとしても、
匂いや雰囲気でそれが何であるかをある程度判別することが出来た。
だが、それが全くわからない。
優しく、少し甘い、爽やかで心地のよくなるような香りをしているにも関わらず、
寝床を完全に塞いでいるそれは、ジャガードにとっては邪魔者であると同時に
安心できる『何か』だった。
触っても特に反応がないところを見ると、害があるわけではない。
困った。
これをどう扱っていいのか、ジャガードにはわからなかった。
「グル……ル……」
興奮して唸り声をあげていたグランも、今は少し落ち着いている。
きっとこの優しい香りのせいだろう。
ジャガードも、自分の寝床を塞がれたことを半ば忘れていた。
「ふあぁ……」
大きなあくびが自然と出てきてしまう。
グランはすっかり伏せの格好で眠ってしまっていた。
その背中に体をあずけるようにして、ジャガードも眠りにつく。
やがて香りに誘われたのか、一匹、また一匹と森の動物や蝶たちが集まってくる。
天上岬、という言葉が相応しい、美しい光景がそこに広がっていた。
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