とこしえの樹のタネ
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どうしよう、どうしよう……!
お母様が私を抱きしめたまま離してくれない。
「お、お母様……?」
困ったことに、私が声をかけても、お母様は返事をしてくれない。
ただずっと、私に抱きついているだけで、何も言ってくれないし、手を離してもくれなかった。
「あの、私……勝手に居なくなっちゃって、ごめんなさい」
「いいよ、そんなこともうどうでもいい!」
私を抱きしめたまま、お母様は叫ぶようにそう言う。
怒られているような気がして、私は心底申し訳なく思ってしまう。
「ごめんなさい……。あの、お母様、怒らないで……!」
そう言っても、お母様はずっと黙ったまま。
だんだん私は悲しくなって、お母様に嫌われてしまったんじゃないかと怖くなって。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
私はもう、謝ることしか出来なかった。涙が後から後から溢れ出てきて、止まらない。
ただ私は、嫌われたくなかった。
なぜなら、私は──"とこしえの樹"は、孤独だったから。
夜が閉じる時、私の中に蘇った樹の記憶は、終わることのない孤独感で占められていた。
他の樹よりも大きいせいで、他の植物と話すこともできず、声も聞くことが出来ず……
ただ、永劫に続く繰り返しの中で、立ちすくむだけの毎日。
植物以外の友達を作ろうとしたけれど、近寄ってきた生き物は皆、
樹を傷つけたり、切ろうとしたり、ひどいことばかり……
それがたまらなく悲しくて、私は結界で世界を拒絶した。
けれどもやっぱり寂しくて、光に弱いファラフォリアを見つけて守ろうとしたりした。
けれど、結局それもファラフォリアを傷つけるだけで、ずっと長い間恨まれてしまった。
何もかも裏目に出ちゃって、焦る心とは裏腹に体だけは大きくなっていって、
どんどん皆との距離が広がっていく。
……だから、私が生まれた。誰かと繋がりたくて、話をしたくて。
私の言葉を、私の声で伝えたくて。
ごめんなさい、とファラフォリアに伝えたくて。
そして叶うなら、友達を、仲間を──家族を作りたくて。
もう、ひとりは嫌だった。
だから、私は体を捨てて、タネに心を移して、外へと出た。
それが"とこしえの樹"が、私を作った理由。
そして今の私の目的。
ひとりは嫌。
そして、嫌われるのはもっと嫌……!
「ごめんなさいお母様、ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい」
だから、私は何度も何度も繰り返して言う。
長い長い時間をかけて得た"言葉"を使って、気持ちを伝えようと。
でも、お母様は何も言わない。
「どうして……どうして何も言ってくれないんですか……?
嫌いにならないでください、一人にしないでください……」
私はうつむいて、自分の手で顔を覆う。
何をしても伝わらないなら、誰かを傷つけてしまうなら、
もういっそ、枯れ果ててしまいたい──!
そう、私が思った時だった。
何も言わず、お母様は泣き顔のまま微笑むと、私を抱きしめる。
ゆっくり力を込めて、温かく、優しく、力強く。
それから、ただ一言、お母様は言った。
「おかえりなさい、エテルネ」
……それだけで充分だった。言葉はそれ以上いらなかった。
私は今、言葉を持てたことを、お母様に出会えたことを、何かを感じる気持ちを持てたことを……
そしてこの世界に生まれたことを、心から感謝した。
抑えられない涙を流しながら、私は言う。
ただ、ただ一言。
「ただいま……お母さん……!」
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