威薔薇の妖魔女
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困ったなぁ、すごく。
こんなに困ったのはいつ以来だろう。
「……聞いてますか、ロゼッタ」
「はーい、聞いてまーす」
アタシ達「威薔薇種」の植物にはリーダーというか、ボスというか……
まあ、そういう頭がいるわけよ。
太陽の石を持ち、眠ることなく"とこしえの樹"を守り続ける、
奇しきオールドローズ『ヴェレッド』。それが私達のボス。
んで、アタシは今そのヴェレッドに超怒られてるってわけ。
「では、あなたが今叱られている理由をもう一度説明なさい」
「……えーと、なんでしたっけ。"とこしえの樹"のタネを食べようとしちゃったから?」
「いいえ、この天上岬すべての未来を潰す可能性があったからです」
「だいたい同じじゃないですかぁ、果物が先かタネが先かみたいな問題でしょ、それって」
「あなた反省してます?」
「してるって言ってるじゃないですかぁ~、もー」
困った。超こまった。
そして何よりめんどくさい!
「あなたは曲がりなりにも"とこしえの樹"の守り人の一人なのですから、自覚をもっと……」
「はいはいはい! わかりましたわかりました!」
アタシはそう言いながら、ツタを樹の枝に伸ばし、
思い切り体を引き上げてヴェレッドから逃げる。
「あっ、こら!」
ヴェレッドは声を荒げるけど、すぐに私を見失った。
ずっと結界の中に引きこもってたヴェレッドと違って、
この辺は私の庭なんだからさ、追いつけないのは当然よね。
そもそも、あのタネがすごくいい匂いなのがいけないのよ。
美味しそうっていうか、なんていうか……そう、まさに食べちゃいたいくらい可愛いというか。
どうしようもなくそれが欲しくて、大事にしたくて、たまらなくなる。
きっと感受性の強い人間でも、ああいう気持ちになるんじゃないかな。
例えば、リリー姉妹の妹の方とか……。
(それにしても、あれがまさか"とこしえの樹"のタネだったとはね)
私は空高くそびえる樹を眺めながら、あのタネの匂いを思い出していた。
甘くて、可愛くて、ドキドキするような、ステキな香り。
少しだけ人間の匂いが混ざってて、でも太陽花みたいに暖かい……
そう、ちょうど今このへんに漂ってるような香り。
「……って、えっ!?」
どういうこと……? なんであの匂いがするのよ。
とこしえの樹は少し遠いから、ここまで香りが届くはずない。
「まさか──」
私達植物は、基本的にタネを作る時、芽を出さない可能性も考えて多めにそれを作る。
もし、"とこしえの樹"も、長く生きる過程でその『進化』を選んだとしたなら。
「……可能性はあるわね」
私は急いで匂いのする方向へとツタを這わせる。
今はもう、樹の代替わりは終わっているはず。
「なら、もうひとつは──」
……アタシが貰っても、いいよね?
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