花調香の女神
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う――ん、困った! すごく困った。
こんなに困ったのは初めてかもしれないというくらい困った。
「ねえファム、お茶でも飲まない?」
「……いりません」
「や、焼きたてのカラメルリーフ入りタルトもつけちゃうぞ~♪」
「気分じゃありません」
「──あー、そう? じゃ、じゃあお姉ちゃんが全部食べちゃうぞ~?」
言いながら、私は特別大きく作ったタルトをテーブルに置いて、
フォークを手にファムの様子を伺う。……うん、動く気配なし。
あの元気でお菓子大好きなファムが、さっぱり元気をなくして、お菓子に目もくれないなんて。
──そして、私のことを見てもくれないなんて。
……困った。すごく困ったなぁ。
「ちょっと出かけてくるから、留守番よろしくね、ファム」
「……いってらっしゃい」
元気の無い声に送り出されながら、私は工房のドアを閉じる。
少し重苦しい空気から開放されて、私はホッとため息をついた。
あれから2日、ファムはずっとパジャマのまま寝転がって窓の外を見つめている。
きっと、あの時夜と一緒に消えてしまった、エテルネのことを想いながら。
私は歩きながら、天上岬のどこからでも見える"とこしえの樹"を、改めてじっと眺めた。
2日前の"夜"、朝日に溶けて居なくなってしまったエテルネは、一本の小さな花枝にその姿を変えた。
それによって"とこしえの樹"を存続させるという私達「みんな」の目的は果たされたけれど、
「私とファム」の長年の夢は、ついに果たせないものになってしまった。
──"とこしえの樹"の花で香水を作る。
そのためには、花に姿を変えたエテルネを摘み取らなければならない。
そんなこと、私達にはできなかった。
きっと香水が作れないくらいじゃ、あの子も私もへこたれたりしない。
でも、あの子はきっと、エテルネを失ってしまったのが苦しくて、悲しくて、
どうしようもなくなってしまってるんだと思う。
私はそんなファムを見ているのが、一番苦しくて、悲しくて。
そしてもっと悲しいのは……私じゃ、あの子に何もしてあげられないという事実だった。
「ねえ、エテルネ。あなたは元気にしてるのかな。
あなたのお母さん──ファムはちょっとだけ、元気がないみたい」
空に向かってそびえ立つ、"とこしえの樹"……ううん、エテルネに向かって、私はつぶやく。
「私もね……元気がないファムを、見るのが、つらくってさ……」
青い空と白い雲が、にじんでぼやけた。
「でもさ──私、お姉ちゃんだからさぁ……」
涙が止まらない。いままで我慢していた気持ちが、全部溢れ出てきてしまう。
「こんなところ、妹に、見せられないよね……!」
心がくしゃくしゃに潰れていく。どうしても止まらない涙が、私の頬を濡らしていく。
誰か、この気持ちを、涙を、止めて……! そう思った時だった。
「……あの、フェルチさま?」
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