大魔道杯prelude
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■粋な装い■ | ||
その日、君は魔道杯に参加するため、とある街に滞在していた。 | ||
今回の大会は、ギルド創立の記念大会らしく大掛かりな前夜祭が催されている。 | ||
楽団による優雅な音楽が流れる中、参加者の楽しげな談笑が端々から聞こえる。 | ||
装飾や照明が醸し出す雰囲気。美味しそうな料理の香り……。 | ||
派手な仮装。 | ||
おお、お前か。どうだ、パーティーを楽しんでいるか? | ||
それなりに……。と答え、続ける。 | ||
楽しんでいるみたいだね。と付け加える。 | ||
はっはっは。この格好のことか? 何か仮装して来いと言われたのでな。 | ||
色々文献を調べて、かなり珍しい衣装を用意したのだ。 | ||
確かにバロンの衣装は、クエス=アリアスでは珍しい様式の物である。 | ||
誰かと同じ仮装をしてしまうのは恥ずかしいからな。 | ||
しかし、お前……。中々考えたな。それは、誰もかぶらんな……。 | ||
そんなことを話していると、バロンと君の会話に豪快な笑い声が割り込んでくる。 | ||
わっはっは。バロン。どうやら考えることは同じようだな。 | ||
なんと! まさか貴様と同じとは……! ……無念! | ||
ははは! そんな細かいことを気にしてどうする。 | ||
どうしても同じ衣装が嫌なら、こいつのような突飛な格好をすればいいじゃないか! | ||
とドゥーガは君の方を指差す。 | ||
まあ、ともかくもし我々のチームになった時は、よろしく頼むぞ。 | ||
君は軽く頷いて、明日の健闘を誓った。 | ||
■騒がしい人たち■ | ||
会場を回っていて、君はふとあることに気づく。 | ||
そういえば、師匠の姿が見えない。いつの間にかふらりといなくなったのだ。 | ||
会場の隅々に目を配らせてみるが、 | ||
やはりいない。すると……。 | ||
どうしてアタシがこんな格好をしなきゃいけないのよ! それはボクのセリフだ! こんな恥ずかしい格好! | ||
でもティア様意外と似合ってますよ。 そうそう。とても良い感じですよ。 | ||
な! そんなわけないだろ! さてはからかっているな! | ||
はは、照れない照れない。 | ||
子どもだからよく似合ってるわね。 | ||
だから! ボクはお前よりだいぶ年上だって言っているだろ! | ||
オルネ。君も似合っているよ。 | ||
ちょっ! 何それ、からかってるんでしょ! わかってるわよ! | ||
反応が一緒だな。 | ||
そんな騒がしい一行に、君は黒猫を知らないか、と訊ねてみた。 | ||
やあ、君……か? | ||
はは、よく似合ってるよ。 | ||
はあ……。 | ||
こんなの初めて見た……。 | ||
妙な沈黙が少しの間続いたが、我に返ったルシェが君の質問に答えてくれた。 | ||
君の黒猫は見なかったな。たぶんごちそうの所にでもいるんじゃないかな? | ||
ありがとう。と君は礼を言って、その場を離れる。 | ||
残された一同はずっと君の行方を見ていたようだった。 | ||
それにしても、一体ウィズはどこに行ったのだろうか。 | ||
君はさらに会場の中を探すことにした。 | ||
あいつ、よく恥ずかしくないな……。 | ||
……振り切っているね。 | ||
■天使と悪魔と姫君と■ | ||
談笑する参加者の間を縫うように進んでいくと、ばったりと知った顔に出くわした。 | ||
……あ。 | ||
人の多い場所に慣れていないロレッタは会場の空気に当てられ、ボーっとしていたようだ。 | ||
けれども、君を見たロレッタはつま先から頭の先まで、まじまじと眺める。 | ||
…………。 | ||
どうやら目も覚めたようだ。 | ||
……負けた。 | ||
ロレッタは自分の衣装をつまんで、そう呟いた。 | ||
ウィズを知らない? 君はすこし落ち込んだ様子のロレッタに訊ねる。 | ||
……知らない。 | ||
彼女らしくないつっけんどんな返答の仕方だった。 | ||
何か怒らせるようなことでも言っただろうか? と訝っていると……。 | ||
もしかして……魔法使いさんですか? | ||
かけられた声の方へ振り向くと、天使の衣装を着たベルナデッタと……。 | ||
まあ……力が入っているわね。誰だか分からなかったわ。 | ||
悪魔だろうか……そんな衣装を身にまとったキーラがいた。 | ||
黒猫を知らないか? もう何度も繰り返した言葉を口にする。 | ||
黒猫? | ||
ああ、そういえば、給仕の方に料理を貰っているのを見たかも……。 | ||
ありがとう。と告げて、君はベルナデッタに教えてもらった方へと向かった。 | ||
…………。 | ||
あれですね……。 | ||
なんか自分がばかばかしくなったわね。 | ||
行ってみると、ウィズは会場の隅で銀の皿に盛られたオードブルを食べていた。 | ||
どこに行っていたの? 君はウィズの後ろ姿に声をかける。 | ||
ん? ……誰かと思ったら、キミにゃ? | ||
もちろん、用意していた衣装を取りに行っていたにゃ。 | ||
こう見えても私はこういうのは好きにゃ。猫の姿だから衣装を着るのが大変だったけど。 | ||
どうにゃ? | ||
似合っているにゃ? | ||
と言いながら、ウィズは振り返って、君を見る。 | ||
…………。 | ||
ウィズは君を見て、目を丸くする。 | ||
なんにゃキミ、その格好は! | ||
いつ、どこで用意したにゃ! なんで私に黙っていたにゃ! | ||
ずるいにゃ! 私もそれがよかったにゃ! | ||
そんなことないよ。と君はウィズを諭す。 | ||
でも・・・・・・。師匠はその後も長い間機嫌を直さなかった。 | ||
これから魔道杯が控えているのに……。なんだか厄介なことになってしまった。 | ||
自分の中では、ごく普通の仮装のつもりだったのに……。 | ||
そんなふうに、前夜祭の夜は更けていった。 |
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