DIGHTMARE
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黄昏時──都市の中央に築かれた門から、大量の荷物を載せた馬車がぞろぞろと現れる。 | ||
あれは、”現実”の側から来た馬車なのかにゃ? | ||
お察しの通りさ、黒猫殿。 | ||
小さく笑いながら、ラギトが歩み寄ってくる。 | ||
あの門は黄昏時だけ”通行可能”になる。 | ||
だからこの時刻になると、”外”からの隊商が雁首そろえてやってくる。 | ||
荷物は何を積んでるにゃ? | ||
いろいろあるが、いちばんは食糧だ。ここは、”外”からの供給にすべてを頼っているからな。 | ||
あとは、人だな。”外”に居づらくなった人間が、新天地を求めてよく来る。 | ||
ひょっとして、ラギトもそうなのだろうか? | ||
いや。俺はこの都市の生まれだ。両親はそのたぐいだったが。 | ||
ゼラードなんかとは比べ物にならないろくでなしでな。俺を金儲けの道具にしようとしていた。 | ||
たまらず早々に家出して、路地裏暮らしを始めた。 | ||
それで、”最強の〈メアレス〉”になったにゃ? | ||
いや。その頃は、”最強の〈メアレス〉コンビ”だった。 | ||
腕っぷしお認め合った親友がいたんだ。アフリト翁に誘われて、ふたりで〈メアレス〉になった。 | ||
向かうところ敵なし、というやつさ。〈ロストメア〉をガンガン倒して、どんどん金を貯めていった。 | ||
そのうち、相方が言い出したんだ。どうせなら、これを元手に”外”で一旗揚げようぜ、と。 | ||
この都市で生まれ育った俺たちにとって、”外”はあこがれだった。 | ||
いつか”外”に──そうしたらどうするか、なんて話で夜通し盛り上がったものさ。 | ||
語るラギトの瞳が、不意に鋭く細められ──限りない痛みの色を宿した。 | ||
……知らなかったんだ。それを”夢”と呼ぶのだとは。 | ||
夢見ざる者──〈メアレス〉。夢を持たぬがゆえにこそ、〈ロストメア〉と戦える者たち。 | ||
その〈メアレス〉が、夢を抱いた。それが意味するところは、つまり……。 | ||
ラギトは、想いを封じるように瞑目した。 | ||
〈ロストメア〉との戦いで、俺たちは敗れた。なんでもないはずの相手に、手も足も出せずに。 | ||
そいつはそのまま俺たちを飲み込もうとしてきた。大方、寂しがり屋の見た夢だったんだろう。 | ||
〈見果てぬ夢〉。その内容次第で、〈ロストメア〉が特殊な能力を持つことがある。その話は、君もリフィルから聞いていた。 | ||
俺もあいつも半ば融合されかかった。このまま食われるのだと、俺は諦めた。 | ||
……あいつは違った。 | ||
残された力を振り絞って……俺を〈ロストメア〉から引きはがし……刺し違えた。 | ||
土壇場で、捨てたんだ。夢を。俺のために。最初に夢を語ったのはあいつだったのにな……。 | ||
なら、ラギトの身にまとう力は── | ||
そのときの名残だ。〈ロストメア〉の一部が、身体に融合したままになった。 | ||
おかげで、”外”には行けなくなった。”こいつ”の夢を叶えてしまいかねない。 | ||
それで──もう一度、〈メアレス〉に? | ||
ああ。幸い、この力は戦いには役立つ。 | ||
ラギトは笑った。若さに似合わぬ、どこか錆びついた笑いだった。 | ||
最初は……夢を失った以上、もはや戦う意味もないかとは思った。 | ||
だが……この命は、友に救われた命だ。そう考えると、無駄にするのは忍びなくてな。 | ||
この都市から出られぬ身なら、せめてこの都市の人々を守るために戦い続ける……。 | ||
それでようやく、あいつに顔向けができる。そんな気がする。 | ||
そう言って、ラギトはきびすを返した。黄昏の門に背を向けるようにして。 | ||
”最強”なんて呼び名に意味はない。俺は、都市を守れればそれでいい。 | ||
だから他の〈メアレス〉との共闘もいとわない。あんたともよろしくやって行きたいもんだ。 | ||
都市を守る力は、多いほどいい。死ぬなよ──魔法使い。 | ||
去りゆく背中には、限りない悼みと──そして、同じだけの覚悟がにじんでいた。 | ||
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