- 虚ろにさまよう夢 -  |
| その〈ロストメア〉は、人の姿でさまよっていた。 | |

う……ああ……。
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| 酔いおぼれたようにふらつく足取り。道行く人にぶつかり、ののしられながら、前に進む。 | |
 | 門……へ……。 | |
 | 門へ……行かなければ……。みんな……いっしょに……なるために……。 | |

──あら。
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| ふと。 | |
| 倒れ込むようにして細い路地裏に入り込んだとき、嫣然と微笑むひとりの少女に出くわした。 | |
| 人擬態級の〈ロストメア〉とは。でも、せっかく人の姿をしているのに、それじゃばればれよ。 |  |
 | う……うう……。 | |
| 泣き崩れそうになる〈ロストメア〉の頭を、少女は慈しむような手つきで撫でる。 | |
| ねえ──私が手伝ってあげましょうか。ほら、教えて。あなたの夢はなに? |  |
 | 私の……夢は……。 | |
| 少女が、〈ロストメア〉の手を握った。すると、〈ロストメア〉の瞳が淡く輝き始める。 | |
 | 三人で、いっしょに……生きて、過ごして……。どこまでも……ずっと……ただ、幸せに……。 | |
| ──なるほど。 |  |
| いつしか、少女の瞳に、みっつの人影が映っていた。 | |
| 目の前の女と、大柄な男と、小さな女の子とが、仲睦まじく笑い合う──そんな姿が。 | |
| なんとまあ。あなた、〈メアレス〉の男が捨てた〈見果てぬ夢〉なのね。 |  |
| 微笑んで──少女は、そっと〈ロストメア〉のほっそりとした肢体を抱きしめた。 | |

かわいそうなこと。あなたを生み出した男は、夢見ざる存在として、私たちを狩りに来る。
そんな……どうして……? 自分で抱いた夢なのに……。
泣いたってどうしようもないわ。そういうものなの。
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| だからこそ……私たちは自分で自分を叶えるしかない。そうでないと幸せになんてなれないのよ。 |  |
| 私が力を貸してあげる。現実に行くための力。そして……あなたを生んだ男に復讐する力を。 |  |
 | わたし……現実に、なれるの……? | |
| もちろんよ。 |  |
| だから、私とともに来なさい。夢として生まれた意義を、果たすために。 |  |
 | ……はい。 | |
| 〈ロストメア〉は、うなずいた。 | |
| 誰かに優しく抱かれることのあたたかさを、生まれて初めて感じながら── | |
| 〈見果てぬ夢〉に過ぎぬという己がさだめを、今さらながらに嘆いて、泣いた。 | |
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