素直になれない表向き
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ピシャッ、と生徒会室の扉を閉めて、リンカは大股で廊下を歩き始めた。
(一体なんなのよ、私が何かした!? 原因があるなら言ってくれればいいじゃない!
急によそよそしくなって、理由を聞いてもごまかして……!)
イライラを隠さずに、彼女は眉間にシワを寄せる。
とはいえ、自分がなぜこんなに怒っているのか、彼女自身不思議ではあった。
イツキがリンカの呼び方を変えたのは、臨海学校から少し経ったころだったように思う。
はじめは特に気にしなかったのだが、
最近になって段々とそれが気になるようになってきた。
それに彼がああいうハッキリしない態度を取ることは今までなかったし、
何より自分に隠し事をしたのは今日が初めてだったように思う。
中庭の噴水のヘリに座り、リンカはグルグルと回る頭の中で
ずっと文句をつぶやいていた。
(大体会長って私のこと呼ぶならニコラのことも会計って呼びなさいよ、
なんで私だけあんな……)
「ああもう! 違う!」
怒りがイツキ以外の方向に向いてしまい、
彼女は声を出すことで考えを止める。
遠巻きに自分を見ている生徒たちがいるが、
そんなことを今はもう気にしている余裕はない。
腹が立って腹が立って、仕方がなかった。
「どうしたリンカ。珍しいな、デケぇ声出して」
ふと、聞き慣れた声が聞こえる。
顔を上げると、そこには猫を抱いたヴォルフがいた。
「別に、なんでもない」
「なんでもないこたァ無いだろ。言ってみろ、聞くくらいは出来るからよ」
「……イツキが──」
そこからは止まらなかった。
今までずっと良い形でやってきたのに、それに私は何もしていないのに、
なんであんな形でいまさらになって距離を置こうとするのか……。
ヴォルフは一生懸命に話すリンカの話を、
ずっと黙ったまま、頷くだけで聞いていた。
「──で、私……もうなんだかイライラして、止まらなくて」
話し終え少し落ち着いた彼女は、そう言うと大きなため息をついて片手で額を覆う。
隣に座るヴォルフはフム、と頷いて、膝の上で眠る猫を一度撫でた。
「リンカはイツキのことをよく見てんだな」
「それ、どういう意味?」
「言葉通りの意味だ。それ以上の意味なんかねぇ、単純にそう思っただけだ」
膝の上の猫がヴォルフの手を登り始め、ちょこんと彼の肩に座る。
その微笑ましい様子を見て、リンカのイライラは少しだけ消えていった。
「イツキもよ、同じくらいお前のことを見てると思うぜ。
アイツが考え無しに変なことするワケねぇのは、お前も知ってんだろ?」
「……うん。でも、何で話してくれないのかな」
「話せない事の一つや二つ、男にはあるもんだ」
「……そうなの? 難しいなぁ男は……」
そう言い、もう一度盛大なため息をつくリンカを見ながら、ヴォルフは微笑む。
「いいぜ、別に。イライラしてもよ。そういうの含めて俺はお前を気に入ってんだ」
「……それも言葉以上の意味、ないんでしょ」
「そう言ってんじゃねぇか。ここを出れば敵同士になるかもしれねぇしな……
コレ以上誰かに踏み込む勇気は、俺にはねぇよ」
ふと、ヴォルフは寂しそうに笑う。
その横顔を見て、ふとリンカは自分の気持ちのひとつに決着が付いたことに気付いた。
同時に、ヴォルフの言葉がリフレインする。
──リンカはイツキのことをよく見てんだな。
──イツキもよ、同じくらいお前のことを見てると思うぜ。
(……いや、まさかね)
今自分がヴォルフを見ていたように、イツキも自分を見ていたとしたら。
そんなことを考えながら、
彼女はヴォルフにチョコを渡しそびれていたことを、少しだけ後悔していた。
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