避暑会長
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「……ここから探せってか」
ヴォルフは、げんなりと嘆息した。
クロム・マグナ魔道学園──資料室。
ヴォルフとリンカは、担任教師であるサロメに『イグニーマ』の授業で使う予定の
『不死鳥の羽扇』を取ってくるよう頼まれて、ここに来たのだが……
そこは、ちょっとした博物館のようなありさまだった。
古い魔道書や謎めいた壺、魔剣らしきものにドクロのついた杖などが、
だだっ広い空間に乱雑に置かれている。
「ちったぁ整理したらどうなんだ?」
「前は整理されていたんだけど……」隣のリンカが告げる。
「校舎が飛ばされたとき、中がめちゃくちゃになってしまって。
頻繁に使う場所でもないから、まだ整頓が進んでいないの」
「なるほど……仕方ねぇな。さっさと探すか」
うなずき合い、資料室に入っていく。
『不死鳥の羽扇』があるはずの区画に進むと、
さまざまな魔法の道具がうずたかく積まれていた。
「見たとこ、羽扇とやらは埋もれてるみてぇだな……」
「そうね。まずは上の道具をどかしていきましょう」
リンカが道具の山に手を伸ばそうとしたとき、
「待った」
ヴォルフが、そっとリンカの手をつかんで止めた。
包み込むような優しい手つき──
突然の接触に、「……!」リンカは顔を真っ赤にして硬直する。
「それは俺がやる。崩れる危険もあるからな。
リンカは、この山の端っこの方を探してくれねぇか」
わかったわ、と答えようとしたが、思わず息を呑んでしまった直後で、
うまく言葉を発せなかった。あわてて、こくこくとうなずく。
「頼んだぜ」
かすかな笑みを頬に刻むヴォルフ。
そのまま道具の山に向かっていく広い背中を、リンカは、ぼうっと見つめる。
最初──ヴォルフが生徒会に入ったばかりの頃、
彼の笑顔を見ることはほとんどなかった。
常に眼光鋭く、不機嫌そうに見える表情ばかりしていることもあり、
正直、近寄りがたい空気があった。
でも──今は。ふと、その口元が緩むことがある。
半年以上もの間、生徒会室で頻繁に顔を合わせ、業務について相談し、
あるいは世間話を交わしているうちに、そういう瞬間が増えてきたように思う。
それだけではない。いろいろなことがわかってきた。
けっこう几帳面だとか、
文字がきれいだとか、
驚いて目を見開いた表情が少し子供っぽく見えるとか、
意外と照れ屋であるとか……
「なあ、リンカ」不意に、ヴォルフが振り向いた。「羽扇って、これか?」
「あ──、ええ、それよ。ごめんなさい、ちょっとぼうっとしてて……」
「気にすんな。じゃ、戻ろうぜ」
連れ立って、資料室を後にする。
情けなさに、リンカはひそかに恥じ入った。
ほうけて作業を任せきりにするなんて。あきれられただろうか──
「そういや、臨海学校のしおり、イツキが作るってよ」
ヴォルフが口を開いた。いつも通りの口調で。
「そ、そうなのね──わかったわ」
うなずきながら、ほっとする。
さっきの件で、不快に思われてはいなかったようだ。
(臨海学校、か……)
三泊四日の合宿。半年以上の付き合いである生徒会だが、
泊りがけで何かをするということはなかった。
ひょっとしたら、ヴォルフの新たな一面を見ることができるかもしれない──
そう思ったとき、わずかに心が弾んだことを、リンカは自覚していなかった。
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