空戦の異界
タグ一覧
>最終更新日時:
![]() | 貴君がどこから来たかは知らないが、この時期にここへ来た愚かさを呪うことになるだろう。 | |
君は口を開かず、ディートリヒを見ていた。 | ||
見透かされるような、それでいて締めつけられるような……強い圧迫感があった。 | ||
君はそんな圧迫感を抱きながら、愚かさ? と訊いた。 | ||
![]() | 世界の4割を占めるこの大陸には、1年前まで大小合わせて、およそ100の国が存在していた。 | |
![]() | 我がドルキマスもそのひとつだ。 | |
![]() | ここは空戦による──いわるゆ戦争で国力を誇示しなければならない大陸だった。 | |
![]() | それができなかった国は、全て大国、あるいは強国と呼ばれる国々に飲み込まれていく。 | |
戦争……ディートリヒの口から出た言葉に、君は慄然とした。 | ||
![]() | ある意味では、貴君が今、ここに来たのは幸運かもしれないが。 | |
……いきなり銃を突きつけられて、挙句の果てに拘束されることのどこが幸運なのかにゃ。 | ![]() | |
ウィズがぼやく。 | ||
ディートリヒはそんなウィズを無視して、話を続ける。 | ||
![]() | 戦争は終わった。空戦を繰り広げ、国威を示す時代は終焉を迎えた。 | |
![]() | 言ったであろう。1年ほど前の話だ、と。 | |
戦争が行われていたのは1年前まで…… | ||
要するに、争いがなくなり落ち着いた、ということだろうか。 | ||
![]() | ローヴィ。 | |
ディートリヒが声を発すると、どこからかローヴィが姿を見せる。 | ||
![]() | 元帥閣下の仰るとおり、戦争の時代は終わりました。 | |
![]() | ドルキマスを除いたほぼ全ての国が"飲まれて"しまったからです。 | |
飲まれた……。 | ||
君は、瞬時に意味を理解できず、ディートリヒ、ローヴィを交互に見やった。 | ||
![]() | 〈イグノビリウム〉が大陸に降り立ったからです。 | |
〈イグノビリウム〉……その言葉には聞き覚えがある。 | ||
![]() | 〈イグノビリウム〉は一夜にして大陸に広がり、大小問わず、様々な国を壊滅状態にしました。 | |
……戦争ではない、というのはつまりそういうことらしい。 | ||
![]() | 為す術もなく、各国の軍が敗北を喫しました。 | |
![]() | 現在、抵抗できる戦力を持った国は、我々ドルキマスのみ……。 | |
![]() | 幸運だったのは、使い捨ての兵を利用し、〈イグノビリウム〉を陽動できたこと。 | |
![]() | 敵国へ目を向けさせれば、時間は十分に稼げる。 | |
使い捨ての兵……? | ![]() | |
ウィズの疑問と君の疑問は、ローヴィの声にかき消される。 | ||
![]() | 何より、船がありました。貴官が"どういうわけか"横になっていた船が。 | |
![]() | 私たちはアレを"魔道艇"と呼んでいます。 | |
![]() | 魔法の類が使えないと起動しないものだと、過去の文献に記載されていたな。 | |
![]() | 他国にどれほど存在していたのか、あるいは我々の国にしかないものなのか定かではない。 | |
![]() | 造船に優れた国だが、我々では手に負えん代物だ。 | |
![]() | 廃棄することもできましたが、〈イグノビリウム〉がこれを恐れているのなら……。 | |
使わない手はない、ということ──だとローヴィは言う。 | ||
![]() | 貴君は、魔道艇を使用し、〈イグノビリウム〉を殲滅する。 | |
にゃ!? | ![]() | |
君とウィズは、驚きを隠しきれなかった。 | ||
何故、自分が戦いに参加しなければならないのか、君は全く理解できない。 | ||
![]() | もとより選択権はありません。 | |
してもらう、してください、そういう言葉ではない。 | ||
あくまで確定していることとして、彼女は話をする。 | ||
![]() | 我々には戦力がある。 | |
![]() | 〈イグノビリウム〉を撃滅し、大陸を取り戻すだけの戦力が──。 | |
決然と言い放つディートリヒの瞳には、ここまでに見せなかった色が浮かんでいた。 | ||
![]() | 竜騎軍〈ウォラレアル〉、そして貴官同様、さる場所から〈イグノビリウム〉殲滅のために来た、 | |
![]() | 〈ファーブラ〉という軍が我々と共闘関係にあります。 | |
![]() | これから各軍の指揮官と面通しを済ませてもらう。貴君の活躍には期待している。 | |
あまりにも横暴な話だ。 | ||
それに魔道艇という乗り物を使って、君たちが逃げないとも限らない。 | ||
そういったことを、彼らは考えているのだろうか? | ||
まるで君の心を見透かしたようにディートリヒは続けた。 | ||
![]() | 私は与えてやるのだ。死に場所と、国のため戦い抜いた栄誉を──。 | |
ディートリヒはそれだけを言い残して、君たちに背を向けた。 | ||
……いや、ディートリヒが、そんな隙を見せる男とも思えない。 | ||
……逃げ出すだけの気力が湧き上がらなかった。 |
コメント(0)
コメント
削除すると元に戻すことは出来ません。
よろしいですか?
今後表示しない