砂浜の王子
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鋼鉄の剣と魔法が支配する異界で、
リチャードは、氷海のペンギンたちを束ねる王家の一族に生まれた。
彼は己の生まれを誇り、自分もいずれは偉大な王になるのだと誓っていた。
だが、打ち続く戦乱の波は氷海にまで押し寄せた。
人間の軍勢が従属を求めてきたのだ。
父王はこれに反発し、誇りある抵抗を見せた。
しかし──人間の武力は圧倒的であり、氷海の領土は次々と奪われていった。
そしてついに、父王は、人間に服従することを選んだ。
「なぜです、父上!」リチャードは叫んだ。「一族の誇りをなげうつおつもりか!」
「誇りより優先すべきものがある」父王は言った。
「王として、私は民の命を守らねばならぬ」
リチャードの無念をよそに、こうして氷海のペンギン一族は人間に隷属した。
人間は、氷海に眠る魔法資源の発掘にペンギンたちを駆り出し、
また、そうして得られた資源を税として納めさせた。
ペンギンたちは屈辱に震えながらも従うしかなかった。
そんななか、1人の英雄が立ち上がった。
「さぁ、その翼を大きく広げ、嘴を大きく開け! 今こそ『革新』の時である!!」
彼こそはペンギニウス。後に鳥族の王となるペンギンであった。
ペンギニウスは周到だった。
人間からの扱いに不満を持っていたペンギンたちを集め、
反抗の機運を高めていっただけでなく、同じように隷属させられていた
他の鳥族にも接触し、根回しを進めた。
また、人間が魔法資源を欲している点に着目。
人間の豪商たちと密かにつながりを持ち、革命成功の暁には
彼らに資源の一部を融通すると約束して、物資援助を引き出した。
そうしてペンギニウスは鳥たちの一大反抗勢力を築き上げ、ついに挙兵した。
人間たちは突然の反抗に驚き、充実した魔法武装による攻撃に翻弄され、
鳥たちの領域から撤退を余儀なくされていった。
リチャードの父は、この挙兵に反対した。
武力で反抗すれば、ペンギン側にも多くの犠牲が出る。
民の命を最優先と考える彼は、ペンギニウスを止めるべく一騎討ちを挑んだ。
ペンギニウスは毅然と応じ──
烈々たる覇気をもって、リチャードの父を打ち破った。
父が倒れたことを知ったリチャードは、反抗軍のもとへと急行した。
だが、まさに王たるにふさわしい威風を備え、
傲然とこちらを見下ろすペンギニウスを前に、動くことができなかった。
「迷うておるか」ペンギニウスは言った。
「父の決断に納得できておらず、さりとて父を討った私を
見過ごすわけにもいかぬ──それゆえの迷いか」
図星であった。うめくしかなかった。
すると、
「──ならば去れ!!」
ペンギニウスは、氷原を震わすほどの声を放った。
「貴様の父は、道こそ違えど、迷いなく誇りに殉じた真の王であった!
だが、自らの道すらさだめられぬ貴様には、我が前に立つ資格はない!!」
言い返すこともできず、うなだれるリチャード。
ペンギニウスは、その横を通り過ぎざま、ぼそりとささやいた。
「己の道をさだめてみせよ。それが我が道と重なるのなら、将として遇そう。
道を違えるというのなら、一騎討ちを受けよう……」
──その言葉を受けて、リチャードは氷海を離れ、見聞を広めるための旅に出た。
そして今、謎の女将の旅館で働きながら──王子はクチバシを研ぎ続けている。
いつか……己の道を見定めて、再びあの男の前に立つために。
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