決意の時
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これは何度目の出会いなのだろうか? | ||
おい。顔を見せろ。 | ||
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あ、こんにちは。 | ||
……なんだそれは? | ||
挨拶ですけど……? よくなかったですか? | ||
囚われの身らしく、しくしくと泣いていた方が良かったですか? | ||
そういうの、堅苦しくないですか? 私、自分のやりたいことは自分で決めますよ。 | ||
泣きたくなったら泣くし、笑いたかったら笑います。 | ||
名は? | ||
ルシエラ・フオルですよ。 | ||
あなたのお名前聞いていませんけど? | ||
アルドベリクだ。 | ||
そしてこれは、何度目の別れなのだろうか? | ||
そういえばお前、なぜ魔界に来た? 自分で魔界に来たのか。 | ||
それとも魔界に来ざるを得なかったのか? | ||
内緒です。 | ||
……答えは帰って来てから聞くとしよう。 | ||
その答えを、俺はまだ聞いていない。 | ||
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アルドベリクは何を考えていたのだろうか? | ||
彼はじっと壁にもたせかけて、ミカエラたちの話を聞いていた。 | ||
君はただ、その様子を見ていた。 | ||
イザークの話は、クエス=アリアスの感覚からすると少し荒唐無稽に聞こえた。 | ||
アルドベリクとルシエラは、あらゆる次元で、存在を変えながら、出会い―― | ||
運命に引き離されるように、「死」という別れを繰り返しているらしい。 | ||
![]() | なぜ、そんなことが分かる。誰がそんなことを言いだしたのだ。 | |
![]() | 時界の監視者が、妙な現象を発見したのが最初だ。 | |
![]() | 世界の時間の流れからズレた、ひとつの小さな時間の流れがある、と。 | |
![]() | それを先代聖王のイアデルが調査しました。そこでわかったのです。 | |
アルドベリクとルシエラが、延々とふたりだけで小さな時間の流れを繰り返していることが……。 | ||
神界のどこか、神界ですらないどこか、あらゆるところで、その小さな時間の流れは、 | ||
繰り返されていた。名を変え、姿を変え、あらゆる形で、彼らは同じ時間を繰り返していた。 | ||
何のためだ? 何のために、俺達はそんなことを繰り返している。 | ![]() | |
![]() | ひとつの推測として、あなたたちがともに生きるという〈可能性〉を捨てたからではないか。 | |
![]() | と、イアデルは言っていました。あらゆる〈可能性〉を繰り返していますが―― | |
ただひとつ、ふたりがともに生きるという〈可能性〉を捨てた。 | ||
その報われない想いは、永遠に、未練を残しながら繰り返されている。 | ||
そしていま、彼らの循環は、再びひとつの終わりへと向かっている。 | ||
いつも通りの繰り返しを行う為に。 | ||
![]() | イアデルは、あなた達が、この神界の存在として生まれ変わった時、ルシエラを保護しました。 | |
![]() | 彼女は秘密の存在として、長く匿われてきました。 | |
![]() | だから、私も見たことがなかったんですか。 | |
双方が出会わなければ、何も起こらない。少なくとも不毛な繰り返しを止められる。 | ||
そういう判断らしい。 | ||
そして、先代聖王のイアデルが崩御し、神界が7つの異界に分かれた、混乱の中、 | ||
ルシエラは逃げ出した。 | ||
![]() | それを、俺が魔界で見つけた。しばらくどうするか考えたが、結局会わせることにした。 | |
![]() | ルシエラはきっとお前に会いに来たのだからな。 | |
その言葉に、アルドベリクは少しだけ反応した。 | ||
![]() | それに、ひとつだけ方法があるからだ。お前達の運命を切り開く方法が。 | |
それはなんだ? | ![]() | |
![]() | あなた達が〈可能性〉を捨てたのなら、〈可能性〉を拾いに行けばいいのです。 | |
![]() | 〈回廊〉を開きます。そこにはあらゆる〈可能性〉があります。 | |
![]() | 調和を重んじるイアデルは、その方法を避けてきました。 | |
![]() | ですが、私は聖王の名において、それを行おうと思います。もちろん……。 | |
俺次第か。 | ![]() | |
そこまで話し終わって、エストラが口を開いた。 | ||
馬鹿げた話だな! そんな話、誰が信じる。アルドベリク、いくらお前でも分かるだろ。 | ![]() | |
これがデタラメだということが! 見ろ、周りは皆、天界の奴らばかりだ! | ![]() | |
イザークも含めてな! | ![]() | |
アルドベリク。お前がかつてどんな存在であったとしても、いまのお前は魔族だ! | ![]() | |
……魔族であることを示せ。 | ![]() | |
アルドベリクは黙って、寝台の上に寝ているルシエラの元に歩いていった。 | ||
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意識を失っていたはずの、ルシエラは足音が近づくと、薄く眼を開けた。 | ||
![]() | あ、意識を取り戻しました。 | |
アルドベリクがその顔を覗き込むと、彼女は言った。 | ||
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アルさんでも……そんな顔するんですね。 | ![]() | |
それだけ言うと彼女はまた意識を失った。 | ||
![]() | アルドベリク、どうしますか? | |
そんな話を信じろというのか? 出来るわけないだろう。 | ![]() | |
![]() | そうですね……。 | |
![]() | さすがに、そこまでお人好しではないか。 | |
勘違いするな。俺は行くぞ。……俺は行く。 | ![]() | |
何か理由が必要か? 俺は、そうは思わない。 | ![]() | |
![]() | では、〈回廊〉に案内します。 | |
君はルシエラが言っていたことを思い出した。 | ||
何にでも理由を求める必要はない。 | ||
アルドベリクの言っていることは、少しだけルシエラに似ている。 | ||
そんな気がした。 | ||
![]() | …………。 | |
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あらゆる〈可能性〉があるという〈回廊〉。 | ||
そこは見たこともない光景が広がっていた。 | ||
思っていたものとは違うな。 | ![]() | |
アルドベリクの言う通りだった。言葉で説明されたものよりも、そこは歪だった。 | ||
〈可能性〉があるというよりも、必要と不必要すら区別されないまま〈可能性〉が投げ出された。 | ||
そんな場所のようだった。どちらかといえば、ゴミ溜めに様子が似ていた。 | ||
ここは7異界の狭間、すべての〈可能性〉があります。 | ![]() | |
ただし、あるだけです。見つけ出すのは……。 | ![]() | |
![]() 至難の業ですよ。 | ||
ミカエラの言葉を継いだのは、大人しそうな少年だった。しかし……。 | ||
彼の次の言葉は、驚くほど、粗暴なものだった。 | ||
![]() | だから、尻尾巻いて帰るなら今のうちだぜえ。 | |
彼はレイフェル。この〈回廊〉を管理する者です。 | ![]() | |
ああ見えますが、私達より長く生きています。 | ![]() | |
ここに相応しい、混乱した奴だな。 | ![]() | |
![]() | おめえに言われたかねえな。お人好しの魔王なんて、訳の分からねえ奴にな。 | |
![]() | あなたは何度もありえたかもしれない〈可能性〉を繰り返したことで、存在が混乱しているんだ。 | |
![]() | それは、あなたの愛しい人も同じだよ。ずいぶん混乱した存在なんじゃないかな? | |
![]() | アルドベリク。たしか昔は、そんな名を名乗ってねえよな。 | |
![]() | 少なくとも、ここに自分の〈可能性〉を捨てに来た時はそんな名ではなかったね。 | |
それなら話は早い。捨てたものを返して貰いにきた。案内しろ。 | ![]() | |
![]() | うーん……。その前に、まずは今ある〈可能性〉を捨てて来てほしかったね。 | |
レイフェルの視線は、君とアルドベリクの背後に注がれていた。 | ||
アルドベリク、もうよせ。お前には魔族としてプライドはないのか。 | ![]() | |
天界の者を救うために、何をしようとしている! いや、それだけではないぞ! | ![]() | |
![]() | あいつも、お前の〈可能性〉のひとつだ。残念ながら、取るに足らないものだけどなあ。 | |
エストラ、邪魔をするな。それ以上は言わない。 | ![]() | |
わかった。ならば私も何も言うまい。魔族らしい方法で、決着をつけようじゃないか。 | ![]() | |
エストラは、怒りも悲しみも見せずに、そう言った。 | ||
ただ、魔族としての生き方を全うするだけの為に黒い羽を開いた。 | ||
魔族なら、欲しいものは、奪い取るだけだ……。 | ![]() | |
(戦闘終了後) | ||
ひとつの〈可能性〉を選んだ時、もうひとつの〈可能性〉が消える。 | ||
エストラが消耗しきった体を横たえているのを見て、君はそんなことを考えた。 | ||
![]() | ||
すまない、エストラ。 | ![]() | |
![]() | 勝ったくせに謝るとは……魔王の風上にも置けない奴だ。とっとと失せろ。 | |
アルドベリクは彼女の言葉に従うように、〈回廊〉の奥へと目を向けた。 | ||
![]() | タダで、戻ってくるなよ。 | |
そしてそれは、もうひとつ別の〈可能性〉が生まれたということではないか。 | ||
たぶんそれは間違いではない、と思った。 | ||
![]() | 私は、ここまでにします。聖王としてはここまでが限界です。 | |
あまり、バランスを崩すことはできない、ということだろう。 | ||
![]() | ラッキー! 案内は少ないほうがありがてぇ。そこのお前はどうする? | |
どうするにゃ? | ![]() | |
![]() | イザークが言ってました。 | |
![]() | もしあなた達がいなければ、いま私達がこうしている〈可能性〉も、なかったはずだ、と。 | |
きっとあなた達がいたから、何かが変わりつつあるのです。 | ||
そこまで言われたら、行かないわけにはいかないにゃ。 | ![]() | |
そうだね、と君は笑いながら同意した。 | ||
ほとんど、脅迫にゃ。 | ![]() | |
![]() | すみません。 | |
![]() | あの? 決まりましたか? | |
ああ、決まった。 | ![]() | |
君は、自分の決断が、ひとつの〈可能性〉の扉を叩いたように思った。 | ||
そんな音が聞こえた気がしたのだ。 |
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