富はなくとも
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すっかり日も暮れ、川を流れる灯籠と空に浮かんだ丸い月が、暗闇に咲く花を淡く照らしてる。 | ||
参道へと続く道は、そんな幻想的な雰囲気に包まれていた。 | ||
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![]() | ウィズ様にはホントに感謝です。まさか私が決勝に出られるなんて、ホント夢みたい! | |
……にゃはは。私たちはただ巻き込まれただけにゃ! | ![]() | |
![]() | あ、そうでしたよね……。な、なんか……ごめんなさい……。 | |
ん? なんでミコトが謝るにゃ? | ![]() | |
![]() | い、いえ……べ、別に……。 | |
優勝して、神輿座についたら、ミコトは何を願うにゃ? | ![]() | |
![]() | そうですねぇ。何をお願いしましょうか? | |
……な! 特に考えてなかったのかにゃ? | ![]() | |
![]() | そういえば、ぜーんぜん考えてませんでした。 | |
じゃ、どうして喧嘩神輿に参加しようと思ったにゃ? | ![]() | |
![]() | うーん……私、この通り「ご利益ぽいんと」20のへっぽこの神ですから……。 | |
![]() | 毎日毎日自己嫌悪ばっかりで……何かして自分を褒めてあげたかったんですよ……きっと。 | |
![]() | 神様って雰囲気商売だと思うんですよね。困った人が助けを求めてお祈りする訳ですから……。 | |
![]() | だから自信たっぷりに、「大丈夫だから安心しなさい」って言ってあげないといけないんです。 | |
そういって星空を仰ぐ彼女に、ウィズは優しく声をかける。 | ||
ミコトはきっといい神様になるにゃ! キミもそう思うにゃ? | ![]() | |
そうウィンクをするウィズを見て、そうだね、と君も微笑む。 | ||
![]() | ありがとう、ウィズ様。何か私もそう思える気がしてきました。 | |
そんな風に話しながら歩いていると、橋の向こうから見慣れた顔が歩いてきた。 | ||
![]() | いいこと? 愛だの恋だの博打だのって不確かな世界に身をおいているからダメなのよ、貴女は。 | |
![]() | ……とはいえそれは私の使命というか……。 | |
![]() | 私を御覧なさい。常に冷静に状況を分析し、最大の利益を得る方法を弾き出してるわ。 | |
![]() | いや、待て。それについては私にも思うことがある。損得に執着するなどは本来神として……。 | |
良かった! ふたりとも元気そうっ! おーい、マトイちゃ~ん! ジョゼフィーヌちゃ~ん! | ![]() | |
そうして君たちは、ともに夜の縁日へとくりだした。 | ||
うわー。出店がいっぱい! | ![]() | |
ごちそういっぱいにゃ! | ![]() | |
![]() | 貴女たち、縁日でものを買うなんて愚の骨頂ですわ。質も悪いし、割高だし……。 | |
![]() | 縁日を楽しまないお前の方こそ、私からすれば阿呆だ……おお! 向こうの方に輪投げ屋が! | |
![]() | 本当に必中バカですわね、貴女は! | |
でもホント元気でよかったよ。マトイちゃんもジョゼフィーヌちゃんも。 | ![]() | |
![]() | ご心配には及ばなくてよ。舶来の「てぃーむめいと」が身を呈して私を守ってくれましたわ。 | |
![]() | 私も大丈夫だ。あの程度は日常茶飯事だからな。 | |
それはそれでどうかと思うにゃ! | ![]() | |
そういえばさ、ふたりは、何を願うつもりだったの? もし優勝してたら? | ![]() | |
![]() | 私は、その、なんだ……。自分の……こ、恋の矢をだな……一度くらいはビシッっと……。 | |
あはは。やっぱそうきたか……。 | ![]() | |
![]() | でもな、もう気が変わった。お前の和歌のおかげだ。 | |
あ、あれ聞こえてたの? | ![]() | |
![]() | まぁな。私は矢を放つことばかり考えて、じっくりと的を選んでいなかったような気がする……。 | |
……いい人、見つかるといいね。 | ![]() | |
![]() | まぁ、気長に待つさ。 | |
だね。……そんでトミ……ジョゼフィーヌちゃんは何を願うつもりだったの? | ![]() | |
![]() | 当然、この名を変えることですわ。あとこのお鼻をちょっとだけ高く……あ、あと顎を少々……。 | |
それは何というか……とてもジョゼフィーヌちゃんらしいというか……。 | ![]() | |
ミコトたちが和気あいあいと会話を弾ませる中、君はふと背中におどろおどろしい気配を感じる。 | ||
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![]() | そんなどうでもよい願いの為に……私の願いは敗れてしまったと……。こんな阿呆の為に……。 | |
貧乏神のカフク! 私に負けた貴女が今更どんな御用があって? それに阿呆とは失礼ですわ。 | ![]() | |
貧乏神というのは、その名のとおり、とりついた家を貧乏にしちゃう神様なんです。 | ![]() | |
なるほど。これだけ数が多いのだから、そんな神様もいるのだろう……。そんな風に君は思う。 | ||
でも、そんな神様がどうやって800万もご利益ぽいんとを貯めたにゃ? | ![]() | |
そういえば貴女、よく参加できましたわね。 どんなミミッチイ手を使いましたの? | ![]() | |
![]() | フッ……。そんなに知りたい? だったら今一度私と戦えばいいわ! | |
別に知りたくなんて──。 | ![]() | |
![]() | わかったわ。戦うのね。そうだ! 私が勝ったら決勝には私が出ることにしましょう! | |
え! なんでそんな話に……。 | ![]() | |
![]() | 交渉成立ね! では参ります! | |
聞く耳無しにゃ! | ![]() | |
カフクは問答無用で君たちに襲いかかる! | ||
(戦闘終了後) | ||
君の魔法を受けて、カフクは力なくその膝をついた……。 | ||
![]() | クッ……。悔しいい……。こんな……こんな……神に私は……。 | |
さぁ、勝ったんだから訳を話すにゃ! | ![]() | |
そうですよ。カフクさん。約束どおり、何があったのか話して下さい。 | ![]() | |
![]() | わかりました……。 | |
そういってカフクは手のひらを差し出す。 | ||
![]() | それでは、お代をこちらに……。 | |
一文たりとも払うもんですか! 貴女、往生際が悪くってよ。 | ![]() | |
![]() | ……仕方ありませんね……。 | |
そしてカフクは話始める。 | ||
![]() | 私の願いは、ある貧しい家族を、母と娘のふたりきりの家族を……助けることでした。 | |
それは貴女がとりついたから貧しくなったのではありませんこと? | ![]() | |
![]() | いいえ、そうではありません……。私がとり憑くずっと前から、その家は貧しかったのです。 | |
![]() | 全て戦乱の世が悪いのです。戦は家族から畑を、土地を、そして父親を奪いました。 | |
![]() | 私がとりついた時にはもう、ふたりには粗末な家しか残されていなかったのです。 | |
![]() | でもその家は、快く私を迎え入れてくれました。 | |
![]() | 私がどれだけ居ついても、いつも笑顔で、幸せそうに暮らしていました。 | |
だれが信じますか? そんなこと? | ![]() | |
![]() | トミさん、幸せとお金は必ずしも一致しないのです。私の後利益ぽいんとがその証拠です。 | |
![]() | 貧乏神でも神様だからと、ふたりは私に手を合わせてくれたのです。 | |
それで800万もご利益ぽいんとを? | ![]() | |
![]() | はい……慎ましくも幸せな生活をありがとうと。何も望まず、ただ手を合わせてくれたのです。 | |
すごい……。私なんてたった20ぽいんとなのに……。 | ![]() | |
幾千の商人から信仰を集める私でさえ、894万とんで41ぽいんとですのよ? | ![]() | |
母娘だけで800万も貯まるはずありませんわ。騙されませんわ、そんな詐欺みたいな話……。 | ![]() | |
![]() | 確かに普通はありえません。しかしトミさん、あなたは無心の祈りの力を知っていますか? | |
……無心の祈り? | ![]() | |
![]() | はい。人が私欲を捨てて、一心に祈りを捧げる時、そこには詐欺ではなく奇跡が起こるのです。 | |
![]() | 何も求めず……ただ祈る。そんな日々の繰り返しが、800万という奇跡を生んだのです。 | |
カフクの言葉にトミは返す言葉を失う。 | ||
![]() | しかし、そんな幸せな生活はある日終わりを告げました。母親が病に倒れたのです。 | |
![]() | その時、娘は初めて私に願を掛けました。母親の病気を治したいと……。 | |
じゃぁ、カフクさんはその願いを叶えるために喧嘩神輿に……。母親の不治の病を治そうと……。 | ![]() | |
![]() | はい……でも不治の病ではありません。おそらくただの栄養失調でしょう……。 | |
![]() | だから、だから私は……私は……この喧嘩神輿に参加して彼女に何か栄養のあるものを……うう。 | |
カフクは言葉をつまらせて、静かに泣き始めた。 | ||
……ジョゼフィーヌちゃん! お願い、カフクさんを助けて上げて! | ![]() | |
な、なんで私が──。 | ![]() | |
トミちゃん! | ![]() | |
……わかりましたわ。貴女、その家の住所を教えなさいな! 使いの者を向かわせましょう。 | ![]() | |
トミの言葉に、カフクはその泣きはらした顔を上げる。 | ||
![]() | ……と、言われますと? | |
舶来のごちそうと、私秘伝の商い虎の巻もお送りさせていただく、と申しているのです! | ![]() | |
![]() | なななななんと! ありがとう御座います、トミさ……。 | |
その名で呼ばないで! | ![]() | |
![]() | ジョゼフィーヌ様、この御恩は決して……決して忘れません。 | |
カフクは何度も頭を下げながら、君たちの前から去っていった。 | ||
本当にここにはいろんな神様がいるにゃ! | ![]() | |
![]() | 全く! とんだ大損ですわっ! | |
でもなんか、すっごくいい顔してるよ! ジョゼフィーヌちゃん……。 | ![]() | |
![]() | これでお前も一皮むけたな! | |
![]() | ……どうでしょうね? よくわかりませんわ。 | |
それにしても、みんな戦で困ってるんだね……。 | ![]() | |
![]() | ……そういえば、あの変態狐も油揚げを求めて参加していた……。 | |
![]() | 戦のために、だれも供物捧げる余裕がないのだといっていた……。 | |
そうなんだ……。 | ![]() | |
![]() | 皆様、間もなく「喧嘩神輿とうなめんと」決勝戦が行われます! | |
いよいよだにゃ! | ![]() | |
![]() | くれぐれもお気をつけなさいな。あのカタバという戦神、そうとう手強くってよ! | |
トミの言葉にうつむいていたミコトはようやく我にかえり、 | ||
うんっ。気をつける! | ![]() | |
と笑顔をつくる。 | ||
さ、セイとスオウのところへ戻るにゃ! | ![]() |
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