螺旋の胎動
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君とウィズは、ルシエラに抱えられ、天界の空を飛んでいた。 | ||
うわー、こうして見ると、何もなくてつまらないところですねえ。 | ||
自分の故郷をひどい言いようにゃ。 | ||
故郷? ここはそんな良いものじゃありませんよ。 | ||
どうして? と君はルシエラに訊ねた。 | ||
どうしても何も、気づいた頃には、暗くて冷たくて狭い所に閉じ込められていましたから。 | ||
そんなところを、どうやって好きになるんですか? | ||
馬鹿も休み休み言ってください。ふざけたこと言っていると、落としますよ。 | ||
や、やめるにゃ! | ||
君は、閉じ込められていた理由をルシエラに訊いた。 | ||
さあ? 知りません。気にしたことないです。 | ||
なんでもかんでも理由を求めるのは、よくないですよ。 | ||
あなたとその黒猫さんは、何か理由があるから一緒にいるんですか? | ||
だとしたら、つまらない関係ですね。特に理由もないのに、一緒にいるのがステキなんですよ。 | ||
運命で繋がる関係みたいでステキじゃないですか。 | ||
そういうものなのかな? と君は思った。 | ||
そんなことを話していると、大地のいたる所で、岩が溶け出し、沸き立ち始めた。 | ||
その灼熱の沼から、魔族たちが飛び出してくる。 | ||
そして、その場にいる天使たちに見境なく襲いかかった。 | ||
魔族が反撃に出たにゃ……。 | ||
きっとアルさんですね。これは私たちも駆けつけなければいけません。行きますよ。 | ||
そういうものかな? と君が言うと、 | ||
えー、落としますよ。それでいいですかー? いいですよねー? | ||
やめて……、という君の諦めの声を聞くと、ルシエラは天使と魔族たちが戦う戦場へと向かった。 | ||
君たちが、魔族と天使の争いの中を駆け抜けていると、見覚えのある少女を見つけた。 | ||
わ! 敵ですか? | ||
敵ですよ! 悪いことしますよ! ふふふふ。 | ||
あわわわ……。 | ||
何をやってるにゃ……。 | ||
ミカエラと一緒にいた天使の子だね、と君は落ち着かせるように、少女に声をかけた。 | ||
はい。この混乱を収拾しようと思ったのですが、元々非力なもので……。 | ||
上手くいきませんでした。 | ||
まあ、この場合は腕力がモノを言いますからね。 | ||
もうちょっと遠慮しなよ、と君がルシエラを諭していると……。 | ||
その通りだな。 | ||
ミカエラの側にいた、もうひとりの人物。 | ||
いつの間にか、彼を含む数人の兵に君たちは取り囲まれていた。 | ||
マ、マクシエル様。彼女は私たちと同じ天使です。争いはやめて下さい。 | ||
やめないと、ぶっとばしまーす! | ||
え? | ||
台無しにゃ……。 | ||
ふん。ということだ、クリネア。話し合いは終わりだ。 | ||
彼は高々と杖を掲げると、一息にルシエラに向けて振り下ろした。 | ||
キミ! | ||
君は、とっさにルシエラをかばおうと、身を投げ出す。 | ||
しかし、それよりも早く反応した者がいた。 | ||
君の前には見た事がある剣が、地面に突き立てられていた。 | ||
聞こえなかったか? やめなければ、ぶっとばすと言ったはずだ。 | ||
アルドベリク……。 | ||
ルシエラに向けられた一撃は、その直前でアルドベリクの剣によって、阻まれていた。 | ||
覚悟はいいか? | ||
(戦闘終了後) | ||
クッ……。まだだ。 | ||
だが勝負はついていた。 | ||
マクシエルは、君とアルドベリクの前にひざまずき、傷ついた身体を抱いていた。 | ||
すると、彼の前にクリネアが飛び出してくる。 | ||
もう、終わりです。この人は戦えません……。 | ||
君は傍らに立つアルドベリクを見やった。 | ||
抵抗できぬ者をなぶる趣味はない。 | ||
それだけ言って、彼はきびすを返した。君は震えるクリネアに目配せを送る。 | ||
……ふぅ。 | ||
それを見ると、クリネアは安堵の息を漏らし、 | ||
よかったです……。 | ||
緊張の糸が切れたのか、彼女はその場にへたり込んだ。その背後から何かが見えた。 | ||
ぬっ、と現れた鈍い光の軌跡が、君の脇をかすめていく。 | ||
君は咄嗟にローブを振り回し、それを叩き落とそうとした。 | ||
手応えはあった。普通なら叩き落とせただろう……。 | ||
だが、それはローブを突き破り、背後へと吸い込まれていった。 | ||
……ッ! ……な、に? | ||
あうっ……。アルさん……。大丈夫……ですか? | ||
彼女は、なぜか安心したように笑っていた。 | ||
ルシエラ! | ||
アルドベリクへと向けられた刃は阻まれた。ルシエラが身を挺したことによって。 | ||
けれど、君は妙な錯覚をした。その刃は、初めからルシエラに向けられていたのではないか。 | ||
そんな、妙な感覚である。 | ||
しかし、それどころではなかった。 | ||
ぐぁ……! | ||
貴様……。 | ||
マクシエルの胸ぐらを掴み、もう片方の手には魔力が込められていく。 | ||
お、落ち着いてください。 | ||
一瞬、君とクリネアを睨んだ彼の眼は……初めて見るものだった。 | ||
俺は、そこまでお人好しではない。 | ||
よせ! アルドベリク。 | ||
焦げた臭いが辺りに立ち込めた。マクシエルから逸れた火球が地面を焼く臭いだった。 | ||
間一髪、やってきたイザークが我が身を顧みずアルドベリクを制止したのだ。 | ||
アルドベリクの腕を取る、イザークの手もまた焼かれている。 | ||
それでも彼はその手を離さなかった。 | ||
あれは……アルドベリクか? | ||
それは彼を知っている者なら、誰もが口に出した言葉だろう。 | ||
始まったようですね。 | ||
少し遅れて、その場にやってきたミカエラは、そう言った。 | ||
訳のわからんことを言うな。……お前たちは何を知っている。 | ||
イザークはちらりと、ミカエラを見た。 | ||
私たちは……。 | ||
ルシエラがもうすぐ死に、やがてお前もそれを追うように、命を失う。 | ||
そして、あなた達が、それをもう何度も、数えきれないほど、繰り返していることを。 | ||
ミカエラは、確かにそう言った。 | ||
その言葉は、それが持つ通りの意味として、使われていた。 | ||
信じられないことだが、間違いなく。 |
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