日焼け学園長
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旅館の一室。並んで座る三人に、ダンケルは脚本を手渡した。
「疑問があれば、言ってくれたまえ。
こういうものは、事前のすり合わせが大事だからね」
「では」
さっそく手が──もとい、ヒレ状の翼が挙がった。
誇り高きペンギンの王子、リチャードである。
何やら困ったような表情をしている。
「私の『試練』、思いっきり卑劣で気が引けるのだが……」
生徒一同を旅館に案内する過程で不意打ちをかける、という内容である。
王族であるリチャードにとっては抵抗があるのだろう。
ダンケルは、重々しくうなずいた。
「申し訳ないが、心を鬼にしてやってもらいたい。
『敵の卑劣さに屈することなく、仲間を信じて戦い抜く』ための試練なのだからね」
「うーむ……そういうことであれば、承知した。
セリフがやけに邪悪なのが気になるが……」
首をひねりつつ、リチャードは翼を下ろした。
「よろしいか」
武骨な手がスッと挙がる。
狼の武人、ツキカゲである。
真剣かつきまじめな表情をしている。
「俺の『試練』……あまりよくは知らないのだが、
『肝試し』というのは、本当にこういうものなのか?」
「やや拡大解釈ではあるが、間違ってはいないよ。
極限の緊張のなかでこそ、人の肝は鍛えられる。そう思わないかね?」
「ふむ……確かに。戦場に出た経験がある兵と、そうでない兵とでは、
心構えに雲泥の差がある。そういうことだな」
目を閉じ、腕組みをしてうなずくツキカゲ。
隣でリチャードが『絶対違う』とばかりに翼をパタパタ振っているが、気づかない。
「質問は、こんなところかね? トモエ君は──」
ダンケルが視線を向けると、トモエは薄っすらと笑みを浮かべた。
「異存ありませんわ。むしろ、こんなにぬるくてよいのでしょうか」
「彼らはまだ若人なのでね。お手柔らかに頼むよ」
ははは、ほほほ、と笑い合うダンケルとトモエ。
リチャードとツキカゲは顔を見合わせる。
「……この旅館にいると、見聞を広めることはできるのだが、
変な色に染まってしまうのではないかと怖くなってくるな」
「気づいておらぬだけで、もう染まりきっているという可能性もあるぞ」
「おふたりとも、何か?」
トモエの微笑みに、2人は「「いや、何も」」と首を横に振る。
「では、手筈通り頼んだよ、諸君」
言って、ダンケルは闇に吸い込まれるようにして姿を消した。
「さて」
トモエが、リチャードたちに向き直る。
「もう臨海学校まで日がありません。
おふたりには特訓をつけさせていただきます」
「特訓? 武技の訓練は欠かしておらぬぞ」
「いいえ」
トモエは、きっぱりと告げた。
「試練を課す者にふさわしい『凄み』を出すための特訓です」
「…………。はあ」
「さあ、始めますよ! 脚本を手に取って!」
「今からか!?」
──その後。
「さあ、心おきなく泊まっていってくれたまえー。地獄という名の宿になあー」
「ハイだめ感情こもってない! もっと邪悪に! 殺伐と!」
「地獄という名の宿になァッ!!」
「ハイそう! じゃあ次ツキカゲさん!」
「俺はツキカゲ。貴様らの『肝』を試すため雇われた、流れの武士だ」
「ハイだめそれただの説明口調! もっと余韻をつけて!」
「な、流れの武士だ……」
「ハイだめまだちょっと照れ残ってるやり直し!」
女将の猛特訓は、三日三晩続いたという。
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