敵の猛攻

 
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これはドルキマスが所持していた要塞のひとつだという。
卿、その話は聞いているか?
聞いてない、と君は答える。
……そうか。いや、いいんだ。卿が知らないことで不利益が生じることはない。
だがそうだな。卿にも伝えた魔法のことは、他軍へも言っておく必要がありそうだ。
この世界における魔法は、天の使いであるファーウラと同じものだった。
しかし、魔法という過ぎた力に溺れた人々は、人間との争いに変化をもたらした。
魔道艇──今まさに君が乗っているものを、魔法を使う人間たちが作り上げた。
何故、〈イグノビリウム〉が魔道艇を狙うのか、だいたい察しはつくだろう。
魔法こそが〈イグノビリウム〉にとって、最大の敵となる。
お前のそれは、この世界の魔法とは別ものだが、だからこそ彼らは耐性を持たない。
──というのも理由のひとつにある、ということだ。
魔道艇の練習をしていたときに知ったことだが、魔道艇から放たれるものは、
君の魔力を媒介にしている。
"魔力"であればなんでもいいとなると、それは当然〈イグノビリウム〉の脅威となる。
魔法への耐性が極端に低く、何よりただの兵には銃火器も効く。
魔法により操作されている敵艦だけが、そういった兵器を通さないという仕組みだ。
外だけを塗り固めた見せかけと言ってしまえば、卿にもわかりやすいだろう。
だがその見せかけこそが、人間にとって最も越えがたい壁となって立ちはだかっている。
敵艦は全て、ひとりの怪物が作り上げたまやかしに過ぎない。
あれだけの数を、たったひとりでなんて笑い話にもならないにゃ。
現在の人間の科学力では、到底追いつけない代物だ。
人間に打破する術がないわけではないが、強引な手段を使わざるを得ない。
船をぶつけ動きを止めた後で、敵艦に乗り込み白兵戦なんて、冗談にしては度が過ぎている。
その点、卿は"狙われる"こと以外、やりやすいものであろう?
それは、もしかするとルヴァルなりの冗談なのかもしれなかったが、
やはり笑い飛ばすことはできなかった。

(戦闘終了後)



貴君ら、十分な戦果を上げていると聞く。

先の戦いを終え、拠点へと戻った矢先のこと。
何の気まぐれか、ディートリヒが姿を見せ、そんなことを言った。
卿、ここに立ち入ることを許可した覚えはないのだが。
なに、すぐ消える。
短く制したディートリヒが、君の前に立つ。
貴君、魔法の類を使い、戦艦を撃ち落としていると報告を受けているが。
君は首を縦に振った。
魔法で戦えるのなら、今いる仲間たちを守らなければならない、と君は前線に立って戦っていた。
結果として、それが功を奏し、こちらの被害は最小限に抑えられている。
〈イグノビリウム〉の行動は、近くにあるものを踏み潰すような、
いわゆる"ゴリ押し"という戦法も何もないものだった。
しかしだからこそ、その物量を前に押し切られてしまった国が多いと聞く。
卿のところにいるシャルルリエ中将は、"うまく"やっているようだ。
我が軍の中でも最も好戦的であり、最も鼻が利く軍だ。
〈イグノビリウム〉とは過去にも数度、渡し合っている上、何より相性がいい。
己が部下を、まるで駒のように語るのだな、卿は。
…………。
ディートリヒは沈黙で返答する。答えるまでもない、らしい。
……用件は?
ルヴァルもその空気を察したのか、本題を切り出した。
貴君ら、ファーブラに、攻め落としてもらいたい地がある。
ほう。
ひとつ山を越えた先にある、大樹の地だ。
我々が拠点とする場所にほど近い……。
貴君らには、"攻めやすい"場所だ。
〈イグノビリウム〉を海へと逃さないための処置か。
然り。貴君の推察のとおりだ。そして、南下するアレを止める重要な地となる。
……アウルム卿。
ディートリヒ・ベルクの言葉に嘘偽りはない。
そこから海に出られたら、ドルキマスにとって致命傷となりかねない。
ディートリヒルヴァル曰く、敵を海へと逃がさないためにも、
大樹のある場所を奪っておきたいのだと言う。
〈イグノビリウム〉が、山を越え動き出した瞬間に、
ドルキマスの基地がある地を乗っ取られてしまう。
いや……既に一度やられているからこそ、ここを奪い取るのは急務とも言えた。
卿にしては珍しい失態だ。何故、要塞を奪われた?
奪われたのではない。頭の回らぬ〈イグノビリウム〉を囲い込むため、くれてやったのだ。
中にいた兵も少なくないはずだ。貴様、それを考慮に入れていなかったというのか?
無論、撤退命令を出した。餌があれば敵を釣りやすいが、戦力を削られるのは痛手となるからな。
…………。
プルミエディートリヒを睥睨したまま、口を閉ざした。
あとは取り囲んだ〈イグノビリウム〉を我が軍で潰しただけのこと。
貴君が言っていた造船国と資源のある地を抑えたことで、"モノ"に困らなくなったのは重畳。
資源、物資、あるいは戦艦そのものを、量産することができる態勢が整えば、
多少、船が傷ついたところで大きな問題にならない、ということらしい。
以上だ。貴君ら、健闘を祈る。
まるで感情の宿らない冷たい声音で、ディートリヒがそう告げた。
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