思い出の鐘の下で リンカ編
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![]() | 考えてみると、イツキはいつも私の側にいてくれた。 おれはいつからリンカを特別に思うようになったんだろう。 あの日、私たちは初めて生徒会室に集まった。そしてこの学園を守っていくことを誓ったんだ。 そう誓ったリンカの、真っ直ぐで澄みきった瞳を見た時、オレは思ったんだ。リンカの力になりたいって。 今こうして生徒会のみんなといられるのも、イツキが支えてくれたから。 リンカはいつも前だけを見ていた。そんなリンカの横顔をオレはずっと見つめてきた。 イツキのいない生徒会なんて考えられないし、私の横にイツキがいないなんて考えられない。 この生徒会日誌は、オレとリンカの歴史だ。決して揺るがない、ふたりの絆の歴史だ。 |
<思い出の鐘の下で リンカ編>
| イツキはひとり、夕暮れの中庭を歩いていた。 | ||
| 均等に敷き詰められた石畳を進む音が、彼の耳に響いてくる。 | ||
![]() | …………。 | |
| 穏やかな風が頬を撫で上げ、ふと彼は足を止めた。 | ||
| 視線の先には、ツタの這う鐘楼が見える。 | ||
| 深い目的があったわけではないが、イツキはあそこまで歩こう、と思っていた。 | ||
| これから起こるであろう事柄や、これまでのことから目を背けたわけではない。 | ||
| あるいは……。 | ||
| もう二度と見られないかもしれないこと景色を、心に焼きつけておこうと考えたのかもしれない。 | ||
| イツキは小さくかぶりを振って、再び歩き出した。 | ||
| 立ち止まり鐘楼を見上げたイツキは、大きく息を吐いた。 | ||
| 百年の歴史を持つクロム・マグナ魔道学園を、静かに見守り続けてきた鐘だ。 | ||
| どこか古びた風情でありながら、力強く立つそれを見るイツキ。 | ||
| そんなとき、ふと彼の背後から足音が聞こえてきた。 | ||
![]() | ……誰だ? | |
| イツキは振り返り、足音の主を確認する。 | ||
| そこにいたのは──。 | ||
| あら。 | ![]() | |
![]() | ……リンカ。 | |
| イツキもここに来ていたのね。 | ![]() | |
![]() | あ、ああ……。 | |
| 思いがけない相手に、ついしどろもどろになるイツキ。 | ||
| そんな表情を見られたくなくて、彼は顔を伏せた。 | ||
| どうしたの? | ![]() | |
![]() | い、いや……なんでもない……っ! | |
| 近づいてきたリンカに向かって、イツキは何度も手を振る。 | ||
| 私は……うーん、どうしてかしら。なんていえばいいのかわからないけど……。 | ![]() | |
| ……気づいたらここに。 | ![]() | |
![]() | ははっ、なんだよそれ。らしくないぜ。 | |
| 平静を取り繕うかのように、イツキは軽口を叩いてみせる。 | ||
| らしくない、か。 | ![]() | |
| 対して、リンカはひとりごとのようにそう呟くだけ。 | ||
![]() | でも俺も……似たようなものかな。何となく鐘楼が見えて、何となくそこまで歩こうと思って。 | |
| ……そう。 | ![]() | |
![]() | ああ……。 | |
| 互いに何故か目を合わせず、短く返しただけ。 | ||
| 気まずい、とイツキは思った。空気が悪いわけではないのに、どうしてこんなことに……。 | ||
![]() | ……それにしても眩しいな。 | |
| ええ、何故だか……すごく久しぶりに夕日を見た気がするわ。 | ![]() | |
| その言葉につられ、イツキは空を見上げた。 | ||
| 真っ赤に染まる空と、静かに流れる雲。 | ||
![]() | 向こうは穏やかそうだな。 | |
| ……ええ。 | ![]() | |
![]() | 俺たちも……あんな時間に戻れるのかな。 | |
| どうかしら。 | ![]() | |
| ──その言葉が耳に届いた瞬間、 | ||
| イツキの背に、やわからな重みが加わった。 | ||
![]() | ||
| …………。 | ||
| それがリンカの背中だったと気づくまで、少し時間を要した。 | ||
| またみんなでワイワイやりたいな。 | ||
| そうね。そんな時間もいいかもしれないわ。 | ||
| 何を言えばいいのかわからなくなって、イツキはまた口を閉ざしてしまう。 | ||
| 気の利いた台詞も思い浮かばず、ただ空を見上げるばかり。 | ||
| イツキの背中、意外と広いのね。 | ||
| まあ……男だからな。 | ||
| リンカよりは、デカくて当然さ。 | ||
| リンカの息遣いが聞こえてきて、イツキは次第に緊張を強めていく。 | ||
| しかしそれ以上に強い感情が芽生えていた。 | ||
| ずっと見続けてきた人が、いま自分に背を預けてくれている事実……。 | ||
| 大丈夫だ。俺たちなら絶対にやれる。 | ||
| ええ。 | ||
| この人を守りたいと、この人に並び立ちたいと願っていた。 | ||
| 必ず守りぬくんだという意思が、いま再び強く宿る。 | ||
| ……っと、集合の合図だ。行こうぜ、リンカ。 | ||
| そうね。 | ||
| 絶対にやり遂げる。俺たちの学園のために──。 | ||
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