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「はあっ!?」
昼下がりの街並みに、ジョージの驚きの声が響く。
クロム・マグナ魔道学園が設立された永世中立年にほど近い、とある商業都市。
その一画にある、洒落たカフェのオープンテラス。
そこでジョージは、妹のエミリアと向かい合っていた。
「ほ、本当か、エミリア!?」
「うん、ホントだよ」
オレンジジュースのコップを両手でつかみ、
こくこくと飲んでから、エミリアはうなずく。
「ほら、これ」
カバンから取り出される、一通の封書。
そこには『クロム・マグナ魔道学園 臨海学校へのお誘い』と記載されていた。
「なんで、姉妹校にいるおまえにこれが……」
「番長オブザ番長だから特別待遇なんだって」
にこにこと告げるエミリアに、ジョージは情けない顔になる。
『番長オブザ番長決定戦』──
ジョージは、そこで優勝し、学園の番長になろうとしていた。
しかし、ライバルであるヴォルフとの激闘の末に敗れ、負けを認めた次の瞬間──
兄がいじめられていると勘違いして割り込んできたエミリアが、
ボロボロのヴォルフを一撃で沈め、番長オブザ番長になってしまったのだ。
以来、『番長オブザ番長の視察』ということで、
彼女はたびたびクロム・マグナを訪れている。
天使のように愛くるしい番長の来訪を、
学園中の生徒たちは諸手を挙げて歓迎していた。
クロム・マグナの校風は文武両道。
生徒たちには授業として戦闘訓練が課されるし、
ジョージのようにケンカに明け暮れる不良も多い。
だから、平和な姉妹校に通っているエミリアを
クロム・マグナに近づけたくはなかったのだが……
「ね、お兄ちゃん。臨海学校って、どんなことするのかな?
海とか行くんだよね! 海!」
目をきらきらさせるエミリアを見ていると、
『もうクロム・マグナには来るな』とか
『臨海学校に行くのはやめておけ』などと言えるものではない。
「お兄ちゃんにも、お誘い来てる?」
「ま、まあな」
「やったぁ! じゃあ、いっしょに行けるね!」
「あ、ああ……」
正直、『臨海学校』とやらには嫌な予感しかしない。
なにしろ、あの学園長の発案なのだ。
番長オブザ番長決定戦のときのように、
また何かやらかすのではないかと心配になる。
自分1人なら、どんな戦いも受けて立つところだが、エミリアが来るとなると……
「お兄ちゃん? どうしたの?」
ふと考えに沈んでいると、エミリアが心配そうにのぞき込んできた。
「ひょっとして──臨海学校、行くのイヤだった?」
「そ、そんなことはないぞ!」ジョージはあわてて明るい声で答えた。
「楽しみで仕方ないくらいだ! エミリアと遊びに行くのは久しぶりだしな!」
「そう? よかった!」
春の花々が咲き誇るような愛らしい笑顔を浮かべるエミリア。
ジョージも、ぎこちなく微笑み返す。
(ええい、何が来ようと構うものか。オレがエミリアを守ればいいだけだ!)
「臨海学校ね、旅館に泊まれるらしいんだけど、
近くでお祭りをやるときは浴衣を貸し出してくれるんだって!
この日程なら、三日目の夜にはお祭りに行けるかも!
ねえ、お兄ちゃん、浴衣って着たことある? わたし、初めてなんだ!」
エミリアが大いにはしゃぐ一方で、ジョージはひそかに決意を固めていた。
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