パニーラ

妖精界からやってきた
背丈より長いピンクの三つ編みと、大きな帽子が特徴の小さな女の子

みんなの恋が実ることが彼女の楽しみ

みんなの恋が実らないことが彼女の苦しみ

どんなに悪いやつでも、どんなに孤独な人でも恋はする
気持ちを伝えずに終わる恋なんてもったいない
素直に気持ちを伝えないと意味がない

恋は魔法。

「で、誰がすきなの？」

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――妖精界にある小さなお家。
そのキッチンからシャカシャカと何かを掻き混ぜる音が聞こえてきます。

“妖精界のキューピッド”ことパニーラ・アモーが、必死にチョコを練っている音です。
リボンの付いた洋服と大きな帽子は、この日のために新調したものでしょうか。
そんな服を着るには理由があります。
だってこの日の甘～いイベントは、彼女が一年でいちばん大切にしている日なんですから。

パニーラにとって、みんなの恋が実ること。それが何よりも幸せを感じることなのです。

「みんな、私のこと待っててくれるんだから頑張らなきゃ！」

指先でチョコをすくって味見をしてみます。

「うん、イイ感じ♪」

チョコが頬っぺたに付いているのも気にも留めず、
一生懸命美味しいものをつくろうと“調合”しています。

でも、他人思いの可愛い彼女にも、一つだけ困ったことがありました。
これは内緒なのですが――パニーラは、ものすごーい味覚音痴だったのです。
本人はそのことにまったく気づいていません。

「もっと砂糖を加えたほうがいいかしら？　それとも塩？
　ミントのフレーバーも美味しそう。やっぱりイチゴソースも捨てがたいなあ……」

手当たり次第に調味料を取っては振りかけています。
こんなことで、美味しいチョコレートはできるのでしょうか？

結局、朝方までかかって、パニーラは想いのいーっぱい詰まった
ハート形のチョコレートを“たくさん”完成させました。

「さてと、あとはこれをみんなに配るだけね」

魔法によって、恋に落ちる効果があることは間違いないのですが、
果たしてどうなることやら……。
みんなの「想い」と「期待」に応えるため腕によりをかけて作ったチョコレートが、
空を舞い、恋する人々のもとへと届けられました。

そして数日後……。
彼女のもとには全国からたくさんの手紙が舞い込みました。
そこには、「大好きなあの人に振り向いてもらえました」という
感謝の言葉が書かれています。
それと他にも――意外なことに――その中には、

「とっても美味しかったです。レシピ教えてください」

という味についての評判もたくさん書かれていたのです！

「あれ？　今年は美味しいって評判、やけに多いなあ……」

彼女自身も首をひねっています。
いったいどういうことでしょう？

「そういえば味見するの忘れてた。　どれどれ？」

手元にちょっとだけ残ったチョコレートを、パニーラは味わってみました。
すると……。

「ぎゃ、マズっ！　失敗作配っちゃった！」

彼女が美味しくないと感じるということは……。
そうです。今年は、奇跡的にも味のいいチョコレートが出来上がっていたのです！
でも、これはたまたまマグレでいい風味に仕上がっただけで……。
さて来年はどうなることでしょう？

もし美味しくなくても、その時は勘弁してくださいね。
だって、味はともかく、“恋が成就する”ということはお墨付きなのですから。

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