酒飲み教師
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クロム・マグナ魔道学園で一定の年齢に達した生徒は、
魔力の特性に応じたクラスに割り振られる。
炎の魔力に適性を持つ生徒が集まる『イグニーマ』では、
炎の制御に関する授業が行われていた。
「そうじゃねぇって言ってるだろうが!!」
教室に、太い怒鳴り声が響く。
大柄な体格に燃えるような覇気を宿した男子生徒──ジョージのものだ。
彼は、机に置かれた大きなガラス球を挟んで、別の生徒と向かい合っている。
ガラス球のなかに生じさせた炎の形を、2人で変化させるという訓練なのだが──
「貴様のやり方は手ぬるすぎる!
ここはこう……もっとアレでドバーッとするのがいいんじゃねえか!
ああ!?」
「わかんねぇよ」
向かいの生徒──ヴォルフは、投げやりに答えた。
ジョージより細身だが、背の高さでは劣っていない。
また、鷹のごとく鋭い眼差しが峻烈なまでの威圧感を放っている。
「お題は『ペンギン』だろ。あの愛くるしい見た目を的確に再現するには──」
「それではインパクトが足りん!
もっとこう、ズバーンと、ズバババシューンという方がだな──」
たちまち言い争いを始めるふたりに、別の席にいた少女──リンカが立ち上がる。
「ヴォルフ、ジョージ。それじゃ、いつまで経っても終わらないわ。
妥協案として……そうね、ヴォルフが右半身、ジョージが左半身を作って、
後で合体させるのがいいんじゃないかしら」
「「いいわけねぇだろ!?」」
なおも2人が言い争いを続けていると──
「うるさいわねえ」
ズドンッ、という重い音が、その争論をたちどころに粉砕した。
ぎょっとした生徒たちの視線が、教壇に集中する。
教壇の上には、1人の女が座っていた。
髪をかきあげ、眼鏡の奥から教室を見渡している。
手には酒瓶。
先ほどの音は、この酒瓶を教壇に置いた音だったのだ。
彼女はサロメ。
このクラスの担任教師である。
「課題は黙ってこなしな、おふたりさん。静かに酒が飲めないだろ」
「教師が授業中に酒を飲むなよ……」
「細かいこと気にしてんじゃないよ。それだからケンカになるんだ。
ちったあ相手を受け入れる度量ってもんを身につけな」
「あんたなぁ……」
言いつつ、ぐびりと酒瓶をあおるサロメに、ヴォルフもジョージも毒気を抜かれて肩を落とした。
放課後。
生徒たちが去った『イグニーマ』の教室で、夕焼けを眺めながら
酒瓶をあおっていたサロメは、ふと、背後の気配に気づく。
「入り口から入ってきなよ、学園長」
「失敬。この方が手っ取り早いのでね」
サロメの後ろの空間に突如として出現した学園長──ダンケルが笑う。
「例の件──あれからどうかね、サロメ君」
「さっぱりさ」サロメは肩をすくめた。
「あんたの言う謎の魔道士……なかなか情報が集められない」
「そうか……引き続き、調査を頼めるかな?」
「ああ。あたしは臨海学校には参加しないからね。余裕はある」
「では、頼んだよ。サロメ君」
学園長の気配が消失する。
サロメは、また、ぐいと酒瓶をあおった。
(頼まれるまでもないさ……)
この学園を──そして、自分の生徒を苦境に陥れた相手だ。
(とっとと見つけて、『教育』してやらないとね──)
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