研究者と寡黙な男

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……。

またあの女性だ。
まるで親しい人に向けるような優しい笑顔を浮かべて、君を見ている。
でも、君にはその笑顔が──
今にも泣き出しそうな、とても悲しい顔に見えてしまった。

キミ……。キミ、起きるにゃ。

ウィズに身体を揺さぶられて、君は目を覚ます。
もうすっかり夜になったにゃ。そろそろ出発するにゃ。
どうやら夜を待っている間に眠ってしまったらしい。
ファムたちは? と君はウィズに尋ねる。
フモーフちゃん、みんな眠っちゃいましたね。
フモーフたちは、夜に弱いんです。
起きてる時は怖くて触れませんでしたが、今ならモフモフし放題ですね。モフモフ……。
もう片方の調香師、ナルナリグスのコンビは、先に出発したのか──
どこにも姿は見当たらなかった。
ここは、地元の人たちには「女神の涙痕」と呼ばれている場所です。
ロニールは、持っている本をめくりながら話を続ける。
今夜はちょうど満月だった。
月は、本を読むのにちょうどいい明るさを与えてくれる。
自分の死期を悟った女神が残される者を思って流した涙が溜まって、この場所ができたそうです。
塩の湖面に夜空が反射している様は、この世のものとは思えないほど美しかった。
そんなことよりも、月輪花を探しにいこうにゃ。早くしないとナルナたちに取られてしまうにゃ。
その心配はありませんよ。だってほら……。
うーん、むにゃにゃ。
……寝てるにゃ!?
ファムが指差した場所には、ナルナとリグズが仲良く並んで眠っていた。
私がご馳走した「安眠できるハーブディー」を口にした直後、こてんと眠ってしまいました。
結局、盛ったのかにゃ!?
そんな! 私は、お茶をご馳走しただけです。
とても気分が落ち着くお茶なので、ナルナさんたちにも飲んでもらいたかったのです。
ファムは、純粋にナルナたちにお茶を振る舞っただけだ。
ただ、少しだけ配慮が足りなかった……。
ファムに悪意がないだけに、眠らされたナルナたちが可哀想に思えた。
他人のことは放っておいて、出発しましょうよ。
今日は、とても綺麗な月が出ていますね。きっと月輪花は、いつもより輝いていることでしょう。
あ、魔法使いさん。あそこに見える光り輝く物はなんでしょうか?
気になるにゃ。行ってみるにゃ!
出発しようとした君たち。
しかし、騒ぎすぎたせいで、ナルナたちが目を覚ましてしまった。
は? いつの間に眠ってしまったの? 確かファムからお茶をもらって……。
まずいにゃ。目を覚ましてしまったにゃ。
……うっ。まだ頭が重い。貴様ら、やはり毒を盛ったな?
お姉さまから、初めて会う人には、あのお茶を振る舞いなさいと言われてましたので……。
つまり、フェルチが黒幕にゃ。
卑怯な奴! あなたみたいな調香師には、絶対負けたくないっ。
行こうリグス、ハンターとしてのあなたの力を借りたいの!
もちろんだ。マテリアルハンターの名誉にかけて、月輪花は必ず手にいれてみせる!
こっちも負けるつもりはない。
君たちも、出発することにした。


湖の中央辺りで、まばゆい光を放つ物体を発見した。
おそらく、あれが奇跡の香水の素材となる月輪花だ。
君たちは、ナルナリグスのあとを追うように走り出す。
ところで、ひとつ気になることがあるにゃ。
君の肩に乗ったウィズが、ロニールに尋ねる。
奇跡の香水のレシピを写して、巷に流したと言ったにゃ? どうしてそんなことをしたにゃ?
簡単ですよ。奇跡の香水が欲しかったからです。でも僕は、調香師じゃない。
だから、レシピを広めれば、調香師の誰かが作ってくれると思って……。
つまり今は、ロニールの狙い通りに物事が動いているというわけだ。
ロニールさんは、どうして奇跡の香水が欲しいんですか?
奇跡の香水には、昔の記憶を蘇らせる効果があるんでしょ?
覚えたことを忘れても、その香水があればすぐに思い出せる──
そんな便利な香水、僕みたいな研究者に限らず、誰でも欲しがると思いますよ。
そのとおりかもしれない、と君は思った。
それに、そんな香水が本当にあるのか、実際に確かめてみたいですしね。
これまで数百枚のレシピを各都市にばらまきましたけど、作り出せた人はまだ誰もいません。
それほど製作難易度が高い香水ということだ。
話している間に、君たちは先を行っていたはずのナルナたちに追いついた。
どうしたんでしょう?
ナルナリグスが、何でもないところで立ち止まっている。
まさか、私たちを待っててくれたのでしょうか?
そんなわけないにゃ! 見るにゃ!


がるるるる……っ!

こいつ、私たちの邪魔するつもりみたいね。
人型の狼か……。こんな凶暴な魔物が、こんなところにいるとはな。
リグスは、変わった形の銃を抜いて、変わった形の弾丸を装填する。
通せんぼされてただけみたいにゃ。キミ、ここはナルナたちに手を貸すにゃ。
もちろん、と君はうなずく。
あの魔物をなんとかしない限り、ここから先に進めそうにない。
どうして……どうして、そんな目で俺を見るんだよ?
なにか言ってるわ……。人の言葉がしゃべれるみたい。
言葉が喋れるということは、魔物ではないのか?
けっ、お前ら普通の人間はいいよな? 他人から変な目で見られなくてよぉ!
こんな身体に生まれてきた俺の悲しみを、少しは思い知れってんだ!
来るにゃ!
この月は俺のものだ! 誰にも渡さねぇ!

(戦闘終了後)

君たちは、リグスたちと力を併せて狼男を撃破した。
やったかにゃ!?
がるるるる……。くうううん……。
い……いてぇよお。いてぇ……。こんなのはもういやだよぉ……。
狼男──ガウローンは、湖面に反射した満月の光めがけて突進していく。
うおおお! 月よ、俺を人間に戻してくれ! もう、人に嫌われて生きるのはいやだ!
まさか、人間になりたかったのかにゃ?
当然だ。俺がこんな容姿じゃなかったら、お前たちも俺を怖がったりしないはずだろ?
君は、そんなことないと首を振る。
だが、ガウローンは信じない。
月って場所に辿り着けば、人に戻れると誰かが言ってた。だから、早く辿り着きたいのに……。
この月に乗ってもなにも変わらねぇ! きっと俺はだまされてたんだ! 畜生!
泣きながら崩れ落ちる。
見た目に反して、可哀想な人だったんですね。あの……ひとつ、いいこと教えてあげます。
あなたが乗ったそれは、湖面に反射した影に過ぎません。本物の月は、あそこにあるんですよ。
と、ロニールは夜空に輝く満月を指差す。


そ……そうなのか。でも、あんな高いところには行けねぇよ……。

ガウローンは、湖面に映っている満月に手を触れた。
俺には、こいつをつかむので精一杯だ。これで満足するしかねぇようだ、くそう……。
肩を落として湖面にうずくまる。
でも、吠えなきゃ、怖がる人は減ると思います。吠えるのを我慢できませんか?
うむむ……そいつは、難しい。でも、人間には嫌われたくないからな。やってみるよ。
ファムに慰められたガウローンは、少しだけ元気を取り戻したようだ。
そうにゃ! 月輪花はどうなったにゃ?
ナルナさんたちが、今向かってますね。
他人事のように言わないでください! 先に取られちゃまずいですよ。
でも、月輪花はあんなに咲いてます。急ぐこともないですよ。
その花は──。
塩湖の上で、満月の光をいっぱいに浴びて咲き誇っていた。
綺麗です。月輪花……名前の通り、月に負けないぐらいの光を放ってますね。
月輪花は、満月の日にだけ、こうして咲き誇ると言われてます。
今日が、偶然満月でよかったですね?
まんげつ……? よくわかりませんが、凄い偶然ですね!
夜を知らなかったファムには、満月と言われてもなんのことだか、わからないだろう。
本当に単なる偶然なのだろうか?
ひょっとして、誰かがこうなるように仕向けたのでは……。
いや、考えすぎだなと君は頭を振った。
これで、素材を一つ手に入れたにゃ!
これだけ大量に咲いてるなら、他の調香師もすでに月輪花を手に入れたのかもしれない……。
リグス、次の素材を探しに行こう! ……リグス、どうしたの?
敵の存在に気づいたように……リグスは大きな銃を構えていた。
しかし、ガウローンは、もう戦意を喪失している。
敵は彼じゃない──。
君は、まったく別の地点から放たれる殺気を感じ取った。
ナルナ、伏せろ!
きゃあっ!
突然の轟音。
立ち込める煙の中から現れたのは……。


狼男を退治したか? やっと魔物ハンターに戻る気になったようだな? リグス──。

貴様……エリーク。こんなとろこまでつけてきたのか?
だ、誰にゃ?
どうやら、リグスの知り合いのようだが……。
エリークと呼ばれた男が発する殺気は、ただ事じゃなかった。
あの狼男は、素材採集の邪魔をした。だから、やむなく戦っただけだ──
過去の自分に戻ったつもりはない。
戯れ言を! 心まで闇に染まりし貴様は、決して輝きの中では、生きられないのだ……。
呪詛のようにつぶやくエリークリグスを睨む瞳は、暗く濁っている。
勝手なことを言うな。そこをどけ、どかないと……。
リグスは、エリークに銃口を向けた。
君は、両者が所持している銃が似た形をしていることに気づいた。
ま……魔法使いさん。こういうときはどうしたらいいのでしょうか?
下手に動かない方がいいにゃ。
貴様……かつての半身をここで灰に帰すつもりか!? だが、俺は永劫の存在──
死の先にある静寂と茫漠たる世界への導き手となるのは、俺の方だ!
エリークも銃を構える。
しかし、その前にリグスが引き金を引いていた。
撃った……。
だが、エリークは傷一つついていない。
その代わり……。
か……辛い! それにくしゃみが……へくしょん!
これは、赤い悪魔と呼ばれるレッドペッパーを使ったマテリアル弾か……へくちっ!!
俺は、人や魔物を傷つけるのをやめたんだ。過去とは決別した……もう放っておいてくれ。
リグスエリークに背中を向けて歩き出す。
ま、待て! 辛っ! 貴様こんなことで済むと……へ、へくちっ!
唐辛子パウダーに苦しむエリーク
キミ、今のうちに立ち去るにゃ。
君は、そうだねとうなずいて歩き出す。
まて……俺は、これでは終わらんぞ……辛っ!? 絶対に追い詰めて……くそう、目が痛い!
水で洗うしかない……って、ここは塩の湖だった!? いっててててぇ!?
ずいぶん、賑やかな人ですね。
ほっとこうにゃ。

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