永劫と無限の終わり
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アルドベリク、このあたりにあなたの捨てたものがあるかもしれないね。 | ||
少し気になっていたんだけど、アルドベリクはなぜそんなことをしたにゃ。 | ||
そんなこと、俺が知るかよ。バカの考えることが分かるわけ無いだろ。 | ||
ぞんざいにそう答えたレイフェルの襟首を、アルドベリクが掴み上げた。 | ||
イタタ。乱暴は反対ですよ! | ||
まったく。都合のいい性格だな。 | ||
何かが聞こえた。 | ||
ちょ、ちょっとお、まーた掃除当番さぼって、アンタいったい何様のつもり? うるせえな。お前こそ、俺の、何様なんだよ。 な、何様って……馬鹿じゃないの!? | ||
何の声にゃ? | ||
その声は、アルドベリクとルシエラの声に少し似ていた。 | ||
アンタかい。俺に仕事を頼みたいってのは、ずいぶん高貴な身分なようで。 無暗に近づくな。貴様に頼みたいのは、仕事だけだ。 それが終われば、どこへでも失せろ。 まあ、いいさ。俺だって金以外には興味はない。 | ||
また、別の声が聞こえた。古い記憶のようにその声は君の耳に届いた。 | ||
んー。これは多分……。 | ||
何か、言い訳はしないのですか? 我が父の敵として、このまま斬られるつもりですか。 ないよ。 なら、私の許嫁だった男としては、なにか……。 どうか、お幸せに……。 | ||
多分これは、これまでアルドベリクとルシエラが繰り返してきた〈可能性〉の声だろうね。 | ||
おめえらは、こんなことをずっと繰り返してきたんだよ。そのたびに、悲惨な末路にたどり着く。 | ||
とっても哀れな存在だよ。失礼な言い方だけど。 | ||
突然、身の毛もよだつような声が、君の背筋を刺した。 | ||
うぁぁぁぁ……! ああ……ああああああ! | ||
その声を聞いて、誰もが顔をしかめた。 | ||
もしかすると、最初の〈可能性〉の声かも。きっと〈とても良くないこと〉があったんだろう。 | ||
よくいるだろ。一番最初に貧乏くじをひく奴がさ。 | ||
だから、おめえらは自分たちの運命を閉じた。 | ||
そして永遠に終わらない関係を得たんだ。最悪の結果から永遠に逃れ続ける関係だ。 | ||
それを幸せだと思う人もいるだろうね。 | ||
本当に、それを終わらせてしまって、後悔しないかい? | ||
沈黙の後、アルドベリクは口を開いた。 | ||
もし目の前で苦しんでいるあいつの為に、何もしようとしないのが、以前の俺だったのなら。 | ||
俺はそいつを殴りに行く。……それだけだ。 | ||
永遠に終わらないもの、それはまるでまがい物だ、と君は思った。 | ||
終わりがあるから、終わらせないでいようと思える。と君はアルドベリクの言葉に付け加えた。 | ||
そうにゃ! | ||
へっ! かっこつけやがって。 | ||
俺はそこまでお人好しではない……。 | ||
こいつは? | ||
その化け物は激しい魔力と、憎悪の感情を撒き散らしていた。 | ||
あらゆる〈可能性〉の中で、最強で、最悪の、あなたです。 | ||
最低の選択を、全部やってみたら出来た奴だな。 | ||
普通に考えれば、あなたが勝てるわけないんだよ。どうする? | ||
それは、どこかの異界から、お人好しの魔法使いがやってこなかった場合じゃないかにゃ? | ||
ケッ。ずりぃの。ま、今回はいいけどさ。 | ||
いいのか? | ||
と、君に向かってアルドベリクは言った。君はただ……。 | ||
もちろん、と答えた。 | ||
お前は、俺以上のお人好しだな。 | ||
そう言って、アルドベリクは少し笑った後、鋭い視線を目の前の化け物に向けた。 | ||
遠慮はいらないだろう。お前は、俺なんだからな。 | ||
(戦闘終了後) | ||
やったにゃ! | ||
その化け物を倒すと、〈回廊〉は世界を閉ざすように、暗闇に呑まれた。 | ||
いやー、めでてー。めでてーな。でもよ。 | ||
勘違いしないでね。これはただの始まりだよ。永遠に終わらない関係の方が良かった。 | ||
そう思う時もきっとあるはずだけど……。 | ||
ああ、そんなものには、もう頼らない。 | ||
当たり前だ! さて、魔法使い! お前達がここにいる〈可能性〉ももう終わりだ。 | ||
とっとと失せやがれ、だよ。 | ||
アルドベリクが神界の神殿に戻った時、 | ||
青ざめた顔だったはずのルシエラが何事も無かったように、神殿の中を飛び回っていた。 | ||
その光景は、何かが変わったことを、彼に教えてくれた。 | ||
あ、アルさん! もー、一体どこに行っていたんですか? | ||
目が覚めたとき、いなかったから置いていかれたのかと、思っちゃいましたよ。 | ||
これからは勝手に出て行くのは禁止ですよ。あと、私を置いていくのも、もちろん禁止です。 | ||
ああ。 | ||
あれ? なんか素直ですね、今日は。 | ||
ああ。 | ||
ふふふ。ならもっと近くに来てください。 | ||
ああ。わかった。 | ||
もっとです。……もっと近くです……。そうです。それでいいですよ。 | ||
……ところで、今まで、一体どこで何をしていたんですか? | ||
アルドベリクは少し微笑んでから、答えた。 | ||
……内緒だ。 ああ、ずるいー! それは私の得意技ですよ。返して。返してくださーい! | ||
どうしたにゃ? | ||
君は、自分のローブに空いた大きな穴から手を出してみた。 | ||
もうそれは買い換えなきゃいけないにゃ。やれやれ、出費が増えるにゃ。 | ||
君がローブを払うと、一枚の羽が落ちた。 | ||
きっとアルドベリクの羽にゃ。せっかくだから、何かの記念にするにゃ。 | ||
君は、栞にでもしようか、と考えながら、窓辺に歩いていく。 | ||
窓辺に、もう一枚。今度は真っ白な羽が落ちていることに気づいた。 | ||
君はその羽根を手に取ると、二枚を揃えて、読みかけの魔道書に挟んだ。 |
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