| 変えられぬが故にそれを曲げようという望みはとても大きなものになる。 | |
| 自然、欲の上に欲が絡みあうようなことも多い。 | |
| お前がリセルか。 |  |
| 青年の呼び声に応じて、闇の帳の後ろからひとりの女性が姿を現した。 | |
 | そう……。お前が依頼者のディールか。 | |
| 彼女のまとう衣を見れば、彼女と青年の間に文化的な断裂がある。 | |
| そんなことは容易に見て取れた。 | |
 | 本当によいのか……。 | |
| 構わない。妹を奪った世界など信じる気にならない。 |  |
| それは信仰するものも違うということを意味している。 | |
| 一方から見れば、異なる信仰は外法とも言い得る。 | |
| だが外法と呼ばれる方法も、信仰を失った者からすればひとつの方法に過ぎない。 | |
| 外に出てしまえば、それはもはや外とは言えないのだ。 | |
 | 多くは問うまい。あとはその娘が決めることだ。 | |
| そう言って、彼女は胸の前に両手を持っていった。 | |
| まるで小さな何かを抱くような手の形である。 | |
| ぼんやりと淡く光る玉が彼女の周りに飛び交った。 | |
 | では潜る。暗く深い地へ。 | |
| 彼女は歩を進めると……。 | |
| 周囲の景色は一変し、全ての色彩が失われた黒の世界に様変わりした。 | |
| もう一歩踏み出すと……。 | |
 | む……。 | |
| 匂いの世界が失われる。次の一歩では……。 | |
| 音の世界。その次は……。 | |
| 味覚だろうか? 歩を進めるごとにひとつずつ体の感覚が冷たい手によって奪われてゆく。 | |
| 一枚一枚、衣をなめらかにはぎ取る様に……。 | |
| やがて皮膚の感覚すら奪われ、自分が今どこにいるかも定かではなくなる。 | |
| 無。あるいは死。と呼べばいいのだろうか。 | |
| だが……。彼女は冷たい手によってはぎ取られた衣を一枚ずつ取り戻す。 | |
| それが彼女を特別たらしめている所以。 | |
| ある人々には外法と蔑まれる力。 | |
 | 時間はない。早く娘に会わねば。 | |