荒ぶる剣刃、凍れる瞳
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優雅なる都市を、異形の影が駆け抜ける。 | ||
〈ロストメア〉──いつか誰かが抱いて捨てた、〈見果てぬ夢〉の、その化身。 | ||
大通りを疾走するその姿に、人々はあわてて道を開け、逃げ出していく。 | ||
そんななか、屋根を駆け抜け、異形の化生を追う影ふたつ。 | ||
逃がすなッ、ルリアゲハッ! | ||
合点承知の助ってね! | ||
ていうか、あの子は!? いっしょじゃないの!? | ||
先発した! 今は”狩場”で待ってる! | ||
つまり、あたしたちって、獲物を”狩場”に追い込む猟犬!?聞いてないんだけど! | ||
説明を聞く前に飛び出すから! | ||
〈ロストメア〉が大通りから橋に出ようとする。 | ||
瞬間、ふたりは同時に屋根を蹴った。 | ||
リフィルを抱いた骨骸の人形が、街路に並ぶガス灯のひとつに着地しながら、片手で印を結ぶ。 | ||
刻め雷陣、果てどなく! | ||
橋の手前に小さな魔法陣の群れが浮かび上がるや、そこから鎖状の雷条が放たれ、異形に殺到した。 | ||
妖しの動きで雷鎖をかわす〈ロストメア〉──そこにルリアゲハが落下してゆい。 | ||
あいにくそっちは通行止めよ! | ||
〈堕ち星〉の名のままに、降り落ちながら銃撃。〈ロストメア〉はあわてて身をひるがえす。 | ||
細い路地へと逃げ込む〈ロストメア〉。リフィルたちは地面に降り立ち、後を追う。 | ||
路地のなかほどまで進んだあたりで、〈ロストメア〉がぎょっとしたように足を止めた。 | ||
行く先に、ひとりの少女が佇んでいる。 小さな背に、無数の剣を負った少女が。 決然と。 | ||
…………。 | ||
行く手を遮られた〈ロストメア〉は、怒りに任せて牙を剥き、少女へと躍りかかる。 | ||
対して少女は、冷たい瞳で呼ばわった。 | ||
敵を断つべき剣の名を。 | ||
ブロードソード──カットラス! | ||
片手剣と曲刀が背中の鞘から滑り落ちた──と見えた刹那、ふたつの銀弧が閃いていた。 | ||
距離。呼吸。技量。すべてにおいて申し分ない、流麗きわまる瞬刻の抜き打ちが迫る〈ロストメア〉を真っ向から斬り伏せる。 | ||
悲鳴を上げて、後ろに下がる〈ロストメア〉。少女は、すっと細い手を上げ、冷徹に唇を開く。 | ||
──クレイモア! | ||
路地に隠されていた7本の両手剣が即応──異形の後退した先、まさにその足元から、怒濤の勢いで跳ね上がり、串刺しにした。 | ||
7つの刃で刺し貫かれた〈ロストメア〉が、直後、びくりと動きを止めた。 | ||
眼前──右手に細剣を抜き放った少女が、その切っ先を異形に差し向け、すう、と双眸を細めていた。 | ||
──レイピア。 | ||
小さなてのひらから放たれた魔力が、細剣を矢のごとく走らせ、〈ロストメア〉を貫く。 | ||
なすすべもなく全身に刃を埋め込まれた〈ロストメア〉は、ぐずぐずと溶け消えていく……。 | ||
……コピシュ。 | ||
ルリアゲハとともに追いついたリフィルが、静かに少女の名を呼んだ。 | ||
勝ちました。 | ||
冷たく凍える瞳で答え、少女は軽く腕を振る。 | ||
今まさに異形の怪物を討ち果たした剣の群れが、金属のこすれる音を奏で、背の鞘へ戻っていく。 | ||
最後に、ぱちり、と細剣が納まったところで── | ||
リフィルを見上げ、少女は言った。 | ||
次の得物を、探しましょう──〈黄昏(サンセット)〉。 | ||
氷原に荒ぶ、吹雪のような声だった。 | ||
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