剣の間合、心の距離
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その夜──〈メアレス〉ご用達の定食屋で、ラギトたちに遭遇した。 | ||
どもっす! 大活躍って聞きましたよ、お三方! | ||
ふたりが敵を誘導し、ひとりが待ち伏せをして、確実に仕留める……まさに群れの狩りだな。 | ||
〈剣庫(アーセナル)〉に代わるあざなが必要かもしれんな、コピシュ。 | ||
……なんでもいいです。名前で敵を倒せるわけじゃないですし。 | ||
コピシュは淡々と答えた。ミリィたち3人が、思わず顔を見合わせる。 | ||
食事を注文したところで、アフリトが口を開いた。 | ||
それで……コピシュよ。これからどのように生きるか、答えは見えたかね? 〈ロストメア〉を倒して、お金を稼ぎます。それができれば、なんでもいいです。 | ||
わたしには、それしかありませんから。剣を執って、戦うことだけしか── | ||
それはゼラードの生き方だ。おまえさんのものではない。 | ||
……同じです。 | ||
膝の上に置かれた少女の手に、ぐっ、と強く力が込められるのを、リフィルは見た。 | ||
お父さんには、剣しかなかった……。だから、わたし、お母さんじゃなくて、お父さんについていったんです。 | ||
剣しかない。それでもいいって思ったんです。お父さんは、それでいいって。 | ||
だから……それでいいって思えたわたしも、きっと、お父さんと同じなんです。 | ||
同じじゃないと……だめなんです……。 | ||
そう言って、コピシュは強く唇を引き結んだ。 | ||
その、こわばった小さな肩を──ガラスのように鋭く、そして壊れやすそうな肩を──リフィルは、何も言えずに見つめていた。 | ||
…………。 | ||
食事をしただけでおねむとはな。どれだけ気を張っていたものやら。 | ||
アフリト翁が一服盛ったとかじゃないですよね。 | ||
安心しろ。俺だ。 | ||
なんだそれならえええええ!? | ||
正確には、心身をリラックスさせる香を焚いた。最近、ちょっと凝っていてな。 | ||
あ、なんかいいにおいすると思ったらそれか……。意外な趣味してんですね……。 | ||
……助かったわ。〈夢魔装(ダイトメア)〉。眠れていないってことはわかっていたんだけど。 | ||
こんなものは姑息療法だ。きっとすぐ、また自分を追い込むだろう。 | ||
本人にその自覚はないでしょうけど……この子、いつも至近距離で決着をつけたがるのよね。 | ||
あたしたちが戦う後ろから、剣を飛ばして援護してくれるだけでもいいんだけど……。 | ||
……きっと剣の間合いじゃないとだめなんですよ。 | ||
少女の寝顔を見つめ、ミリィが気づかわしげに言った。 | ||
守られながら戦うんじゃ……、戦ってるって感じ、しないんじゃないかな……。 | ||
命を賭けて、敵と戦う。そうしなければ……その覚悟を持てなければ、自分を許せんのだろう。 | ||
ラギトは、まっすぐにリフィルを見た。 | ||
そんな風に感じるのは、背負ったものが重すぎるからだ──〈黄昏(サンセット)〉。 | ||
誰かに身を挺して助けられると、その命の重みが、自分の背中に乗ったように感じる。 | ||
重みの分だけ責が増す。戦士は特に。救われた価値を果たさねばと、背負った重みに囚われる。 | ||
潰れることなく、前に進むためには……まあ……周囲の人間の助けがあるに越したことはない。 | ||
リフィルは嘆息し、素直にうなずいた。 | ||
……ありがとう。わかってるつもり……ではいるんだけど。 | ||
いずれにせよ、答えを出すのは彼女だ。そして彼女は戦いでしか答えを出せない人間だ。 | ||
彼女の戦いを見守れ。そして、絶対に死なせるな。そうすれば答えが見つかる。君自身の答えも。 | ||
(……彼女の答え。私自身の答え) | ||
リフィルはそっと己の胸元を押さえた。 | ||
(戦うことでしか生きることを実感できない。それは、私も同じなのかもしれない──) | ||
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