見つからない温泉

 
最終更新日時:
ここ死界には、あらゆるところに争いの痕跡が残り続けている。
不自然に盛り上がった道や、吸い込まれそうなほど深い穴。
思わず顔をしかめたくなるようなガスの臭いと、何故か湧き出ている湯。
イザヴェリはその横を通り過ぎながら、嫌気が差したように嘆息した。
どうしてお湯が湧き出てるのよ。ここの領主は何をしているわけ?
イザヴェリを恐れてか、彼女のもとへ死界の者が訪れることはほとんどない。
だが反対にイザヴェリが死界の、定められた領地を侵すことは多い。
法やルールがあるわけではなく、各々が主張し奪い合う死界の土地だが……。
そんなものは関係ないとばかりに、彼女は自由に振る舞い続ける。
はぁ……。
お湯が湧き出て、池のような溜まりを作るそこを通り過ぎた後で、
池のような溜まりを作るそこを通り過ぎた後で、イザヴェリは再びため息をついた。
どうして私の家の近くにあんなものが……。
ああやってお湯が湧き出るのは珍しい。何かに使えるかもしれない。
何かって何よ……お湯を何に使うのよ。
そもそも温泉なんてどこにあるのかしら。もっと下調べをするべきだったわね。
移動に最適なものがあればいいのだが、イザヴェリが持っているものはせいぜい飼い犬ぐらいのもの。
面倒だが歩いて探すほかなかった。


あそこがゼェール領跡地。
いたわね、そんな暗君も。
知っているの?
死界では有名な話よ。国を愛し、民を愛した哀れな王。暗愚。蒙昧。徒花……そう呼ばれているわ。
愛することが、そんなに哀れなの?
当然でしょ。
イザヴェリが口元を笑み歪めながら、楽しげに口にした。
どうかしてるわね、愚劣な王ゼェール。地を奪われ、民を殺され、それでもなお、国を求め続ける悲惨なる王。
けれど楽しいわ。そういうことがあるから、私はここが好きよ。
ヴィヴィはわからない。といった表情で首を傾げた。
さあ、行くわよ、ヴィヴィ。時間だってそうないんだから。


ここ、何かしら。
それは珍しい光景だった。
血と見紛うほどの赤が広がっていた。
グツグツと音を立て、赤色の煙を上げている。
初めて見るわね……。
見て、イザヴェリ
……何?
お湯に入ってる魔物がいる。
馬鹿ね。そんなの当然じゃない。そうすることで穢れを落とすと、死界ではもっぱらの評判よ。
……死界なのに。
ヴィヴィの呟きは、イザヴェリの耳に届かなかった。
赤黒い煙をあげる場所があるのは珍しいが、好き勝手に振る舞う者が集っている死界では、湯に浸かる連中がいてもおかしくはない。
ハクアが言っていたわ。魔界という場所は、複数の王によって統治されていると。
ここでは考えられない。秩序なんてあってないようなものだもの。
それがなければ滅んでしまうということ。大切だと思う。
力なき者に繁栄はないわ。その程度で滅ぶような弱者なら、くだらない矜持を捨てて自害でもしてなさい。
弱くても生きる術はあるのに。
そういうところで、そういう生き方をするだけなら結構なことじゃない。
結局ね、私たちも弱ければ喰われるのよ。そうやって命が廻っているの。それが唯一にして絶対の掟よ。
イザヴェリは優しくない。
優しいわよ。そうでなければ、〈死喰〉は務まらないもの。
本当に優しさがあるかどうかはともかく、イザヴェリにとって死者の魂を喰らうことは、何にも代えがたい楽しみであった。
そして〈死喰〉は、他者に務まるものではなく、イザヴェリの名が知れ渡る頃には、彼女に近づく者もほどんどいなくなっていた。
──ほとんどというのは。
たとえばこれである。
魔物が……。
ただただ暴れるだけの魔物たちが、今まさにイザヴェリのもとへ向かってきていた。
見たものを襲うという本能だけの、イザヴェリが最も嫌う種族だ。
こう言うことが起こりえるというのは、十分想定内の出来事だわ。
不愉快だけれど、ああいうのは全て踏み潰していくしかないわね。
そう言ってイザヴェリが、飼い犬を解き放った。
イザヴェリに勝るとも劣らない、獰猛さを秘めた凶悪なそれが魔物に向かって疾駆する──!

(戦闘終了後)

呆気なく噛み砕かれた"ソレ"は、飼い犬たちの足元に転がっていた。
無残に命を散らすことになったが、イザヴェリが言ったように力なき者に繁栄はない。
可哀想……。
そのうちそんな考えはなくなるわよ……イザヴェリはそう言おうとして、やめた。
彼女は無駄なこと、意味のないことを好まない。
その忠告がヴィヴィにとっても、不必要だとイザヴェリは知っていた。
邪魔をする者は全て喰らうわ。それが私、〈死喰〉の掟。
私は私の自由を侵害する者を、誰ひとりとして許さない。
自ら手を下すのは己の美学に反するが、許せないものは許せない。
ほらヴィヴィ、行くわよ。私たちの温泉に。
私たちのって……まだ見てすらいないのに。
浮足立つイザヴェリとは対照的に、ヴィヴィは一抹の不安を抱いていた。
温泉という言葉だけで、進んでいる。
ヴィヴィが全て知っていると信じて疑わない。
だが──。


(私も本で読んだだけなんて、今さら言えない)

コメント(0)

コメント

削除すると元に戻すことは出来ません。
よろしいですか?

今後表示しない

名前
コメント(必須)
(300文字まで)

必ず「Gamerch ガイドライン」をご覧の上、書き込みをお願いします。
画像
sage機能

対象コメント

選択項目

詳細

※上記の内容はWiki管理者へ通報されます。

通報完了

通報内容を送信しました

エラー

エラーが発生しました

削除しました。
メニュー  


▼index▼
種族別メニュー
カテゴリ別メニュー
イベント別メニュー


種族別メニュー

種族属性別
戦士 (145/185) / /
術士 (195/217) / /
神族 ( 38 / 61 ) / /
魔族 ( 48 / 68 ) / /
天使 ( 23 / 29 ) / /
亜人 ( 35 / 41 ) / /
龍族 ( 27 / 56 ) / /
妖精 ( 65 / 82 ) / /
物質 ( 13 / 21 ) / /
魔生 ( 4 / 8 ) / /
AbCd ( 10 / 10 ) / /

    • 画像無メニュー
戦士 / 術士 / 神族 / 魔族
天使 / 亜人 / 龍族 / 妖精
物質 / 魔法生物 / AbCd

カテゴリ別メニュー


イベント別メニュー

!New!

クロム・マグナ魔道学園 マジカル・グリコクエスト 天上岬 八百万神秘譚 双翼の物語 超魔道列伝
= 準備中 =
・ジェニファーの大冒険
・えれくとろ☆ぱにっく
・エターナル・クロノス
・神竜降臨
・黄昏の四神書
・古の森の千年桜
・イタズラ女神とうさぎのおはなし
・異空間野球 黒ウィズPRIDE
・異空間サッカー 蒼穹のストライカー
・天界の双子 訣別のクロニクル
・覇眼戦線
・幻魔特区スザク
・勇者しょこたんと導きの猫たち

Wikiあれこれ企画室

Wikiメンバー


左サイドメニューの編集

サイト内ランキング
トップページ
ディートリヒ
wiki管理人のぐだぐだ日記
4 ハクア
5 黄昏メアレス
6 ミカエラ
7 ティア
8 アイ
9 カノン
10 約束の地
最近の更新

2024/10/08 (火) 18:37

2022/01/19 (水) 22:48

2021/08/06 (金) 09:22

2017/05/01 (月) 20:52

2017/04/16 (日) 10:51

2017/03/23 (木) 17:45

2017/01/29 (日) 03:24

2016/12/27 (火) 18:18

2016/10/15 (土) 23:32

2016/08/09 (火) 00:11

2016/07/09 (土) 23:52

2016/07/09 (土) 09:13

2016/07/02 (土) 00:09

2016/07/01 (金) 14:49

2016/06/09 (木) 05:55

2016/06/04 (土) 15:23

2016/05/28 (土) 01:52

2016/05/26 (木) 14:21

2016/05/22 (日) 08:46

新規作成

2016/04/12 (火) 22:53

2016/04/12 (火) 22:52

2016/04/12 (火) 22:51

2016/04/08 (金) 22:48

2016/04/08 (金) 22:47

2016/04/08 (金) 22:45

2016/04/06 (水) 21:23

2016/04/06 (水) 21:21

注目記事
【マジックディフェンス】リセマラ当たりランキング マジックディフェンス攻略Wiki
【ウィズダフネ】「ピクシーと秘密の花園」のマップ一覧と攻略 ウィズダフネ攻略まとめWiki
【ドルフロ2】リセマラ当たりランキング ドルフロ2攻略wiki
【ポケポケ】最強デッキランキングとレシピ|最新環境Tier表 ポケポケ攻略Wiki
【ポケポケ】新パックはどっちを引くべき?|ディアルガとパルキアはどっちがおすすめ? ポケポケ攻略Wiki|ポケモンカードアプリ
ページ編集 トップへ
コメント 0