約束の地
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夢見る少女に、至福の奇跡を。 決意の剣刃に、寛大な裁きを。 一途な想いに、真実の抱擁を── |
運命の始まり 至福の奇跡 秘めたる誓い |
鋼の心を継ぐ娘 あるべき運命へ |
約束の地 そして、今 |
~ ∬ ~ 運命の始まり ~ ∬ ~
──それは、遥か昔の淡くおぼろげな記憶。 春。その日7歳を迎えたアンジェリカは、遊宴に訪れた"鋼"の少年と出会う。 | ||
俺、もっともっと鍛えて、誰にも負けない鋼の魔法を使えるようになりたいんだ。 | ||
鋼の魔法? | ||
強い心で、剣や鎧を無敵にする魔法さ。それを極めたら、この争いばっかの世界でも、きっと大切なものを守っていける。 | ||
そうなんだ……。 | ||
じゃあ、私のことも、守ってくれる? | ||
もちろんだ。絶対、俺が守ってやる。 | ||
~ ∬ ~ 至福の奇跡 ~ ∬ ~
太古の大魔道士の血を引く正統なる王女でありながら、乱世の荒波に飲み込まれ、望まぬ婚姻を強いられし少女。 気丈に振る舞い決して微笑を絶やさぬ姿の裏には、深い悲しみと強い決意が同居する。 | ||
…………。 | ||
おお、なんとお美しい。さすがは我が国の姫殿下。今日はすばらしい婚礼になりますなあ。 王族の血を引く唯一の生き残りですからな。我らが国のため、せいぜい役に立ってもらわねば。 | ||
(この道の先で待っているのは誰? どこかの国の、見知らぬ誰か……”彼”じゃない……) | ||
(それでも、この道を進まないわけにはいかない。民のために。国のためには……) | ||
(だけど……せめて──) | ||
("彼"が来てくれればと……。叶わぬ祈りを捧げる自由くらいは、せめて──) | ||
な、なんだ!? | ||
は──"鋼"の国の軍だと!? なんの理由があって我が国に……! | ||
決まっている。古い約束を果たすためだ。 | ||
ああ……!! | ||
待たせたな。アンジェリカ── | ||
~ ∬ ~ 秘めたる誓い ~ ∬ ~
永きに渡り諸侯を束ねた鋼心王は病に伏し、至福の時は終わりを告げる。 その身に流れる王家の血脈はかよわき腕に刃を引き寄せ、野心と陰謀の時代が幕を開く。 | ||
お逃げください、妃殿下! ここは我々が死守いたしますゆえッ! あの子を……ミシェルを無事に逃がすためには、私が囮を務めた方がいいでしょう。 | ||
しかし──! | ||
私とて、"鋼心王"の伴侶です。主君の崩御に乗じた逆賊など、剣を以って討ち取るまで! | ||
あなたたちこそ、逃げなさい。死中の窮鼠に付き合う必要はありません。 | ||
何をおっしゃる。"鋼心王"には及ばぬながら、我らとて"鋼"の騎士にございますぞ! | ||
妃殿下をお守りせずして逃げたとあっては、この先どうして騎士を名乗れましょうや。我らも── | ||
がはっ……!! | ||
アンジェリカ"先"王妃! 御命、もらい受けるッ!! | ||
……!! | ||
あ── | ||
な──なんだ!? これは……うわっ!? | ||
──── | ||
め── | ||
女神── | ||
今、戦いの歴史に終止符が刻まれる。 鋼心王の崩御に端を発した戦乱も、「女神」と呼ばれし剣の乙女により幕が引かれ、平和な日々が訪れる。 | ||
これが……私の本当の姿…… もう、人間の──定命のものの営みには戻れない……。 なら──私は……。 | ||
戦いの最中、流れる血脈の真実を知ったアンジェリカは、全てを見届けた後そっと舞台から姿をくらませる。 許されざる気持ちを抱え向かったその先で、彼女を待ち受ける裁きとは──? |
~ ∬ ~ 鋼の心を継ぐ娘 ~ ∬ ~
少女の抱く苛立ちが、世界を揺るがす刃となる── 年に一度だけ開かれる武術会。 屈強な戦士たちが名誉と生命を賭け刃を交錯させるさまを見ながら、ミシェル・ヴァイルは一人の男を思っていた。 | ||
あの武術家、なかなか強いじゃない? は……。 | ||
父さまと比べたら、どちらが強いかしら。 | ||
恐れながら、かの"鋼心王"の武勇とは、比べるべくもないかと……。 | ||
ふぅん── | ||
でも、それって昔の話よね。今の父さまだったら、どうかしら。 | ||
それはその……なんとも……。 | ||
脳裏に浮かぶのは、一人。北方の古城に居座る孤高の王。 愛する妻を戦火に焼かれ、笑い合える戦友を失い、絶望の果て、ミシェルを捨て孤独と共に生きることを選んだあの男。 | ||
父さま……待ってて。 わたしが貴方より上だってこと、わからせてあげるから。 | ||
光も闇も、音も時の流れも奪われた、最果ての幽閉楼。 「無」だけが虚空漂う空間に、翼を折られた戦乙女はうつろに眠る。 永遠、あるいはただの一瞬か。遥かに時の過ぎゆく中、破壊の鎖に身を繋がれて、たゆたう彼女は想いに沈む。 それは罪、許されざる悪。摂理に背き、魂を呼び戻した者に与えられる神の必罰。 それでも、彼女は待ち続ける。救いの終焉が訪れるその刻を。 (いつかまた、きっと会える) (信じてさえいれば、必ず、どこかで……) | ||
~ ∬ ~ あるべき運命へ ~ ∬ ~
いつだったろうか、あの頑なだった自分の気持ちが薄れ、かつて果てしない憎悪を注いだ『あの男』へ、一歩歩み寄ろうと考えたのは。 | ||
(子供だったのよね……きっと) (わたしも……『あの男』も……) | ||
母の代から続く大きな姿見に自分を映し、彼女はおぼろげな記憶を頼りに、鏡の自分に向かって笑いかけた。 | ||
……へたくそね。 | ||
女王陛下。ご来客です。その……前陛下が── | [執事] | |
客間に通して頂戴。……今日はもういいわ。あとはわたしが。 | ||
ミシェル……。 どうしたの? わたしの格好、そんなにおかしい? | ||
……いや、そういうわけじゃないんだ。ただ── | ||
ただ? | ||
よく、似合っていると思って。 | ||
……そう。 | ||
ねえ、あの人のこと、教えてよ。なんでもいいから。 | ||
綺麗だったよ。今の、お前みたいに。 | ||
…………。 | ||
──私、幸せになるね、『お父さん』。 ──! だからさ、見に来てよ。娘の晴れ舞台をさ。 …………ああ。 | ||
──彼女は明日、思い合う人と未来へ進むための第一歩を踏み出す。 先の見えない未来に進むのが、こんなに楽しみだった日は無かった。 二人の抱えていた傷だらけの鋼の心は、きっと明日には癒えるだろう。 パチンと暖炉の薪が跳ね、ミシェルの横顔を照らす。 薄く涙で濡れた頬を、不器用で傷だらけの指が撫でた。 | ||
愛した人との邂逅は、最悪の形で訪れる。 永き禊が終わりを告げたとき、彼女は全ての記憶を失っていた。 漆黒の翼は堕天の証、災禍の矛は地を穿つ闇の刃。 消された過去と大切な想い、植えつけられた破滅の衝動。 神の許しを得るために、黒の乙女は迷いなく彼の者の元へと向かう。 | ||
……"鋼心王"ルーファス・ヴァイル── アンジェリカ──!? お前…… | ||
これで、全て終わる。あなたさえ、消し去ってしまえば! | ||
視界に染まる鮮血の紅、かつて愛した人の胸には、深く神槍が突き刺さる。 神の使命が果たされたとき、心の鎖は解き放たれ、 全ての想いがよみがえる……。 | ||
ルー……ファス……あなた……。私は……こんな……何を……!! | ||
……アンジェリカ。 | ||
また……会えたな。 | ||
己の血に濡れた手を、ルーファスは伸ばした。やわらかな頬に、そっと指が触れる──その血を、あふれる涙が洗い流していく。 | ||
ごめん……なさい……!! 私……私は── | ||
いいんだ……アンジェリカ。俺は、本当は死んでいるはずだった……。そういうことなんだろう……? | ||
なら、いいさ。最後にいい夢が見られた。それに……。 | ||
また……お前と出会えた。それだけで……じゅうぶんだ。 | ||
ルーファス……。 | ||
(愛するすべてを守る、鋼の心……。あなたは、こんなときまで……。こんな……私にまで……) | ||
(だったら、私は……この人の妻として……。私に……できることは……!!) | ||
頬に添えられた熱い手に、細い指を絡ませて。 尽きせぬ涙に負けぬよう──彼女は、精いっぱいの笑顔を浮かべた。 | ||
……また、会えるよね……? | ||
その笑顔を見て──彼は、本当にうれしそうに微笑んで── | ||
……もちろんだ。 | ||
静かに、息を引き取った。 | ||
痛ましく沈む夜空に、儚い慟哭だけが、天も裂けよと響いた。 ──ただ、弔いの鐘のように。 | ||
父さま……どうして……。 | ||
やっと……やっと、わたしたち……。なのに……なんで……どうして……! | ||
返してよっ!! 誰でもいいからっ!! 返して! わたしの父さまを──返してぇッ!! | ||
~ ∬ ~ 約束の地 ~ ∬ ~
(祝福の鐘が、聞こえる……) (どこかで、誰かが幸せになった音……。見知らぬふたりが、心を契った証……) (どうか、その幸せが永久に続きますように。たとえ苦難に襲われたとしても──) | ||
……あの日から。 愛する人を正しき運命へと送り還してから、どれほどの時が過ぎただろう。 ──時は巡る。 | ||
「鋼心王」を継いだ愛娘は平穏な日々を人々にもたらし、惜しまれつつ世を去った。 | ||
鋼の心は世代を超えて受け継がれ……それも終焉の時を迎え、国は滅び、また別の王が玉座に就いた。 過ぎゆく日々、移ろう季節。やがて「ヒト」なる存在すら地上から姿を消した。 冷たき闇の時代を経て、再び光射した世界に命が芽吹くと、また新たな「ヒト」が現れた。 神秘の誕生、暖かな命の営み、弱き者が死に強き者が生き残る自然の理、繰り返される歴史。 幾億の時の果て、天は彼女に赦しを与える。焼かれた翼は輝きを取り戻し、神々は天への帰還を命じたが── 彼女は地に生きることを望んだ。数多の生命が大地に芽吹き、己が運命を全うするのを、彼女はただただ、見届け続けた。 | ||
「鋼」の少年との約束を信じ、数億の時を生きてきた。 ありえないとわかっていても、共鳴する魂が惹かれあう奇蹟を、ただ、願った。 | ||
(詩が、聞こえる──いつか、どこかで聞いた詩。吟遊詩人が唄う、祝福の詩……) (夢見る少女に、至福の奇跡を。決意の剣刃に、寛大な裁きを) (もう一節……あったはずなのに……。どうしても、思い出せない──) (そうよね……思い出せるはずがない。過ぎ去った時の長さを思えば……) | ||
どれほど、そうしていただろう。 胸打つ気配を背後に感じ、ふと、アンジェリカは目を開ける。 振り返る間も与えずに、背後の気配が彼女の冷たい体を胸に抱く。 一面は雪に包まれ、全ては純白に飾られている。 (ああ……そうだわ) 詩人の謳う最後の一節── ("一途な想いに、真実の抱擁を"──) 男は彼女を腕に抱き、古の時代と何ら変わらぬぶっきらぼうな口調で、ただ、一言。 それは時を超え、アンジェリカ・ヴァイルをあらゆる悲しみから解き放つ福音の声。 ──またせたな。 | ||
~ ∬ ~ そして、今 ~ ∬ ~
見て見て、母さま! わたしの新しいドレス! | ||
鋼の国の、王国の一室── | ||
卸し立てのドレスをまとったミシェルが、くるりと舞った。広がる翼から純白の羽が舞う。 | ||
とても綺麗なドレスね、ミシェル。それに、すごくよく似合ってる。 | ||
ふふん。でしょ? わたしの翼が映えるように、って、しっかりお願いしておいたんだから! | ||
お願いするのはいいけれど、あまりわがままを言って、みんなを困らせてはだめよ。 | ||
えー、でも、わたしたちって、神様の血を引いているんでしょ? | ||
なら、みんなよりずっと偉いんだし、いいじゃない。 | ||
あら。だったら、ミシェルはお父さまよりも偉いのかしら。 | ||
もちろん、父さまは別! 人間だけど、わたしの父さまなんだから! | ||
そう。神の血を引いているからといって、そうでない人たちより偉いわけではないの。 | ||
娘をそっと抱き寄せて、アンジェリカは優しくその頭を撫でた。 | ||
あなたが王族として立派に務めを果たしていれば、みんな、自然と偉いって認めてくれるわ。 | ||
大事なのは、心の強さと、器の大きさ。この人にならついていきたい、って気持ちになれるかどうか……。 | ||
母さまが、父さまについていきたいって思ったみたいに? | ||
そういうこと。 | ||
わかりましたわ、母さま。"鋼心王"の跡継ぎにふさわしい、立派な女王になってみせますことよ。 | ||
ふたりは、くすくすと笑声を重ねた── | ||
返してよっ!! 誰でもいいからっ!! 返して! わたしの父さまを──返してぇッ!! | ||
──── | ||
……? 母さま? どうかしたの? | ||
いえ── | ||
アンジェリカは、ぎゅっと娘を胸に抱く。 | ||
こうしてあなたといっしょにいられて、本当によかったな……って。 | ||
なーに、いきなり? もう10年もいっしょにいるじゃない。 | ||
ええ……そうね。10年も……ね。 | ||
さ、ミシェル。お父さまにも、ドレスを見せに行きましょう。 | ||
わざわざご足労いただく必要はありませんぞ、ミシェル姫。 | ||
部屋の扉を開けて入ってきたルーファスが、にやりと笑う。 | ||
御身の晴れ姿を待ち焦がれるあまり、ずっと外に控えておりましたからな。 | ||
父さま、ノック! | ||
固いことを言うなよ。泣いてしまうぞ? | ||
鋼心王はどんな敵と戦っても絶対に泣かないって言ってたじゃない。 | ||
妻と娘が相手じゃ、話が別だ。敵じゃないからな。 | ||
もう、しょうがない父さま。 | ||
笑いながら、ミシェルは再びくるりと回り、ドレス姿を父に披露した。 | ||
おお、いいじゃないか。素敵だぞ、ミシェル。玉座に飾っておきたいくらいだ。 | ||
ありがと、父さま! | ||
元気よく抱きついてくるミシェルの頭に手を置き、ルーファスはアンジェリカに片目をつぶった。 | ||
そうそう。ちなみにな、ついて行きたいと思ったのは、母さんじゃなく、父さんの方なんだぞ。 | ||
もう、あなた、どこから聞いてらしたんです? | ||
言っただろ。ずっと外で控えていたって。 | ||
コメント(2)
コメント
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「おめぇ、時間ないとか言ってなかったか?」
「すみません。無駄に凝ってしまいました。」
ほかの更新きちんと進めろって話ですね。毎度毎度申し訳ない。
黒猫初期から登場している精霊たちであり、ストーリーが壮大だったため、
どうしてもいつもどおりに編集するのはもったいないよなあ……と思ったらこの始末です。返信数 (1)0-
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└
KAGA
No.94465830
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また、ゲーム上では本当は全4話の構成になっておりますが、
話を時系列で区切ると4話に収めるのにはどうしても違和感を感じたため、
私の方で勝手に7つに分けております。
本来は
①純白の少女、決意の刻
②鋼の心を継ぐ娘
③約束の地
④そして、今
となっております。勝手で申し訳ありませんがご了承ください。0
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×
└
KAGA
No.94465830
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