祭に溶け込む
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「どうしよう……」
アーシアは途方に暮れながら、クロム・マグナ校舎の廊下を歩いていた。
手には、封書が一通。
『クロム・マグナ魔道学園 臨海学校へのお誘い』と記載されている。
主に、『番長オブザ番長決定戦』で優秀な成績を残した者を対象に、
試験的に実施される行事らしい。
確かにアーシアは、『番長オブザ番長決定戦』に出場した。
正確には、友達が勝手に応募したミス・クロムマグナコンテストで優勝したところ、
自動的に『番長オブザ番長決定戦』にもエントリーしたことになってしまった。
そして、そこで──
「な~に悩むことがあるっていうのよ」
「ひゃっ」
背後から声をかけられて、思わずアーシアの肩が跳ねる。
振り向くと、ぱちりと開いたつぶらな瞳にあふれんばかりの気迫を宿した
小柄な少女が、ムスッとして立っていた。
「ミユキちゃん……」
地下アイドルとして多くのファンを抱える、
『学園の超絶天使MIU☆MIU』ことミユキである。
彼女はかつて『番長オブザ番長決定戦』でアーシアに勝負を挑み、
乱入してきた警備委員カエデと相打ちになって敗北した。
アーシアが今回の『お誘い』を受けたのは、
ミユキとカエデに勝ったとみなされたためなのだ。
それ以来、ミユキはアーシアにライバル意識を燃やしたらしく、
たびたびこうして話しかけてくる。
「臨海学校のお誘い、来たんでしょ? 行けばいーじゃない」
「でも、わたし、自分の力で勝ったわけじゃ……」
「それでも勝ちは勝ち! アイドル渡世は結果がすべてよ!」
「わたし、アイドルじゃないんだけど……」
「だあーっ!!」
堪えかねたように叫ぶと、ミユキは、びしりとアーシアに人差し指を突きつけた。
「いーい!? アンタはワタシに勝ったの。ワタシの上に立ったのよ!
そのアンタが自信なくってどーすんの! ワタシはそんなヤツに負けたわけ!?
納得し・か・ね・るぅー! キィーっ!!」
「廊下で騒ぐな」
背後から現れた少女が、ミユキの後頭部をポンと叩いた。
きまじめそうな風貌の少女だ。
制服の上からジャージをはおり、胸元にホイッスルを下げている。
「だってカエデ!」振り向いてわめくミユキ。
「アーシアが『このわたしごときに負けた貴様らなど取るに足らない有象無象よ』って!」
「そんなこと言ってないけど……」
「ふむ……」
カエデは、ミユキとアーシアを交互に見やり、そして封書に目を留めた。
「なるほど、そういうわけか」
ひとり、うなずく。
「行ってきたらいいんじゃないか、アーシア。
鍛錬の機会は逃さないに越したことはない」
「でたな、特訓バカ……」
「私も行きたかったところだが、声がかからなくてな。
『お誘い』が来るのは『決定戦』の上位者と生徒会だけだそうだ」
「生徒会……」
アーシアは、ハッとして顔を上げた。
「そっか……生徒会の人たちも行くんだ……」
脳裏に浮かぶのは、ある少年の朗らかな笑顔。
ほのかな灯火が、胸の奥深くを、ちりりと焦がす。
記憶のなかの彼の笑顔を、アーシアはいつでも鮮明に思い出すことができる。
大好きな本の、大好きなページに、そっとしおりをはさんでおいたように……
「……うん」ぎゅ、と拳を握る。「行って……みようかな。臨海学校……」
「それがいい」カエデが微笑み、
「火が点くまで時間かかるんだから~」ミユキが、つんとそっぽを向く。
「じゃあ、決まったところで学食に行こうか。
2人とも、まだ昼は食べてないんだろ?」
「そうだったぁ! フヒヒ、今日の日替わりランチは何かな~♪」
「あっさりめのものだと、うれしいんだけど……」
ランチ談義を始めながら、3人の少女は、
いつものように連れ立って食堂へと向かっていった。
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