思い出の鐘の下で アーシア編
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![]() | このしおりに挟んだ一枚の紅葉は、私の大切な宝物。イツキ君との大切な思い出……。 あの日、紅葉で真っ赤に染まった並木道。私はいつものベンチで本を読んでいた。 その本、オレも好きなんだよなふとそんな声が聞こえた。 顔をあげると、そこにイツキ君の顔があった。そして彼は私の隣にそっと座ったんだ。 そういう本を読むってことはアーシアって優しいんだなって言ってくれたイツキ君。 そう言ってくれる人は初めてで、嬉しくなった。イツキ君は私の内面を見てくれた。 私たちは、話をして、たくさん笑った。そんなイツキ君の笑顔を私は好きになった。 この紅葉は、その日、私の開いたページに舞い落ちた、大切な宝物。 |
<思い出の鐘の下で アーシア編>
| イツキはひとり、夕暮れの中庭を歩いていた。 | ||
| 均等に敷き詰められた石畳を進む音が、彼の耳に響いてくる。 | ||
| …………。 | ![]() | |
| 穏やかな風が頬を撫で上げ、ふと彼は足を止めた。 | ||
| 視線の先には、ツタの這う鐘楼が見える。 | ||
| 深い目的があったわけではないが、イツキはあそこまで歩こう、と思っていた。 | ||
| これから起こるであろう事柄や、これまでのことから目を背けたわけではない。 | ||
| あるいは……。 | ||
| もう二度と見られないかもしれないこと景色を、心に焼きつけておこうと考えたのかもしれない。 | ||
| イツキは小さくかぶりを振って、再び歩き出した。 | ||
| 鐘楼の前に立って、イツキは一息ついた。 | ||
| おっと……。 | ![]() | |
![]() | い、イツキ君……。 | |
| 鐘を見ながら歩いていたところ、危うくアーシアにぶつかりそうになった。 | ||
| 悪い、ボーってしてて、気づかなかった……。 | ![]() | |
![]() | う、ううん……わたしこそ、ごめんなさい……。 | |
| びっくりしたよ。まさかアーシアがここにいるなんて。 | ![]() | |
![]() | うん……ここ、すごく落ち着くから……。 | |
| アーシアはそう言って、恥ずかしそうに目を背ける。 | ||
| 彼女が頬を真っ赤に染めていることに、イツキはきっと気づかない。 | ||
![]() | ……夕日のおかげかな。 | |
| 誰にも聞こえないよう、小さく呟く。 | ||
| これから、なんだな。 | ![]() | |
![]() | ……うん。 | |
| 俺たちがやらないとな。 | ![]() | |
![]() | ……うん。 | |
| ……アーシア? | ![]() | |
![]() | ……あっ! えっ、えっと……なに……? | |
| もしかして、不安か? | ![]() | |
![]() | うん……。 | |
| アーシアが小さく頷く。 | ||
| ……そうだよな。 | ![]() | |
| イツキが首肯する。 | ||
| 怖いとか、嫌だとか、そう思うのが普通なのだ。 | ||
| だからイツキは、アーシアを気遣いながら言う。 | ||
| 俺たちがやらなきゃいけないとは思うけど、それを強要はしないよ。 | ![]() | |
| きっと危ない目にも遭うだろうし、アーシアには無理はさせられない。 | ![]() | |
| だから──。 | ![]() | |
![]() | ううん、大丈夫。わたしもみんなと頑張りたいの。 | |
| アーシアが一歩踏み出し、イツキに近づいてそう言った。 | ||
| ……アーシア? | ![]() | |
| そしてそのまま、アーシアはイツキの手を取った。 | ||
![]() | ||
| わたし……あなたにも、ここのみんなにも恩返しをしたい。 | ||
| 今までも、これからもまだまだ大変だけど、わたしがここまで来られたのは……。 | ||
| ……そ、その……い、イツキ君のおかげだから……。 | ||
| そんな俺は別に……。 | ||
| まだ早いけど……イツキ君、ありがとう。 | ||
| ははっ、本当に早いよ。 | ||
| うん、ふふっ、なんかね、イツキ君を見たら、今のうちに言っておかなきゃって思って……。 | ||
| アーシアが、困ったような、それでいて少し落ち着いたような笑みを浮かべる。 | ||
| それに何があっても、必ず俺がアーシアを守ってみせる。だから心配するな。 | ||
| ……うん。嬉しい。 | ||
| アーシアの柔らかな視線が、イツキの輪郭を映し出していた。 | ||
| あっ……鐘だ。 | ||
| 集合を告げる鐘の音が鳴って、イツキとアーシアは少しだけ距離をおいたが──。 | ||
| 思いを告げた分、いつもりよ少し近かったことに、きっとふたりは気づいていない。 | ||
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