天界の攻勢
(0コメント)![]() おや。どこかで見たことのある奴がいるじゃないか。 | ||
| 君のことを覚えていたのか、イザークは開口一番そう言った。 | ||
| 知り合いか? | ![]() | |
![]() | そんなところだ。どこで拾ってきた? | |
| どこかの世界からルシエラが拾ってきた。 | ![]() | |
| はーい。拾ってきました。 | ![]() | |
![]() | なるほど、面白いことになってきたじゃないか。 | |
| 勝手に面白がられても困るにゃ。 | ![]() | |
| ウィズは呆れたように、尻尾を左右に振った。 | ||
| 冗談を言うな。厄介事ばかり増えている。 | ![]() | |
![]() | だとしたら、貴公の、これまでの行いが悪かったのだろう。 | |
| 魔族としては、行いが悪いに越したことはない。それにしても……。 | ![]() | |
| 相変わらず集まりが悪いな。 | ![]() | |
![]() | 元々、魔族はそういうものだろう。自分の欲望に忠実な者ばかりだ。 | |
![]() | 貴公らが少し変なのだよ。……状況を説明しよう。 | |
| イザークの話によると、アルドベリクの留守を狙って天界の軍団が攻めてきたらしい。 | ||
| この国を、魔界侵攻の拠点にしようとしているのだ。 | ||
![]() | 貴公が馬鹿正直に、異界の歪みの前でルシエラの帰りを待っていたからだな。 | |
| こいつがいつまで経っても、帰って来なかったからだ。一体何をしていた? | ![]() | |
| アルドベリクはルシエラの首根っこを掴み、持ち上げてみせた。 | ||
| えー? それは内緒です。知りたいですか? すごく知りたいですか? | ![]() | |
| ……知りたい。 | ![]() | |
| でも内緒でーす。 | ![]() | |
| 頭が痛くなってきた。さっさとそれぞれの役割を決めようじゃないか。私は何をすればいい? | ![]() | |
![]() | そうだな。エストラ、貴公は援軍を呼んできてくれ。 | |
![]() | 迎撃は我々が行う。魔法使い、せっかくだからお前も手伝うか? | |
| 断ったら、ただじゃおきませんよ。 | ![]() | |
| 笑顔でそういうこと言わないでほしい。と君は返した。 | ||
| 魔族と天使の喧嘩に関わることはないにゃ。 | ![]() | |
| でもここにいて、巻き込まれないのは無理な話かもしれないにゃ。 | ![]() | |
| 降りかかる火の粉くらいは払うにゃ。 | ![]() | |
| 仕方ない、と君はウィズの言葉に同意した。 | ||
![]() | ふふ。それで十分だ。では行こうか。 | |
| 魔界に降り立った天使たちの中に、燃えるような赤い髪をした少女がいた。 | ||
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![]() | 思ったより抵抗がありますね、マクシエル。 | |
| 彼女の言葉を受けて、その傍らにいる痩身の天使は言った。 | ||
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| アルドベリクは不在だと聞いたのですが、この様子だと、もう戻っているようですね。 | ![]() | |
| どうしましょうか? ここは一旦、兵を退いた方が良いかもしれません。 | ![]() | |
| クリネア、何も慎重論だけがお前の取り柄ではあるまい。 | ![]() | |
| もう征伐の軍のいくらかは、この地への降下を終えている。 | ![]() | |
| アルドベリクが戻っているなら、奴を倒して、そのまま、この地を制圧するまでだ。 | ![]() | |
| そうではないです、マクシエル様。我々の、当初の計画は崩れています。 | ![]() | |
| この先、どんな予定外の事が起こるか……。 | ![]() | |
![]() | 私もクリネアの意見に賛成です。このまま無理をすることもないでしょう。 | |
| マクシエルは、赤い髪の少女を一瞥した。 | ||
| ミカエラ様、あなたは甘い。 | ![]() | |
![]() | そうでしょうね。退却です。これは命令です。 | |
| それだけ言い、ミカエラは踵を返した。 | ||
| あ……。 | ![]() | |
| ……かしこまりました。 | ![]() | |
| 次の瞬間、空が破裂した。 | ||
| 降下途中だった天使たちの大半は制御を失い、哀れな滑空を行っていた。 | ||
| どうやら、退却するわけにもいかなくなりましたな。 | ![]() | |
![]() | それなら、皆を無事に退却させるのが、我々の責任です。続きなさい。 | |
| は、はい。 | ![]() | |
| いち早く、破裂した空へ向って、飛び立ったミカエラ。クリネアはすぐさまそれに続いた。 | ||
| 御意。 | ![]() | |
| そして痩身の天使は、最後に続いた。 | ||
| と、とんでもない威力にゃ……。 | ![]() | |
| アルドベリクが造りだした、黒い魔力の塊が、天使たちの降下してくる空へ放たれた。 | ||
| すると一瞬にして、押し寄せる天使たちは重力に捉えられて、地面に叩きつけられたのだ。 | ||
| さっすが、アルさん! | ![]() | |
| やれやれ、俺達の出番はなさそうだな。 | ![]() | |
![]() | さあ、仕上げにかかるぞ。 | |
| 君は少し苦笑した。 | ||
| まさか魔族と一緒に闘うとは……さすがに思わなかったからだ。 | ||
| それでも、想像しているよりも、彼らは人間味のある人たちだ。 | ||
| 嫌な気持ちはまったくなかった。 | ||
| (戦闘終了後) | ||
| もはや周囲に、抵抗できる天使の兵は皆無だった。 | ||
| 残党は逃げるに任せて、深追いはしない。それがイザークたちの判断だった。 | ||
![]() | こんなものか。天界の軍も存外情けない。 | |
| イザーク。お前が言うと、妙に聞こえるな。 | ![]() | |
![]() | 他意はないさ。 | |
| イザークも魔界で楽しくやってるみたいで安心したにゃ。 | ![]() | |
| こんな状況で楽しそう、というのもおかしな話だな、と君は思った。 | ||
| そこまでです! | ||
| 凛々しく透き通るような声と共に、燃えさかる炎の舌が、君の目の前に垂れ下がった。 | ||
| 炎の中から現れたのは、見覚えのある赤い髪の少女だった。 | ||
![]() | ||
![]() | イザーク。 | |
| 姉さん、兵を退くなら今だ。もうすぐ援軍も到着する。これ以上は無駄だ。 | ![]() | |
![]() | 馬鹿げたことを言うな、イザーク。 | |
![]() | ミカエラ様、言う通りにしましょう。無益な争いはやめるべきだと思います。 | |
| そうです。こっちには強い強いアルさんもいるんですよ。さっさと退いた方がいいです。 | ![]() | |
| 突然、一歩前に飛び出したルシエラは、翼を羽ばたかせながら、声高に言った。 | ||
| さもないと、さすがのアルさんも怒っちゃいますよ。そもそもですね……。 | ![]() | |
| むっ……。 | ![]() | |
| ルシエラの翼がアルドベリクの顔を撫でた。 | ||
| 羽ばたかせるたびに、何度も何度も。 | ||
| アルさんはですね。お人好しなところもありますが、根っからの魔族で、本当は怖いんですよ。 | ![]() | |
| ずっと羽根が顔に当たっているにゃ。 | ![]() | |
| む……。ルシエラ。 | ![]() | |
| はい? なんですか? | ![]() | |
| 気づいてないかもしれないが、お前の羽が俺の顔に当たっている。 | ![]() | |
| え? 気づいてましたよ。わざとですから。 | ![]() | |
| なら、すぐにやめろ。 | ![]() | |
| はーい! | ![]() | |
![]() | なんだ、あいつは……。 | |
![]() | 私たちと同じ……天使みたいですね。見覚えはないですが……。 | |
| 他のふたりが不思議そうにルシエラを見ているのとは対照的に、 | ||
| ミカエラは鋭い視線をルシエラに向けていた。 | ||
![]() | ルシエラ……。ルシエラ! こんなところにいたのですね。 | |
![]() | イザーク。あなたがアルドベリクとルシエラを? | |
| ああ。そうだ。 | ![]() | |
![]() | 残酷なことを……。 | |
| その言葉とともに、ミカエラは一歩、イザークの近くへと進みかかる。 | ||
![]() | ミカエラ様……これ以上は。マクシエル様。敵の援軍の気配も近いです。 | |
![]() | 退きましょう。私たちは敗れました。もうこの戦いは無意味です。 | |
![]() | ふん。 | |
| つまらなそうに、鼻を鳴らすと、マクシエルは飛び立った。 | ||
| ミカエラもクリネアも、それに続いた。そして天使の軍も続いた。 | ||
| やがて魔界に降り立った天使たちは、皆いなくなってしまった。 | ||
| イザーク。何の話だ。俺とルシエラに何がある。 | ![]() | |
![]() | そうだな……。 | |
| と、イザークはもうひとりの当事者たるルシエラの姿を探した。 | ||
| だが、どこにもいなかった。 | ||
![]() | もしかすると天使たちについていったのかもな。あの魔法使いもついでに連れて行かれたか。 | |
| まったく……。 | ![]() | |
| アルドベリクはそれを聞いて、すぐさま後を追いかけた。 | ||
![]() | 残酷か……。姉さん、それは少し違うな。 | |
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