夢見る刃、憂う妖煙
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![]() 病院の一室──寝台に横たわったゼラードは、小さくも重々しい吐息をもらした。 | ||
……そうか。あいつ、夢を見たのか……。 | ![]() | |
![]() | あなたを治したいという夢をね。 | |
寝台の傍ら──腕と足を組んだ状態で椅子に座ったリフィルが、そっけなく告げる。 | ||
見るなら、もうちょいマシな夢もあるのにな……。 | ![]() | |
![]() | あなたの傷が癒えれば、いずれ新しい夢を見る。あの子は、夢を知らなかっただけなんだから。 | |
だといいがな……。そのへん、俺がもっとしっかりしてりゃ、良かったんだが……。 | ![]() | |
![]() | あなたに剣以外の期待はしてない。 | |
へーへー。知ってますよっと……。 | ![]() | |
リフィルは、肩をすくめて立ち上がった。 | ||
![]() | あの子には、うちの店を紹介しておくわ。飲み込みがいいから、すぐ働けるはず。 | |
悪ぃな……。くそ、俺もとっとと治して── | ![]() | |
ぎろり、と視線が鋭さを帯びた。 | ||
![]() | 寝てろ。 | |
……へい。 | ![]() | |
![]() …………。 | ||
ずしりと重く圧しかかる剣の群れを背負いながら、コピシュはひとり、路地裏を歩いている。 | ||
人の気配とてない、路地裏の奥深く。少女はそこで足を止め、静かに声を上げた。 | ||
![]() | いらっしゃいますか──アフリト翁。 | |
まあ、おらぬこともない。 | ![]() | |
うっすらと微笑むアフリトが、路地裏の陰から、ゆらりと姿を現した。 | ||
いかなる用向きかね、〈剣庫(アーセナル)〉。 | ![]() | |
いや……今となっては、”ただの”コピシュか。 | ![]() | |
![]() | ご存知なんですね。わたしが……〈メアレス〉ではなくなったこと……。 | |
風の伝にな。だが、そうでありながら、わしを呼んだということは── | ![]() | |
コピシュは、ひた、とまっすぐに男を見つめた。 | ||
![]() | 〈メアレス〉でないと、〈ロストメア〉とは戦えませんか。 | |
![]() | あの黒猫の魔法使いさんみたいに……夢を持ちながら、〈ロストメア〉と戦うすべはありませんか。 | |
……なぜ、そうも戦うことにこだわる? | ![]() | |
![]() | 現実的な理由です。子供のわたしじゃ、そうでもしないと、お父さんの治療費を稼ぎ続けられませんから。 | |
それだけではないという目だ。 | ![]() | |
![]() | …………。 | |
斬り込むような指摘に、コピシュは一瞬うつむいて── | ||
すぐに、毅然と顔を上げ、言った。 | ||
![]() | わたし……剣でなくちゃいけないんです。 | |
![]() | そうでないと……わたし……お父さんの子だって、胸を張って言えないんです! | |
そんなことはない──コピシュ。おまえさんは、あいつの自慢の子だよ。 | ![]() | |
コピシュは、ふるふると首を横に振った。 | ||
![]() | ずっと……胸の奥にこびりついているんです。 | |
![]() | わたしを逃がすため、敵に立ち向かっていったお父さんの姿が……その剣が……ずっと── | |
![]() | その剣を継げるだけの自分じゃないと、お父さんに助けられるだけの価値があっただなんて言えない……!! | |
![]() | わたしは……お父さんみたいな剣士になりたい! ならなきゃ、生きてる意味がないっ!! | |
──それも、夢だな。 | ![]() | |
アフリトは、微笑ましげに言った。 | ||
胸に燈る、あたたかくも尊い炎だ。夢以外の何物でもない。 | ![]() | |
父を癒す。父のような剣士になる。おまえさんのふたつの夢は、〈ロストメア〉を倒せねば叶ええぬ。 | ![]() | |
![]() | はい……ですから、その方法を── | |
そんなものはない。 | ![]() | |
ぴしゃりと告げて。 | ||
アフリトは、ゆっくりと目をすがめた。 | ||
だが──再び〈メアレス〉として立つことは、できる。 | ![]() | |
![]() | え……? | |
茫然と目を見開くコピシュの眼前で── | ||
煙が、舞った。 | ||
ごうごうと──嵐めく轟音を立てながら、集い、猛り、男の掌の上で呵々と荒れ狂う。 | ||
ぞっと総毛立つほどの戦慄を覚えながら、コピシュは反射的に身構えた。 | ||
![]() | これ……魔力……! | |
どうせ果たせぬ夢ならば、抱いたところで仕方あるまい。 | ![]() | |
とてつもない量の魔力をたたえたまま── | ||
今一度、〈メアレス〉として立て──〈剣庫(アーセナル)〉。その刃を阻む夢は……。 | ![]() | |
アフリトは、穏やかに微笑んだ。 | ||
![]() このわしが、喰らい尽くそう。 | ||
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