熱狂渦巻く大舞台
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れえす会場は、朝から熱気に包まれていた。 | ||
観客席は満員御礼。立ち見どころか、会場の外にまで神様が集まってきているらしい。 | ||
らいぶびゅーいんぐですわ! | ||
そう言ってトミが笑っていたのを君は思い出す。 | ||
すごい熱気……。 | ||
当然だよ。これで一文無しになる神様もいるんだから。 | ||
エトワール! あんまり知らない人……いや、神様に話しかけるなって言ってるでしょ!? | ||
……おにぎり。 | ||
違う。僕はエトワール。和ノ国の紋章師。こっちはメリエル。覚えなくてもいいよ。 | ||
……やはりな。すれ違ったときから違和感はあったが。 | ||
へ? | ||
どういうわけか、下界の人間が混じっているらしい。 | ||
はっ!? 行くわよ、エトワール! | ||
あ、ちょっと……。 | ||
メリエルという少女が、エトワールと呼ばれる少女を引っ張っていってしまった。 | ||
滅茶苦茶だな、あいつら。こんなところまで入り込めるなんて。 | ||
いや、どうやらあのふたりだけじゃないようだ。 | ||
それで、私の乗り物は……。 | ||
ツツノカミ様だ! はっはっ、驚いたか! | ||
…………。 | ||
つつつツツノカミ様!? むむむ無理! 恐れ多くて……! | ||
安心しろ。ツツノカミ様は、寡黙ではあるが寛大なお方だ。 | ||
今大会、ミコトを乗せることになって大変喜んでおられる。 | ||
ほ、ほんとにいいんですか……? | ||
…………。 | ||
ツツノカミと呼ばれる動物……いや、神獣? が首をクイッとやった。 | ||
背中に乗れ、振り落とされるなよ、という意味のようだ。 | ||
私たちは何に乗るにゃ? | ||
オオミコシ様は言っておられます。 | ||
乗り物がないのなら、この上に乗ればいいと! | ||
はるか上空から、ゆっくりと降下してくる”ソレ”は、あの日あの場所にあった巨大な神輿。 | ||
神輿座についたよしみ。オオミコシ様は、縁を捨てはせぬ! | ||
いや、これ喜んでいいのかにゃ……? | ||
君はわからない、と言うのが精一杯だった。 | ||
エトワール、メリエルというふたりの少女が乗るのは、ワパパという神獣らしい。 | ||
ミコトが乗るのはツツノカミで、スオウとセイはタケミカヅチという神竜だという。 | ||
それがどうして…… | ||
君たちだけ、”こういうもの”なのか、さっぱり理解できない。 | ||
さあ、乗りなさい、猫神ならざる猫とそのお供。 | ||
オオミコシ様は、目の前の全てをはねのけ優勝するおつもりである! | ||
さあさあ、ミコト杯がもうまもなく始まります! | ||
毎年荒れに荒れるこのれえすですが、今回は高額寄付者であるミコト様も出場されます! | ||
喧嘩神輿とうなめんとでのご活躍が記憶に新しいミコト様。 | ||
れえすでは、どのような結果を示すのか、非常に楽しみです。ねえ、モミジ様? | ||
…………。 | ||
……さ、気を取り直していきましょう。るーるの説明を行います! | ||
るーるは至って簡単! 乗り物から”落下せず”ごーるするだけです! | ||
それ以外は何をしても問題ありません! 妨害行為も認められています。 | ||
そしてここで各出場者への賭け率を紹介します。 | ||
おい、俺らめちゃくちゃ”穴”じゃねえか! | ||
だな。まあ、こればかりは仕方ないさ。 | ||
あれ……私の名前ない……。 | ||
あるにゃ。一番下。645倍って書いてあるにゃ。 | ||
数字が巨大すぎて前が見えない! | ||
とにかく、このれえすで落ちることなく、ごーるを目指せばいいらしい。 | ||
わかりやすくいいにゃ。それに私たちにはオオミコシがついてるにゃ! | ||
それが不安……だったりするのだけど。 | ||
さあ、神々の皆さん準備はよろしいですか? | ||
それぞれのげーとに収まって、開始の合図を待つ。 | ||
緊張感が漂ってきている。 | ||
君はしっかりとオオミコシに掴まった。 | ||
さあ全ての出場者がげーとに収まりました! 開始はまもなくです! | ||
内から12番ミコト・ウタヨミ。後続13番のセイ、スオウが先団に並びました――! | ||
おおっと横から猫神――オオミコシガミが追い込んできています! | ||
長い長い距離を、息も切らさず駆け抜けるだけという単純なれえす。 | ||
乗り物に乗っているだけで、楽ができる――というのは大間違いだ。 | ||
おおっと! 後方でトラブル発生か! 激しい銃撃戦が繰り広げられています! | ||
そう。妨害行為はありというるーるが、このれえすをとにかくややこしくしている。 | ||
流れ弾があたったらまずいにゃ。伏せるにゃ! | ||
君は頭を低くして、背後に目を向ける。 | ||
激しい戦いの末、ここで8番アツマが落下――! 失格となります! | ||
どこかの誰かが、乗り物から落ちてしまったようだ。 | ||
にゃ! 君、前を見るにゃ! | ||
ふはははは――! 待ってたぜぇ、猫神とその取り巻きたちよォ! | ||
俺はテルイ! この超絶イカした舶来のおーぷんかーっつー乗りもんで優勝する男だ! | ||
喧嘩神輿とうなめんとで優勝した奴らを蹴落としておきゃ、後は楽になるってもんよ! | ||
何やら不格好な乗り物に乗っている男が、君たちの道を塞いでいた。 | ||
うぅっ、こんなところで止まってられないのに! | ||
ちっ、相手にしてられねえってのによ……。 | ||
俺は万全を期す神よ! 余裕をぶっこいてやられるなんて、笑えねえ! | ||
さあ、いくぞお前ら! 軽くぶっ飛ばしてやる! | ||
ここで先団に波乱が起こってしまった――! 優勝候補21番テルイが、道を塞いでいるッ! | ||
立ち向かうは、かの喧嘩神輿とうなめんと優勝ミコト、猫神の団体だァッ! | ||
さあ、白熱の局面はこのあとすぐ!! | ||
(戦闘終了後) | ||
かは――っ!? | ||
君が特大の魔法をぶつけると、テルイは乗り物とともに後退した。 | ||
これ以上、ここで妨害されていては後続に追いつかれてしまう。 | ||
君は少し焦っていた。 | ||
くッ、つ、つぇえじゃねえかこのやろう……。 | ||
だがな、俺と俺のおーぷんかーは、まだまだ――。 | ||
そこで何かが弾ける音が響き渡った。 | ||
テルイの乗り物が白煙をあげている。 | ||
うおおぉぉぉぉ……! 俺の愛車があぁぁぁ!! | ||
このまま突っ切るぞ、ミコト! | ||
わ、わかった……! | ||
12番ミコト・ウタヨミが1着! 続いて13番セイ・スオウ! おって猫神の着順です! | ||
ごーる……ようやく長いれえすが終わった。 | ||
これで決勝れえすでは、ミコト様が最も内側、有利な開始地点を掴みました! | ||
君は思わず、えっ!? と声を上げる。 | ||
お疲れさま。わたしは6番だったよ~。決勝も頑張ろうね。 | ||
……っていうか決勝? | ||
ミコトも同じ疑問を持ったようだ。 | ||
うん。これは予選だね。このあと夜には決勝れえすだよ。 | ||
もう疲れちゃった……。 | ||
こういうときこそ、得意の歌を詠むんだろ。 | ||
う、うん……。 | ||
だいじょうぶ、きっとかてるよ、だいじょうぶ、だいじょうぶだから、おちついてみよう……。 | ||
いや、それ言うほど効果ないだろ。 | ||
手厳しい指摘はさておき、ミコトは少しずつ落ち着いてきたようだった。 | ||
歌なんていうのは、気持ちの問題だからね! | ||
ミコトちゃん、歌の神様がそんなこと言っちゃダメだよ……。 | ||
……そういえばあの子、見た? | ||
あの子? | ||
うん、大きな猫に乗った女の子。あの子、下界から迷い込んだみたい……。 | ||
入り込んだふたり組とは別の…… | ||
そうだ、あれは街で見かけた子だ。 | ||
……あの。 | ||
ひゃあ!? | ||
あっ……ご、ごめんなさい……。 | ||
いちいち謝るんじゃない。我々はただ声をかけただけではないか。 | ||
……うん。 | ||
あ、この子この子。 | ||
どうしたの? 迷っちゃった? | ||
は、はい……いきなりここに飛ばされてきて……あの……。 | ||
うんうん、帰らなきゃね。大丈夫大丈夫。私に任せて。 | ||
あ、あの……その……私あの……こ、コノハって言います……。 | ||
あ、ご丁寧に……私はミコト。ミコト・ウタヨミです。 | ||
よくわからないが、それに便乗して君たちも挨拶をする。 | ||
それで、帰り方がわからないってことなのかな? | ||
我らは優勝を狙っているのだ。いまコヤツを帰すわけにはいかない! | ||
……はい。 | ||
優勝……うーん、でも神様たちのれえすなのに、いいのかなぁ? | ||
さあ、それは俺らの関与するところじゃないな。 | ||
向こうにもおにぎり頭の人間がいるんだ。こればかりはしょうがないだろう。 | ||
神様ではない、と言えば、君もウィズもそうだ。 | ||
だから君は口を挟むことができなかった。 | ||
あの……その、えと……わ、私……。 | ||
うん、どうしたの? | ||
ミコトは優しげに訊く。 | ||
こういうとき、妙に”神様”らしさがある。 | ||
が、頑張って優勝したくて……そ、それであの、あ、会いたい人がいて……。 | ||
その人は、こっちにいるのかな? | ||
はい……その人はカフクって名乗っていました。 | ||
カフク……あいつか。 | ||
貧乏神だな。 | ||
し、知っているんですか……!? | ||
ああ。知ってるぜ。1度戦ったことがあるんだ。 | ||
あ、あの方は……あの方はどこに……いるんですか……? | ||
う、うーん……わからない……。 | ||
貧乏神のカフク……そういえば、戦った覚えがある。 | ||
だけど君を含め、ここにいる神様は、彼女の居場所をまるで知らなかった。 | ||
……そう、ですよね。 | ||
うん……ごめんね……。 | ||
肩を落として去っていくコノハを見て、なんだか申し訳ない気持ちになる。 | ||
だが決勝に備えなければならない。 | ||
夜まで時間もないし、できることをやっておこうね。 | ||
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