海辺書記
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放課後の、クロム・マグナ魔道学園──
グラウンドの隅にある大きな木を背にしたヴォルフは、不良たちに囲まれていた。
「てめぇら──」
不良たちを見回し、ヴォルフは眼光鋭く告げる。
「花壇の近くではしゃぐなって言っただろうが!」
「「「すんません!」」」
不良たちは、勢いよく頭を下げた。
「今回は被害が出なかったからいいけどよ……次からは気ィつけろよ!」
「「「うっす!」」」
「わかったんならいい。じっとしてられねぇんなら、汗でも流してきやがれ!」
「「「うっす!」」」
一斉にグラウンドに駆け出していく不良たち。
彼らとすれ違う形でやってきたイツキが、ぽかんとする。
「おう、イツキ。どうかしたか」
「ヴォルフが不良に絡まれてるのかと思って来たんだけど……
そういうノリじゃなさそうだな」
傍らに寄り添う狼──フレキの頭を軽くなでてやりながら、
ヴォルフは肩をすくめた。
「あいつら、この辺にたむろしてることが多いからよ。
何度か注意してんだ。花壇を壊したりすんじゃねぇぞ、ってよ」
「素直に言うこと聞いてくれるんだな」
「前はそうでもなかったが……」
困ったように、頬をかくヴォルフ。
「……『番長オブザ番長決定戦』のあと、
あいつら、俺に『舎弟にしてくれ』って言ってきたんだよ」
「へぇ……」
ヴォルフが背にしている木にもたれかかるようにして、イツキは軽く笑った。
「あの一件で、ヴォルフの実力がわかったからかな」
「負けちまったけどな」
「しょうがないって」
学園一の番長──番長オブザ番長を決める戦いで、
ヴォルフはすべての番長候補の頂点に立った直後、
乱入してきた少女・エミリアの打撃を受けて昏倒した。
そのため、番長オブザ番長の称号はエミリアのものとなったわけだが──
「『エミリアはあくまで特別枠で、実質的な腕っぷし番長はヴォルフ』
って認識なんだろ。あんな子を本気で番長扱いするのは抵抗があるだろうしさ」
「まあ、エミリアはカワイイからなぁ……。
ホント、なんであんなにカワイイんだ……」
「……え。って、おまえ──」
「なにか思い出すなぁって思ったらよ……あれだよ!
仔犬の頃のフレキに似てんだよ!
こう、目がくりくりっとしててな?
小せぇのに元気にはしゃぎ回るのがもう……」
「あ、そっちか……」
熱弁するヴォルフに、苦笑するイツキ。
「エミリアも、臨海学校に来るらしいな」
「お、マジか。そいつはいい。ジョージとアキラが来るって聞いて、
夏なのに暑苦しさ倍増じゃねぇかって思ってたが、
これでジョージはおとなしくなりそうだな。アキラは……」
「あいつにおとなしくなる瞬間なんてあるわけないだろ」
「やっぱ、そうか……」
イツキと笑みを交わしながら、ヴォルフは心地よさを感じていた。
ずっと動物とだけ付き合っていた自分が、こうして誰かと親しく笑い合えるなどとは、
昔は夢にも思わなかった。もし、あの頃の自分に会えたとして、
『俺、ダチや舎弟ができたんだぜ』などと教えても、決して信じてもらえないだろう。
だからヴォルフは、実を言うと臨海学校を楽しみにしていた。
勉強をするのは億劫だが、
仲間たちとの泊りがけの合宿というのははじめてで、無性に胸が躍るのだ。
(生徒会に誘ってくれたシャーリーには、ホント、感謝してもし足りねぇな……)
そんなことを思いながら──ヴォルフはしばし、イツキと雑談に興じるのだった。
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