思い出の鐘の下で アキラ編
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![]() | イツキとアキラへ。 学園生活はどうですか?食事はちゃんと食べていますか? 父さんと母さんは毎日あなたたちのことを話しながら、畑仕事をしています。 今年はいい雨が降ったから、とっても美味しい野菜がとれました アキラの焼きそばにでも使ってくだいね。 母より。 |
<思い出の鐘の下で アキラ編>
| イツキはひとり、夕暮れの中庭を歩いていた。 | ||
| 均等に敷き詰められた石畳を進む音が、彼の耳に響いてくる。 | ||
![]() | …………。 | |
| 穏やかな風が頬を撫で上げ、ふと彼は足を止めた。 | ||
| 視線の先には、ツタの這う鐘楼が見える。 | ||
| 深い目的があったわけではないが、イツキはあそこまで歩こう、と思っていた。 | ||
| これから起こるであろう事柄や、これまでのことから目を背けたわけではない。 | ||
| あるいは……。 | ||
| もう二度と見られないかもしれないこと景色を、心に焼きつけておこうと考えたのかもしれない。 | ||
| イツキは小さくかぶりを振って、再び歩き出した。 | ||
| 兄ちゃん! | ![]() | |
![]() | アキラ……お前、こんなとこで何してんだ……? | |
| 俺、みんなを元気づけるために美味い焼きそばを作ろうと思ってるんだ! | ![]() | |
![]() | 焼きそば……? いや、お前いまがどんな時期かわかってるのか? | |
| ああ、もちろん。だからこそ、俺が焼きそばを作るんだろ? | ![]() | |
| アキラは、馬鹿なのか? とでも言いたげな目で、イツキを見つめる。 | ||
| 馬鹿はお前だ、という野暮は口にしない。 | ||
![]() | アキラ、あのな俺たちは……。 | |
| 兄ちゃんも、焼きそば作ってみんなを元気にしようぜ。 | ![]() | |
![]() | ──なに? | |
| イツキは思わず訊き返す。 | ||
| 美味いものを食えば、心にゆとりができる。 | ![]() | |
| 心にゆとりができれば、体力も戻って気合いが入る。 | ![]() | |
| 気合いがみなぎってくれば、どんな野郎でもぶっ飛ばせる! | ![]() | |
![]() | あ、アキラ……。 | |
| 兄ちゃん! | ![]() | |
| イツキとアキラは、握手をかわし、互いの気持ちを確かめ合った。 | ||
| そう。食事は人々の心に彩りを与えるのだ。 | ||
| 戦争だとか、殴り合いだとか、そういうことよりもまずは飯だ! | ![]() | |
| ……いいものを作って、みんなをアッと言わせてやろうぜ。 | ![]() | |
![]() | ……そ、そうだな。まず大事なのは心に余裕を持つことだよな。 | |
| ああ、兄ちゃん! わかってくれると思っていたよ! | ![]() | |
| アキラは感動のあまり、今にも泣き出しそうだった。 | ||
| さあ、行こうぜ、兄ちゃん! 俺たちの戦いは、まず最高の焼きそばを作ることから始まるんだ! | ![]() | |
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