再開、開戦
タグ一覧
>最終更新日時:
かつて天下に覇を唱えたさる王国の騎士団として「グラン・ファランクス」は誕生した。 ひとたび盾となれば巨人の棍棒を弾き返し、竜の炎をも跳ね返し── ひとたび剣となれば、敵を跡形もなく打ち砕き、その苛烈な攻撃は、軍場の大地すら割ったという。 グラン・ファランクスの騎士は恐れを知らず、情けを知らず、敗北を知らなかった。 騎士団長の持つ左眼──覇眼から放たれる青き燐光が、彼らの心から一切の"無駄"な感情を取り 光が、彼らの心から一切の"無駄"な感情を取り去るのだ。 彼らの心に残るのは、ただ敵に対する殺意のみ──。 その覇眼こそ、グラン・ファランクス騎士団が最強たる所以だった。 | ||
しかし、争いの絶えぬ異界において、絶対的な強者など存在するはずはない。 やがて王国は滅亡し、最強と謳われたグラン・ファランクス騎士団の 最強と謳われたグラン・ファランクス騎士団の存在も忘れ去られた。 ルドヴィカ・ロアが覇眼に目覚めるまでは── | ||
集え! ルドヴィカ・ロアの名のもとに! 我が左眼の極星が輝き続ける限り、グラン・ファランクス騎士団に敵はない! | ||
再び歴史の表舞台に現れたグラン・ファランクス騎士団── | ||
彼らは、仕えるべき王を持たなかった。 | ||
ただ挑まれるままに戦い、己の義に反するものを敵とした。 | ||
敗北を知らぬグラン・ファランクス騎士団を、人々はやがて正規軍と認め、 | ||
人々はやがて正規軍と認め、ルドヴィカを王とみなすようになった。 | ||
しかし、ここは争いの絶えぬ異界であり、ルドヴィカの本質は王ではなく、騎士であった。 | ||
正規軍となった後も、グラン・ファランクス騎士団は常に戦い続けた。 | ||
その日、グランファランクス騎士団は、いつものように賊軍を討伐するために荒れ果てた岩崖の上に陣を敷いた。 | ||
戦場の匂いがするな……。 | ||
ルドヴィカは、眼下の都市を見下ろして呟いた。 | ||
……あれはどこの軍か? | ||
先遣隊を務めていた亜人の騎士、エスメラルダが答える。 | ||
軍? 「ハーツ・オブ・クイーン」なんて名乗ってるみたいだけど、いいトコ暴れ牛の群れって感じ? | ||
なるほど、暴れ牛の群れか……言い得て妙だな。 | ||
ルドヴィカはつまらなそうに眼下で暴れるその"群れ"に目をやる。 | ||
さあ全部奪い尽くすのよ。何ひとつ残す必要なんてないわ! | ||
まだ若い指揮官に鼓舞されて、”群れ”は略奪の限りを尽くしていく。 | ||
……リヴェータ。イレ家もここまで落ちぶれたか。 | ||
随分と懐かしい顔ですね。「ハーツ・オブ・クイーン」ですか? 今更女王様って柄でもないでしょうに……。 | ||
え? 何? 知り合い? どういうことですか? 誰なんですか、あれ? | ||
リヴェータ・イレ。かつて我々の領主だった家の娘だ。お前も話くらいは耳にしたことがあるだろう? | ||
うそ? ルドヴィカ様が打ち取ったっていう、あのイレ家の!? | ||
ああ、そういうことだ。 | ||
さて、どうしますか? ルドヴィカ様……。 | ||
ギルベインの問いに答えることなく、ルドヴィカはふうと、息を吐いて瞳を閉じた。 | ||
……同郷のよしみだ。我が剣で相手をしてやろう。 | ||
そう言って、彼女は後ろに控える騎士たちに目を開いた。 | ||
彼女の左眼から青い閃光が迸る。 | ||
覇眼──「凛眼」が発動したのだ。 | ||
揃いの甲冑に身を包んだ無個性な騎士たちから、凍て付く様な冷たい殺気が立ち上った。 | ||
その殺気は、崖の下にいる「ハーツ・オブ・クイーン」にも伝わる程強烈だった。 | ||
彼らはその異様な気配に気が付き、略奪の手を止めた。 | ||
リヴェータの寡黙な右腕、ジミー・ディウスが、その気配の根源──ルドヴィカの存在に気がついた。 | ||
極端に口数が少ない代わりに、周囲の状況の変化に異常なほど敏感なのだ。 | ||
…………! | ||
グラン・ファランクスがいる。そうジミーは目で訴える。 | ||
……ってことはいるのね? アイツが。 | ||
……。 | ||
ジミーは頷いて、無言のままリヴェータに退却を訴える。 | ||
……んなこと出来るワケないじゃない! | ||
リヴェータはルドヴィカを睨みつける。 | ||
ルドヴィカ! 裏切り者が、私より高いところに立ってんじゃないわよ! | ||
征くぞ、グラン・ファランクス騎士団! | ||
ルドヴィカはそう言って、大剣を足元に突き立てた。 | ||
奴らを── | ||
剣先から延びる地面の亀裂は、ビシビシと音を立てながら崖の両端へと伸びていく。 | ||
押し潰す! | ||
その声とともに、グラン・ファランクス騎士団は「崖ごと」ハーツ・オブ・クイーンへと突撃した。 | ||
ルドヴィカァァァァァァ!! リヴェータァアア!! | ||
ふたりの叫びと共に、争いの絶えぬ異界の片隅で、またひとつ、 | ||
争いの絶えぬ異界の片隅で、またひとつ、戦乱の歴史が幕を開けた。 | ||
グラン・ファランクスとハーツ・オブ・クイーンの初めての戦闘は、あっけなく幕を閉じた。 | ||
あまりに明らかな、力の違い──。 | ||
許せ。少々力を出しすぎた。仲間の野盗は全て失せたぞ。 | ||
失せた? 何ワケ分かんないこと言ってんのよ! | ||
それにこいつらは野盗じゃなくて── | ||
と、リヴェータは後ろを振り返るが、そこに仲間の姿はない。 | ||
ルドヴィカの、大剣で崖を砕く様子を見ただけで、ハーツ・オブ・クイーンは完全に戦意を喪失し、敗走していたのだ。 | ||
……チッ。あいつら、後で思いっきりヤキ入れてやる。 | ||
そうボソリと毒づいてから、リヴェータは再びルドヴィカと向かい合う。 | ||
ルドヴィカ! まだ勝負はついてないし、私はあんたを絶対に許さない! | ||
怒りに身を任せ、 | ||
リヴェータは手にした鞭を振り上げる。 | ||
しかし、それを振り下ろすよりも早く、ルドヴィカの手が彼女の手首を掴んだ。 | ||
……くっ | ||
……そんなものがこの鎧に通じると思うか? | ||
……放せ! | ||
それに応じることなく、ルドヴィカは彼女の怒りに満ちた瞳をじっと覗き込む。 | ||
……やはりまだ、目覚めていないか。 | ||
ルドヴィカはつまらなそうに呟いて、リヴェータの右手を解放した。 | ||
……さあ、とっととその剣構えなさいよ! じゃなきゃこっちから── | ||
と、リヴェータは再度鞭を振り上げるが──。 | ||
全軍、退却だ! | ||
ルドヴィカは、リヴェータに背を向けて、 | ||
逃げる気? | ||
……ああ、お前の援軍も来たようだしな。 | ||
振り返ることなく、ルドヴィカは去って行く。 | ||
……援軍? | ||
聞こえてくる蹄の音にリヴェータが振り返ると、ジミーがやってくるのが見える。 | ||
……。 ……ったく。指揮官をおいて退却するってどういうことよ? | ||
……。 | ||
無言のまま、ジミーは首を横に振る。 | ||
……あんた、気絶でもしてたわけ? | ||
崖のかけらにでもあたったのだろう。 | ||
額にできた大きなコブをさすりながら、ジミーは申し訳なさそうに頷いた。 | ||
よろしかったんですか? リヴェータをあのまま逃がしてしまって……。 | ||
群れは散らした。それで終わりだ。つまらぬ喧嘩をする趣味はない。 | ||
しかし、イレ家の覇眼です。やはり目覚める前に潰してしまうべきかと……。 | ||
くどい! | ||
ルドヴィカはヤーボの言葉を一蹴する。 | ||
見てみたいのだ……。覇眼に目覚めたリヴェータを……。 | ||
その後、グラン・ファランクスは幾度もハーツ・オブ・クイーンと戦ったが── | ||
ルドヴィカがリヴェータを討つことはなかった。 |
コメント(0)
コメント
削除すると元に戻すことは出来ません。
よろしいですか?
今後表示しない