ラパパ

むかしむかし、
ふにゃふにゃした柔らかな生き物だけが住む異界に、
ラパパという生き物がいました。

ある日、ラパパは夢を見ました。

自分がとても強いドラゴンに変身し、
天敵のゴーラをやっつける、壮大で胸踊る夢です。

でも、目覚めたラパパはそのことをすっかり忘れて、
やわらかい巣の上でむにゃむにゃとあくびをしました。

ラパパには大切な家族がいます。

ぷぅぷぅと可愛い寝息を立てて、ラパパの上で寝相をうつ、少し小さめのラパパ。

名前をラパコといいます。

ラパコは小さいので、まだ普通のご飯をたべられません。
ラパパは果物を用意して、ラパコが目覚めるのを待とうと思いました。

ラパパは住み慣れた巣を出て、まずは近くの川へ向かいます。
のこぎり草に気をつけながら、えっちらおっちら。
ふにゃふにゃの体をポンポンと弾ませて、柔らかい羽根でふわふわと浮きます。

そうして少し川べりを散歩していると……

おや？　あそこあるのは蜜イチゴではありませんか。
蜜イチゴはラパコの大好物です。

ラパパは羽根を器用に使い蜜イチゴをいくつか摘むと、
急いで巣へと戻りました。

えっちらおっちら。

ふにゃふにゃの体をポンポンと弾ませて、
柔らかい羽根でふわふわと、蜜イチゴを落とさないように。

「ゴラーッ！」

ラパパが巣のちかくまで来ると、ゴーラの大きな声がひびきました。
思わずラパパが振り返ると、すぐそこまでゴーラが近づいてきていたのです！
驚いたラパパは蜜イチゴを放って、ゴーラへと向き直りました。

そう、ここで巣へ逃げ帰ってしまえば、
巣の場所をゴーラに教えてしまうことになるからです。

（そうなれば、ラパコがあぶない！）

だから、ラパパは決心します。
おそろしい牙と爪を持つ、ゴーラと闘うことを！

ふにゃふにゃの体をキュッと固くして、
ラパパはキッとゴーラを見つめます。

「ゴラーッ！」

こわい叫び声にも、ラパパは負けません。
ふにゃふにゃの体をポンポンと弾ませて、柔らかい羽根を何度も動かして、
そしてようやくゴーラをやっつけることができました。

今まで一度も勝てなかったゴーラに、ラパパは初めて勝つことができたのです。

逃げていくゴーラを見ながら、
ラパパはふにゃふにゃの体をポンポンと弾ませました。

（さあ、もう一度蜜イチゴを集めよう！）

巣ではラパコがお腹をすかせて待っているでしょう。
ふにゃふにゃした柔らかな生き物だけが住む異界は、今日も平和です。

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…………。
	吾輩は風船兎である。名前はラパパ。空を覆う天蓋を揺蕩う星と雲の霊獣にして神獣。
	我輩を取り巻く環境は、疑いようもなくふにゃふにゃである。
	吾輩は笑う。ふにゃふにゃに生まれしこの運命に腹を立てるのは簡単だ。
	運命に腹を立てること、それは即ち運命に弄ばれているのと同義。だから吾輩は笑う。
	ぷぅぷぅ。
	いくらでもぷぅぷぅと可愛げな鳴き声をこのラブリ☆フォルムからひねり出そう。
	そんな吾輩自身を見て、吾輩は吾輩を笑うのだ。いわばこれは吾輩の運命への反逆。
	……ぷぅぷぅ。ぷぅぷぅぷぅぷぅ。
	そう、吾輩はこのボディを……むっ……あわわわわっ！？
	ぷーーー！！
	ラパパは鳴き声と同時に空気を飲み込んで、体を大きく膨らませる。
	メェッ！？
	彼を抱きかかえていたカプレイは、それに驚いて尻もちをついた。
	ぷふぅ……！！
	ご、ごめんなさいごめんなさい。腹話術しただけじゃないですか！
	怒らないでくださいよぅラパパさん！
	ぷぅぷぅ……？
	いやぁ、なんというか、ラパパさんがすっごい難しいこと言ってたら面白いかなって……。
	そう？
	そうですよー、やっぱりギャップが一番おもしろいって思いま──。
	……えっ？
	……ふと、二人の間に緊張が走る。
	カプレイは冷静に考えながら混乱していた。今、ラパパさんは喋らなかったか？　と。
	ぷぅぷぅ。
	そして、そんな疑いを持ったカプレイを察したのか、ラパパは一目散に逃げ出した。
	……怪しい！
	言うが早いか、彼女はホウキに飛び乗りラパパを追う！
	待ってくださーい！！
	ぷぅぷぅ！　ぷぅぷぅ！！
	メエェ、速すぎますー！
	迅速、安全、やらわかいを信条としている「カプレイうんゆ」特製のホウキ。
	そのホウキでも追いつけない速度で、ラパパはふにゃふにゃと飛んでいたのだ。
	（み、見失っちゃう……）
	彼女がそう思った時、ラパパは突然カーブし、洞窟の中へと飛び込んだ！
	これはチャンス！　待ってください～！！
	大きな声を上げながら、カプレイは洞窟へと突っ込んでいく。
	だが、そこにいたのは……！！
	（戦闘終了後）
	め、メエェ……魔物に襲われそうになるなんて、ひどい目にあいました……。
	カプレイは涙目で頭をさすりながら、もう一度メェと鳴き声をあげる。
	どうやら洞窟に入った時にオデコを打ってしまったようだ。
	……はっ！　そ、そうだ、ラパパさんは──。
	あわてて周囲を見回すと、何故か周囲には何もない。
	真っ黒な空間にカプレイはひとり立っていて、いつの間にか洞窟もラパパも消えていた。
	ここは……？
	どこだろう、という言葉は、ついにカプレイの口からは出てこなかった。
	なぜなら、振り返ったその先に……。
	神々しいなにかが、鎮座していたからである。
	ききなさい、カプレイちゃん。
	な……な……！？
	わたしたちのことを　ねほりはほり　さぐるのはおやめなさい。
	で、でも気になるんですけど……。
	さっき、ラパパさんと私、お話できていたような気がするんです！
	涙ながらにそう言うカプレイを見て、神々しいなにかは優しい瞳で彼女を見つめ……。
	きのせいです。
	そうピシャリと言い放った。
	メッ！？　あ、はい。
	さあ　めざめなさい　カプレイちゃん。
	ゆうびんカバンを　また　なくしても　しりませんよ……。
	…………はっ！？
	──と目が覚めた時、カプレイはいつの間にかラパパを枕にして眠っていた。
	どうやらオデコを打って気絶してしまっていたようだ。
	ラパパは、そんな彼女を介抱していたらしい。
	ぷぅ。
	ラパパさん、優しい……！　ありがとうございますー！
	カプレイは感動しながらラパパを抱きしめる。
	だが、この時カプレイは気づいていなかった。
	カプレイがぶつけたオデコに、見覚えのある巻き毛の跡がしっかりとついているのを。
	もしかして、カプレイを気絶させたのは……。
	ラパ──。
おやめなさい。
	はい。めでたしめでたしです。

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