退路なき戦い
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見事にまあ、やってくれたな。あいつら。 | ||
魔道艇の外で、かつて拠点だった場所を眺めていると、ヴィラムが話しかけてきた。 | ||
ベルク元帥は──ドルキマス国はどうなっている!? | ||
クラリアが声を荒らげ、ローヴィに詰め寄る。 | ||
元帥閣下は依然音信が途絶えています。2名の大将以下、11名の中将の行方もしれません。 | ||
冗談じゃないッ! 失態だッ! | ||
苛立ちを抑えきれず、クラリアは地面を蹴り上げた。 | ||
あのディートリヒ・ベルクが行方不明だなんて、君にとっても認められなかった。 | ||
もしかすると既にやられた可能性もありますな。中将。 | ||
冷淡な言葉を前に、クラリアの表情が一変する。 | ||
我が国の要塞は既に〈イグノビリウム〉の手に渡っている模様です。 | ||
また所有していた国土の約3割程度を侵略されたとの報告がありました。 | ||
ずいぶんと粘ったつもりだったが、落とされるときはあっさりいくもんだな。 | ||
このままじゃ、敗戦は確実にゃ。 | ||
君も、そうだね、と言ってあたりを見回した。 | ||
兵の士気が落ちているだけではない。 | ||
シャルルリエ軍団も、何とかあの包囲網から逃れることができたが、 | ||
ごっそりと戦力を奪われてしまっている。 | ||
あー、どうするんです? 中将閣下。 | ||
一時的ではありますが、軍の指揮権はアンタにあるんだ。決めてくださいよ。 | ||
貴官の魔道艇に不備は? | ||
君は首を横に振る。 | ||
〈イグノビリウム〉の戦艦から放たれる特大の魔法を受けてなお、君の魔道艇は沈まなかった。 | ||
白旗上げて許しを請うたところで、通じる相手じゃない。 | ||
身ぐるみ剥がされて、"痛い目"を見るくらいなら、いっそのこと逃げてみますか? | ||
逃げる……ここからどう逃げるというのだろうか? | ||
海の向こう? 確かに戦艦なら海を越えることはできるかもしれない。 | ||
だがその先に何があるのだろう? まだ平和に暮らしている国々が存在しているのだろうか? | ||
あるいは、既に侵略され、君が見てきたように苦しい日々を過ごす人々が…… | ||
"もはやそんな人がいるかさえ、怪しい"とさえ思える状況だ。 | ||
逃げるとは言っても、戦艦に乗れる人間には限りがある。 | ||
ま、ドルキマスにいったいどれほどの人間が残っているかって話ではありますがね。 | ||
ヴィラムが髪を掻きあげたその瞬間、 | ||
──あづッ!? な、何するんですか、中将! | ||
逃げる!? ふざけるな! 我が軍が撤退することなどありえない! | ||
しかし中将、お言葉ですがね、俺たちは敵を侮って罠にハマった間抜けだ。 | ||
今、退かなければ待っているのは── | ||
うぐッ! 待ってください、中将。本当に痛い! | ||
ヴィラムのすねを蹴り飛ばしたクラリアが、君の目の前まで近づいてきて言う。 | ||
まだ国民は生きている。だから国も生きている。 | ||
わたしがいればシャルルリエ軍団が死なぬように、国民がいるうちは国も死なない。 | ||
だから命を賭して守る。国と、国に住まう人々を。それにな、貴様ら。わたしは命令を受けたぞ。 | ||
撃滅しろと! 敵を殲滅し、大陸の全てを取り戻せと! わたしはベルク元帥から命令を受けた! | ||
退けるものか。船を失い、首だけになろうと、わたしは奴らを撃滅する。 いくぞ魔法使い! | ||
そう言ってクラリアが歩き出す。 | ||
──その熱いクラリアの言葉に引っ張られるよう君も歩を進めてしまう。 | ||
いや……キミ、どれだけこの空気に流されてるにゃ。結果的に作戦とか何もないにゃ。 | ||
しかし、国や人々を守ると言われては、その思いを無下にすることはできない。 | ||
待ってくださいよ、中将。アンタひとりじゃ何もできないでしょう! | ||
……無策で飛びこむなんて、理解に苦しみます。 | ||
そう言いながら、残ったふたりも君たちのあとをついてくる。 | ||
少なくとも、ドルキマスの重要拠点だけは、取り返さなければならない。 | ||
魔道艇を進めながら、君は近づいてくる要塞に目を向けた。 | ||
あれがドルキマスが持っていたっていう要塞みたいにゃ。 | ||
ドルキマス国の前王が、戦争から身を守るために建てさせたという、まるでお城のような建造物。 | ||
敵から身を守るだけではなく、迎撃することができる重要な拠点として機能していたという。 | ||
君が所属するシャルルリエ軍団、ほか複数の軍が国から離れていたため、 | ||
今回のようなことが起こった。 | ||
〈イグノビリウム〉が色々なところに現れたから、つられて軍を出すことになったにゃ。 | ||
人に限らず、近くにあるものを何でもかんでも踏み潰すだけって聞いてたけど、 | ||
実際は、作戦を立てる人がいたってことにゃ。 | ||
そのとおりだ、君も目の前のことに精一杯で、そこまで考えが回っていなかった。 | ||
事実、無数の戦艦、無数の兵たちがただただ攻撃してくる、というだけだったのだから。 | ||
貴官は、何故このドルキマスに来たのです? | ||
突然の質問に、君は答えられずにいた。 | ||
貴官が魔道艇を使い、いったい何を目論んでいたのか、と考えていました。 | ||
怪しい動きを見せたら撃つことも躊躇わないつもりでしたが…… | ||
貴官にそのような様子は見受けられません。魔道艇という力があるのに。 | ||
君はローヴィの問いに答えず、先行する戦艦に続く。 | ||
答えず──ではなく、答えられなかったのかもしれない。 | ||
あの要塞は、ドルキマスの軍事拠点でもありました。 | ||
それを察したのか、ローヴィが話題を変えた。 | ||
無論、そこに全てがあるわけではありませんが、アレを落とされると立ちゆかなくなります。 | ||
事実、我がドルキマスは過去に例を見ない損害を被りました。 | ||
軍のえらい人たちが軒並みないくなったにゃ。 | ||
万全の軍は、ほぼなくなったといっていいでしょう。 | ||
これからどうするの? と君は訊く。 | ||
シャルルリエ中将に従います。 | ||
それでいいの? と続ける。 | ||
中将のお言葉を聞き、無謀と思う反面、我々が立ち向かわなければならない、と思いました。 | ||
貴官に心配されるまでもなく、これでいいと思うからこそ、私はここにいます。 | ||
ドルキマスは、戦わねばなりません。勝つために。 |
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