調香師と素材争奪戦
(0コメント)| 奇跡の香水を作るために必要となる、3つの素材のうちの一つ──。 | ||
| 「月輪花」の生息が噂されている場所に、君たちはやってきた。 | ||
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| す、すごい場所にゃ!? | ![]() | |
| 湖底が浅く、全体が白い物体で埋め尽くされている。 | ||
| その白い物体とは、塩の結晶のようだ。 | ||
| こんな景色は、クエス=アリアスでは見たことがない。 | ||
![]() | ふぁあああ……っ!? | |
| 見渡す限り広がる、塩の結晶で覆われた大きな湖を見てファムは目を見開いていた。 | ||
![]() | 魔法使いさん! 私は、今夢をみているのでしょうか? | |
| 夢じゃないよ、と君は答える。 | ||
![]() | でも、この光景が信じられないです。私の頬、痛くないようにつねってもらえませんか? | |
| 痛くなきゃ意味ないにゃ! | ![]() | |
| ファムさんは、天上岬しか知りませんからね。驚くのもやむを得ないことです。 | ![]() | |
| ヤネットの周りにいるフモーフたちも、塩の上を跳び回ってはしゃいでいた。 | ||
| 伝説の調香師フロリアさんが残したレシピには、ここに生えている月輪花が必要だとあります。 | ![]() | |
![]() | ということは、お母さまもここに来たことがあるんですね? | |
| そうかもしれませんね。いや、きっと来たことあると思います。 | ![]() | |
| ふたりのやりとりを聞いていたウィズは、首をかしげた。 | ||
| どうして、そこでファムのお母さんが出てくるにゃ? | ![]() | |
| あ、言ってませんでしたか? 伝説の調香師フロリアとは、ファムさんのお母さまのことです。 | ![]() | |
| なんと。 | ||
![]() | お母さまは、私が大きくなる前に亡くなりました。 | |
![]() | ですので、私はお母さまのことは、ほとんど──いえ、まったく覚えていないんです。 | |
| そうなのかにゃ。それは気の毒にゃ。 | ![]() | |
![]() | でも、ここにお母さまが来たかもしれないと考えると興奮を抑えきれません。 | |
![]() | お姉さまにも教えてあげたいです。魔法使いさん、記念にここの塩を持って帰りませんか? | |
| ファムさん! お土産は、荷物になるからあとにしてくださいね。 | ![]() | |
| もふもふっ!? | ![]() | |
| フモーフにまで怒られたにゃ。 | ![]() | |
![]() | そうでした。旅の基本でしたね? | |
| てへへっとファムは頭を掻いた。 | ||
| 気を取り直して、君たちは月輪花を探すことにした。 | ||
| その名前からして、月に似た花なのだろうか? | ||
![]() 私が尊敬するフロリアの名前が出ていたけど……もしかして、君たちも調香師なの? | ||
| 女の子が近づいてくる。 | ||
| どうやら今の会話を聞かれていたらしい。 | ||
| もしかして、あなたも調香師なのですか? お姉さま以外の調香師にお会いするのは初めてです。 | ![]() | |
| ファムは能天気に女の子に近づいていく。 | ||
| 調香師というだけで仲間意識を感じたのだろう。 | ||
| しかし、ファムはあまりにも無防備だった。 | ||
| 瞬間、ひとりの見知らぬ男が飛び出してきて、ファムの前に立ちはだかった。 | ||
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| きゃっ! | ![]() | |
![]() | それ以上、ナルナに近づくな。俺の依頼主に危害を加えるつもりなら相手になる。 | |
| 男は、奇妙な形の銃を構えていた。 | ||
| 銃口は、完全にファムに向けられている。 | ||
![]() | リグス、大丈夫だよ。フロリアの名前を知ってるところを見ると、この子も調香師みたい。 | |
![]() | 大方、月輪花を探しに来たんでしょ? あ、その顔は図星みたいね? | |
| ナルナと呼ばれた少女の手には、ファムが持っているものと同じ奇跡の香水のレシピが……。 | ||
| あなたもレシピを手に入れたのですか? いったいどこで……? | ![]() | |
| レシピはひとつじゃないのかにゃ? | ![]() | |
| ヤネットは無言で首を振っている。 | ||
![]() | 奇跡の香水を再現しようとしているのは、あなたたちだけじゃないってことだよ。 | |
![]() | 調香師なら誰だって「奇跡の香水」を自分の手で再現してみたいと思うもの。 | |
| 確かにそうですね。 | ![]() | |
![]() | 古い記憶を蘇らせるこのとのできる香水。故に人は、それを「奇跡の香水」と呼ぶか……。 | |
| そんなにすごい香水だったんですか!? | ![]() | |
| 知らなかったのかにゃ!? | ![]() | |
| さすがのウィズも呆れ気味だった。 | ||
![]() | そんな中途半端な覚悟で挑むつもりなら、やめた方がいいと思うな。 | |
![]() | 伝説の調香師フロリアの遺志を継ぐのは、この私──覚悟がない人は、引っ込んでなさい。 | |
| なっ! | ![]() | |
| ナルナから叩き付けられた挑戦状。 | ||
| まさか、挑戦状を叩き付けた相手が、尊敬するフロリアの娘だとは知らないようだが……。 | ||
| なんにも知らないようにゃ? 実は、ここにいるファムは──。 | ![]() | |
| 君は、ウィズを制止した。 | ||
| これは調香師同士の問題だ。 | ||
| 部外者は口を挟まない方がいいと、君はささやく。 | ||
![]() | 月輪花は、絶対に先に見つけてみせる! いくわよ、リグス! | |
![]() | ああ……。 | |
| 月輪花を求めて、ふたりは行ってしまった。 | ||
| 取り残されたファムは、ナルナとリグスの背中を眺めながら肩を震わせている……。 | ||
| さすがのファムも、怒ってるにゃ? | ![]() | |
| と、思ったがどうやら違うようだ。 | ||
| あのナルナって人、格好よかったです。ああいう調香師がいたなんて……。 | ![]() | |
| ウィズはがくっと肩を落とした。 | ||
| ファムさんらしいですね。 | ![]() | |
| でも、私も負けるつもりはありません。 | ![]() | |
| フロリアの娘として、お母さまの香水……絶対に先に作ってみせます。 | ![]() | |
| その意気にゃ! | ![]() | |
![]() ねぇ、リグス。さっきの人たち、なんだか統一感のないグループだったよね。 油断しない方がいい。奇跡の香水のレシピが出回ってからは、にわか調香師が急増した。 | ||
| 確かに一緒にいたフモーフを連れた女の子は、動物使いっぽかったし……。 | ![]() | |
| 話しながら、背後からファムたちが追ってくるのに気づく。 | ||
![]() | さっきの奴らだ。どうする、追い払うか? | |
| いいよ。こっちの邪魔しない限り、ほっとこうよ。それより月輪花だね。 | ![]() | |
| 見渡したところ、それらしい花どころか、塩で埋め尽くされた湖には、植物ひとつ生えていない。 | ||
| 本当に、ここに月輪花はあるのだろうか? | ||
![]() あります! 私たちのお母さまが、嘘をつくわけありません! だけど、これだけ探しても見当たりませんよ? | ||
![]() | レシピをよく見れば、きっとヒントが隠されていると思います。 | |
| ヒントにゃ? | ![]() | |
| ファムは、奇跡の香水のレシピを穴が開くぐらい睨み付けた。 | ||
![]() | ぬぬぬぬぬぬ……。 | |
| すごい気迫にゃ! | ![]() | |
![]() | ふああっ! | |
| なにか、わかったにゃ!? | ![]() | |
![]() | いえ、頭を使いすぎて頭痛がしてきました……。ちょっと休みましょう。 | |
| レシピを持ったまま、ファムはへなへなと塩の上に腰を下ろした。 | ||
| そんな結果になるだろうと思いました。 | ![]() | |
![]() | うう……魔法使いさんは、なにか知りませんか? 月輪花について。 | |
| 君は、そんな花は知らないと答える。 | ||
| だけど、その名前からして「月」に関係しているのは間違いないだろう。 | ||
![]() | つき? つきってなんですか? | |
| そうにゃ。天上岬には、夜が来ないんだったにゃ。 | ![]() | |
| だからファムは、とこしえの樹に登るまで夜を知らなかった。 | ||
| 夜を知らなかったということは、当然、月も知らない。 | ||
| ひょっとして、月輪花は夜にしか咲かない花なのかもしれない……。 | ||
| 君が、その可能性を口にした瞬間──。 | ||
| 少し離れた場所から、先ほど会った調香師ナルナの大きな声が聞こえてきた。 | ||
そうだ、リグス! きっと夜だよ! | ||
| そうにゃ、月にゃ! きっと夜になったら生えてくる草なんだにゃ! | ![]() | |
| あー、そうですね! | ![]() | |
| お互いの視線が交錯する。 | ||
![]() | はっ!! 聞かれちゃってた? しまったー。 | |
| 話を聞かれていたことに気づいたナルナは、慌てて両手で口を押さえる。 | ||
![]() | 盗み聞きするとは……。そういう卑怯なことをする奴は許せん。 | |
| リグスは、愛用の銃に手をかける。 | ||
| 盗み聞きしてたのは、そっちの方にゃ! | ![]() | |
![]() | やめようよリグス。どのみち、月輪花を手に入れるのは、私たちの方が先だもん。 | |
![]() | ナルナがいいのなら、俺はそれでいい。 | |
| リグスは簡単に引き下がった。 | ||
| なんだか、仲のいいふたりにゃ。 | ![]() | |
| お互いに信頼を寄せているのがわかるやりとりだった。 | ||
![]() | それより魔物だ。ナルナ、下がっていろ。 | |
| ま、魔物ですか! 魔法使いさんどうしましょう? | ![]() | |
| 君は、ここは任せてと前に進み出る。 | ||
| 同じくナルナを守るように魔物の前に出たリグスと目が合う。 | ||
![]() 俺の邪魔をしなければ、それでいい。 | ||
| その一言にむっとしながらも、君は戦闘態勢を取った。 | ||
| (戦闘終了後) | ||
| 恐らく、夜になったら月輪花が咲くのだろう。 | ||
| 天上岬に夜は来ないが、それ以外の場所では普通に夜が来るらしい。 | ||
| ナルナたちが、当たり前のように夜の存在を知っていたのがその証拠。 | ||
| だから君たちは、塩の湖で夜が来るのを待つことにした。 | ||
| 待っている間にお茶にしませんか? お姉さまが作ったハーブティーはいかがです? | ![]() | |
| ファムは物怖じせず、ナルナたちにお茶を勧める。 | ||
![]() | いらないわ。 | |
![]() | まさか、毒を盛ろうという魂胆ではないだろうな? | |
| 疑り深いリグス。 | ||
| 先ほどから、ナルナにぴたりと張り付いて片時も離れずに守っている。 | ||
| おふたりは調香師なんですか? こちらの方は、調香師に見えませんが……。 | ![]() | |
![]() | 俺は、調香師ではない。ナルナに雇われいてるマテリアルハンターだ。 | |
| マテリアルハンター? | ![]() | |
| 聞いたことないですね。 | ![]() | |
| リグスは、無言で銃を手にして整備を始めた。 | ||
![]() | 以前は、魔物を狩って賞金を稼ぐハンターだったが、命を奪うのに飽きた。 | |
| その話を聞いていたフモーフたちが、興奮気味に騒ぎ出す。 | ||
| フモーフちゃん、落ち着くのよ! あなたたちは魔物じゃないでしょ? ほ~ら、こちょこちょ~。 | ![]() | |
![]() | 今はマテリアル……ナルナが香水を作るために必要とする素材探しを手伝っている。 | |
![]() | いざという時の護衛も兼ねてもらっているわけなの。 | |
| 私と魔法使いさんのような関係なんですかね? | ![]() | |
| キミは、ファムに雇われた護衛だったのかにゃ? | ![]() | |
| 違うよ、と君は答える。 | ||
| ファムが心配だから、一緒についてきただけであって、雇われているわけじゃない。 | ||
| そ、そうだったんですか? てっきり魔法使いさんは、私を護衛してくれているんだとばかり……。 | ![]() | |
| にゃはは、それもいいかもにゃ。 | ![]() | |
| 一段落ついた君たちは、ナルナたちと少し離れた場所で夜を待つことにした。 | ||
| まだ日が高い。夜になるまで、まだ当分かかりそうだ。 | ||
| でも、驚きました。一度も顔を合わせた事のない人が、私たちのお母さまのこと知ってるなんて。 | ![]() | |
| それだけ調香師の間では有名な人ですからね。フロリアさんは……。 | ![]() | |
うおおおおおおおおお~~~んっ!? | ||
| 魔物らしい遠吠えが、どこからともなく聞こえてきた。 | ||
| ファムが、慌てて君にすがりついてくる。 | ||
| 魔法使いさん! 今日ばかりは、私の護衛になって欲しいです! | ![]() | |
| 少ないですけど、報酬もお支払いします。 | ![]() | |
| と言って、ファムはクッキーの入った小袋を差し出す。 | ||
| 報酬なんていらないよ、と君は差し出されたものを断る。 | ||
| そんなものをもらわなくても、ファムを守ってあげるつもりだ。 | ||
| だが、現れたのは凶暴な牙を持った魔物ではなかった。 | ||
![]() 今のは、オオカミの鳴き声ですね。この辺りには、狼男が出没するという噂もあります。 | ||
| 突然、現れた少年。 | ||
| ナルナたちの知り合いかと思ったが、リグスは警戒心をむき出しにしている。 | ||
![]() | おっと、驚かせてしまってすいません。 | |
| 周囲の空気を察して、少年は頭を下げた。 | ||
![]() | 僕は、マテリアル研究者のロニール・クムと言います。 | |
![]() | 色々な効果を持つ香水や、それを作る調香師に興味があって、独自で研究してるんですよ。 | |
![]() | そこにいるあなた、調香師でしょ? その格好ですぐにわかりましたよ。 | |
| と、ロニールはファムを指さした。 | ||
| はい。調香師です……。お姉さまには敵いませんが。 | ![]() | |
| 調香師という言葉を聞いて、ロニールはにっこり微笑んだ。 | ||
![]() | つまり、ここには月輪花を探しに来たんですね? | |
| 月輪花を知ってるのかにゃ? | ![]() | |
![]() | 当然です。図書館で偶然見つけた奇跡の香水のレシピを複写して巷にばらまいたのは僕ですよ? | |
| にゃにゃにゃ? | ![]() | |
| ロニールは、さわやかな笑顔を浮かべていた。 | ||
| その表情に悪意は感じられないが、果たしてロニールの狙いはいったい……。 | ||
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