粉砕チョコハンマー
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「……ねえ、エミリア。あれ何?」
「んー? さぁ、なんだろう……」
クロム・マグナ魔道学園がある永世中立都市の、小さな喫茶店。
エミリアとその友人であるジェシカは、クロム・マグナ魔道学園の方角に、
地上から空に向かって真っ直ぐ伸びていく謎の煙を見て首をかしげた。
「なんだろ、あれ」
「さぁ? またあっちの学園長が変なことやってんじゃないの?」
クロム・マグナ魔道学園に再び何らかの異常が起きたのかもしれない。
そうなれば、兄であるジョージが再び危険に晒される可能性がある。
「お兄ちゃん、大丈夫かな……」
「心配なら見てきなよ、私しばらくここにいるからさ」
「……うん、すぐ戻ってくるね! ありがとジェシカ!」
「はいはい、行ってらっしゃいませー」
半分呆れたように苦笑を返すジェシカに見送られ、
エミリアは店を飛び出す。
そういえば、この間渡したチョコレートの感想も聞いていない。
(あのチョコは自信作だもんね!
きっとお兄ちゃんも言葉も出ないくらい感動してくれるはず!)
果たして、クロム・マグナ魔道学園に着いたエミリアは声も出せずに驚いていた。
「もらっちゃったんだゼぇ~~~~!!」
眼前にはデレデレのジョージ、
そしてその手にはチョコレートらしき箱があった。
しかもそれは妙に気合が入った包装をされており、
結ばれたリボンには「ジョージ先輩へ」というメッセージカードまで挟まっている。
「いやぁ~~時代がオレのコーデに追いついたんだなぁ~~~~!!」
「えええ……」
「ジョージ先輩のお洋服、すごくステキですぅ♪
一目見てトリコになりましたぁ☆」
「うわぁ……」
クネクネとゴツい体をくねらせながらメッセージカードを読み上げるジョージに、
さすがのエミリアも可愛い顔を歪ませてドン引きする。
だがジョージはそれに気づかず、
ただただチョコレートの自慢だけを繰り広げていた。
「これ見てくれよォ~、抹茶味のチョコとか入ってスゲぇ凝ってるんだぜェ~!!
いやぁ~ひとつでも貰えて良かったぜマジで……!!」
……ふと、その言葉にエミリアはカチンと来る。
「──『ひとつでも』?
ねえお兄ちゃん、私のあげたチョコは?
もしかして食べてないなんてことないよね」
ギシリ、と空気がきしむ。瞬間的に張り詰めた雰囲気に、ジョージは息を呑んだ。
「……食べたぜ?」
「中身どんなのだったか覚えてる?」
真顔で聞くエミリア。
ジョージもスゥッ……と真顔に変わり、姿勢を正して視線をそらす。
「……普通のチョコだったぜ?」
「へぇ、そう……普通のチョコ……それじゃあ味はどうだった?」
ジョージが逸らした視線の先に回り込みながら、
エミリアは満面の笑みを浮かべている。
「……うまかったぜ?」
「それじゃあ、この渡しそびれていた一番良い出来のチョコレートをあげます」
「やったぁ」
「今食べて感想をください」
「はい」
有無を言わさない強烈な圧力によって、
ジョージは淀みない動きでエミリアから受け取ったチョコレートの箱を開く。
中には色はほぼ漆黒で、ところどころ赤い線が入っている多面体のチョコがあった。
自然に出来たものかは解らないが、
その表面には見たことも無い生命体(?)を象った奇怪な装飾が施されている。
一見して食物とわからないそれを、迷いなくジョージは口に運んだ。
「ヘドロンッ」
謎の言葉を叫びながら、ジョージは体をひねりつつ地面に突っ伏す。
「んもー、そんなところで寝ちゃだめだよお兄ちゃん。
おかわりいっぱいありますからねぇ」
笑顔のエミリアが持つバスケットには、大量のチョコが顔を出している。
ジョージの人生において、最大級の絶望との戦いが始まろうとしていた。
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