目覚めたオシャレ漢
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「……ジよ、……ージよ……目覚めよ……」
高いようで、低いようで、男性的でもあり、女性的でもある声が聴こえる。
周囲一面の暗闇の中、ジョージはその謎の声を聞いて意識を取り戻した。
「……だ、誰だテメェ……! どこのどいつだ!」
「私か……? 私は……神……チョコ神……」
「は?」
「お前が食べたチョコレートに宿った……チョコレートの神……」
そう言われ、ジョージは先ほど食べたチョコレートを思い出す。
確かアレは多面体で、赤黒い線がところどころに入った、
生物的な表面を持っていた気がする。
「えっ、あれマジでチョコレートだったのか」
「なっ!? それはちょっとさすがに失礼……ではないか……?」
一瞬感情的になったチョコレート神は、すぐに平静を取り戻す。
しかしチョコレート神がなぜ感情的になったのか、
ジョージは気にする余裕がなかった。
「おっ、おい! 神でもなんでもいい! ここはどこだ……!?」
「ここはお前の精神の中……強い想いが込められたチョコを食べたが故に
……お前は導かれたのだ……」
「強い想い……?」
「そう……あのチョコに込められた……お前に対する強く深い愛情が……
お前をここに呼んだのだ……」
ジョージはふとエミリアのチョコレートの味を思い出す。
口に入れた瞬間、味覚と同時に脳を破壊されるかと思うほどの情報の濁流が、
舌の先から脳天とつま先まで激烈に走ったところまでは記憶にあった。
「あれが……深い愛情の味……」
ゴクリとジョージはツバを飲み込む。
果たしてあれを味と呼んで良いかは疑問ではあったが、
とはいえあれほど強烈なパンチのある何かをもたらす感情であるならば、
それはきっと深くて濃いのだろうとジョージは理解する。
「そうか……エミリアはそこまで俺のことを……」
妹の自分に対する真っ直ぐで深い愛情に、ジョージは思わず涙する。
昨日迷わず処分してしまった、バスケットいっぱいに入ったあの黒々とした
刺激臭を放つよくわからない物体類にも、
きっと妹の気持ちが詰まっていたはずなのに。
「俺はなんてことを……」
そう言って泣き崩れるジョージに、チョコレート神は優しく声をかけた。
「気を病むことはない……よいか……チョコをくれた者を大事にするのだぞ……
具体的には街の南にある洋服店の……入って左側の棚の……一番上の段……
そこの最も右に位置する靴をプレゼントするのだ……贈り物用に包装してもらい……
かわいいピンクのリボンをつけてもらうのも忘れるでないぞ……
ちなみにサイズはSだ……よいな……」
「んっ!? えっ、あ、はい」
「良い心がけだ……よいか……街の南の洋服店であるぞ……」
段々と小さくなるチョコレート神の声。
ジョージの視界は少しずつ光に包まれ、そして……。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
ジョージは自分を呼ぶ声に目を覚ました。
ふと顔をあげると、そこには心配そうに彼を見つめるエミリアの姿がある。
「お兄ちゃん、大丈夫……?」
「ああ、大丈夫だ……」
そうだ、チョコレート神に言われたように、
エミリアは俺のことをこうやっていつも心配してくれる。
そんな妹がくれたチョコを、ちょっと刺激臭がするからって
処分してしまった自分が、情けなくて仕方なかった。
「ごめんな……エミリア……さっきのチョコレート……
俺にはちょっとむずかしい味でよ……」
彼は倒れたまま、意識を失う寸前に言われていた
『チョコの味の感想をくれ』という妹の依頼を見事に完遂する。
「きちんとお礼するからよ……こんど洋服屋に行こうな……」
「お兄ちゃん……!」
夕日に照らされながら、彼はニッコリと妹に向かって笑いかける。
そこには、真の男の姿があった。
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