王の最後
(0コメント)![]() ……これだけの技術力を誇りながら、決してあの者は外に出なかった。 | ||
| 過去の遺物など、もはや信じようにも信じられません。 | ![]() | |
| 要塞にいた黒い者を倒し、外へとおびき出すことができたものの、 | ||
| 驚異の大戦艦を前に、しばらく口を開くことができなかった。 | ||
| 〈イグノビリウム〉の大戦艦。 | ||
| 今まで見てきたものとは、全てが違う。 | ||
| 中に入り込んだ瞬間に訪れた強烈な圧迫感は、息をすることさえ困難になるほどだった。 | ||
| 寒気がするにゃ……。 | ![]() | |
| 進め。命をなげうってでも、この戦艦を沈めろ。 | ![]() | |
| これを落とせば── | ||
| この大陸にわだかまっていた魔法という遺物を、全て捨て去ることができる。 | ||
| この長い時間、彼らといてわかったのは、彼ら自身は魔法を必要としていないということ。 | ||
| そういう生き方をしてこなかった、といえばそれまでだが、 | ||
| 君にとっては、それはそれでありなのかもしれない、と不思議な感情をいだかせるものだった。 | ||
| ローヴィ、撃て。 | ![]() | |
| 戦艦内部を歩いていると、"あの黒い者"と再び相まみえた。 | ||
![]() 異界の者よ。我が力──取り戻させてもらった。 | ||
![]() | 魔法の体現者……異界の者よ。貴様を壊し、私は私の世界を広げよう。 | |
| なんと言っている? | ![]() | |
| 君は、眼前の敵が言っている言葉をそのまま伝えた。 | ||
| 壊す……ふん、壊す? 馬鹿をいえ、壊せるものか。 | ![]() | |
| たかが戦艦10隻を落とした程度で侵入を許される貴君が、何を壊すというのだ。 | ![]() | |
| ディートリヒは、"小馬鹿にするような声音で"暗黒のものに声をかける。 | ||
![]() | 飽いて飢えるまで、この肉体は血肉を求め続ける。 | |
![]() | 喰らうために、誘い込まれたとも知らずのうのうと近づいてきた── | |
![]() | 異界の者よ。その肉を、我が肉体の糧とさせろ。 | |
| (戦闘終了後) | ||
![]() ……な、くッ、わ、我が肉体が……。 消えてゆく……この心、この体……滅びゆくのか……。 | ||
| …………。 | ![]() | |
| ディートリヒは、ただ黒を見下ろしていた。 | ||
![]() | この世界はまだ狭すぎる。さらなる広大を求めた我が身が…… | |
![]() | 生命たりえない、其の方に……我が心が……。 | |
| 暗黒は高く手を伸ばす。 | ||
| そこには何もない。 | ||
| ただ広い世界が欲しかったから、侵略したというのか。 | ||
| 何のため、人々の世を奪ったのか。 | ||
| そんな疑問を、君は投げかけようとした。 | ||
| だが── | ||
| 無駄だ。聞くまでもない。 | ![]() | |
![]() | だが──我が心、我が思念は……幾度も蘇る……。 | |
![]() | 次の世界のため……この身の世界のため……幾度も……幾度も──。 | |
| そして〈イグノビリウム〉を自称したその敵は、 | ||
| 音もなく、灰のようになって散っていった。 | ||
| ……出ましょう。もはやここに用はありません。 | ![]() | |
| ローヴィに止められ、叶わなかった。 | ||
| 早く出なきゃ、この船もどうなるかわからないにゃ。 | ![]() | |
| 君は振り返り、〈イグノビリウム〉がいた場所を見た。 | ||
| 最後に聞いた言葉は、執念、あるいは呪詛だったのかもしれない。 | ||
| いや……魔法文明を生き、滅んでいった哀れな"何か"の最後の魔法だったのかもしれない。 | ||
| ………… | ||
| …… | ||
![]() どこか憂いを秘めたディートリヒ・ベルクの眼差しを、君は今でも思い出す。 黒く淀み、まるでこの世界にひとりきりであるかのような表情を見せる男。 ディートリヒという男は、もしかすると──"求めていたのかもしれない" | ||
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