意外とモテる
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「おや、シャーリー君ではないか」
「なっ、なんであんたココに……!?」
「あわわわわわ……!?」
焦るサロメと慌てふためくシャーリーを尻目に、
ダンケルは落ち着き払った声でこう続けた。
「丁度よかった。キミに頼みがあるのだよ」
ツカツカと彼はシャーリーに近寄ると、
異様なほどに満面の笑みを浮かべて彼女の肩にそっと手を置く。
「まずここで見たこと、聞いたことは他言無用だ。いいね?」
「はっはいぃ……!」
「恐怖と焦燥に染まった良い返事だ。
ちなみに私とサロメ先生の関係は清廉潔白のそれであることも
付け加えておこう。そしてここからが本題になる」
──瞬間、部屋の中の空気がズッ……と重くなる。
ダンケルの背中からは闇色のオーラがジワリと立ち上がり、
彼の瞳は猛獣のように鋭い殺気を得てシャーリーを睨んだ。
「ひっ……!」
彼女は全身の血管に氷水を流し込まれたような、冷たく凄烈な恐怖に襲われる。
その感覚をシャーリーは覚えていた。
少し前、闇に落ちたダンケルと対峙した、あの時の──。
その時、そっと彼女の肩に手が置かれる。
ダンケルの瞳に見据えられたせいで
ガチガチと歯の根の合わないシャーリーが振り返ると、
そこにはサロメの姿があった。
彼女の手が置かれた場所から、
自分の恐怖に凍った心がゆっくりと溶けていくのがわかる。
「大丈夫。学園長は正気よ」
「すまないシャーリー君、驚かせるつもりはなかった。
『これ』を出すとこうなるものでね……
臨海学校の時にサングラスをかけていたのはこのためだ」
ふっ、とダンケルは困った笑いを浮かべて視線を逸らす。
その様子からシャーリーはダンケルに害意がないという真意を察すると、
震える声で聞いた。
「あ、あの……わたしに頼みって……な、なんですか……?」
「この私の魔力の根源を解析して欲しい。
キミなら、それを叶える発明品を制作できるはずだ」
「どうして……?」
「校舎がクエス=アリアスという異界へ飛ばされた事件を覚えているね」
「は、はい」
「この闇の魔力は、あの時私に身についたものなのだよ」
ダンケルはそう言うと、眉間にシワを寄せて腕を組み、言葉を続ける。
「魔界の吸血鬼の血を引いているとはいえ、私は種族としては人間だ。
あの事件までは、私の得意とするのは水の魔法だったのだよ」
「ほ、本当ですか? じゃあ──」
「そう、あの時私の闇を目覚めさせ、劇的な変化をもたらした存在……
その尻尾をつかむ必要があるのだ」
「で、でも魔力の根源を探るだなんて……
心の中を掘り返すようなものじゃないですか。
そんなことしたら──」
「いいのだ、シャーリー君」
優しい口調で、ダンケルは言う。
彼は一度目を伏せ、決意を込めた瞳をもう一度見開いた。
「私の心が壊れても構わん……
この学園を、この世界を潰そうとする輩を、
私は捨て置くわけにはいかんのだ」
未だ姿の見えぬ敵に向かって、ダンケルは心底怒っていた。
すでにシャーリーは彼の闇の魔力に恐怖を感じていない。
あらゆる色が混ざれば、それは闇と同じ黒色になる。
ダンケルの持つ魔力は、様々な個性を持つ学生たちが集う学園
そのものを表しているように、彼女には感じられた。
「やってくれるね?」
「……はい!」
ダンケルは、シャーリーの力強い返事ににっこりと微笑みを返した。
クロム・マグナ魔道学園の反撃が始まる──!
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